二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

白いからす

INDEX|2ページ/4ページ|

次のページ前のページ
 



新幹線での羊朗さんとの会話は本当に楽しかった。でも、タクシーに乗り換えてから空気は一変する。
タクシーのドライバーさんに羊朗さんが行き先の分かる地図を渡しのだ。それは行き先の住所がナビに入れても、ちゃんと最後まで案内されないところ、もしくは新しいナビでは番地が登録さえされてないところが目的地であることを意味していた。切符を見た時によぎった悪い予感は正しかったのだ。
「騙したみたいで、いや、私は鈴芽さんを騙してここまで連れて来た。でも私にはどうしても行かなければならないところがあるのだ。力を貸して欲しい。」
母親をなくした悲しさや、独りぼっちの寂しさは草太さんと環さんのおかげでもう殆ど無くなっている。胸に重い杭が突き刺さったようなこの感情は罪悪感だ。ずっと気付かない振りをして逃げてきた。私も覚悟を決めなければならない。
「分かりました。行きましょう。」

無言となったタクシーの車内を景色が通り過ぎていく。羊朗さんは窓から見える遠くに海が覗く真っ平らな一面の草原の根元に家の基礎が見え隠れすることに気付き、瞳を閉じて少し頭を下げ、拳を握った。それは黙祷であったが、私には自らを責めているようにしか見えなかった。

「ここが私の家だった場所です。」
目的地の少し手前でタクシーを降り、羊朗さんの車椅子を押して、私はあの時以来の帰省をする。
「ここまで連れて来てくれて、ありがとう。少し私に時間をくれないか?」
こくりと頷くと、羊朗さんは車椅子のステップから足を下ろし、土が積もった地面に両膝をつき、片腕で手を合わせる時の形を作って背中を丸め、私の母やあの日失われた命に祈りを捧げていく。その気持ちは本当に有り難かった。でも、ここが本当に目的地でないことに私はもう理解していた。
とんびが高い空で鳴き、それを合図にして、羊朗さんは杖を使って立ち上がり、私に顔を向ける。
「鈴芽さん。私を後ろ戸のところまで連れて行ってくれるか。」

車椅子を押す私の足は重かった。このまま羊朗さんを連れて行って良いのか?草太さんに言わなくて良いのか?私の中にずっとあった罪悪感が思考を邪魔する。答えが出せないままあの扉に辿り着いてしまう。



「このドアがそうです。」
鈴芽さんが扉に絡まった蔦を剥がし、再び車椅子の後ろに付く。
「ここからは自分の足で行かせてくれ。」
杖を地面に刺すように力を込めて立ち上がると鈴芽さんがすぐ体を支えてくれた。
「扉を。」
鈴芽さんも覚悟したように頷き、ドアノブを掴み手前に引く。
過去の文献通り鈴芽さんが一緒であったので私にも常世が見えることが出来た。
どこまでも広がる原っぱと様々な色が混じった空、そして、太陽が沢山あるのではと錯覚するほどの満天の星。こんな気味の悪い世界に、幼かった頃の鈴芽さんは迷い込み、歩き回ったのか。その時の気持ちを想像し、心臓を鷲掴みされたような痛みを感じた。
一度深呼吸をして、鈴芽さんに目配せをする。
中に入ると、悪寒は更に増す。人の気配が全くしないことがこんなに気持ち悪いものだとは。
少しの時間、この世界を観察してから私は目的のために歩き始める。
いくつもの病気や怪我を経験し、年老いた体には舗装されてない場所は堪え、一歩踏み出すごとに激しい痛みが走る。しかし、この異常な空間のおかげか、体力を奪われることはなく、前に進むという意志さえあれば、気を失わずに歩ける。自分の弱さや孫のことなど、色々なものを言い訳にして逃げて来た私には相応しい罰だと思えた。
そして、ついに地面に刺さる黒い石のところまで辿り着く。
随分と時間を頂いてしまいました。今度こそあなた様と一緒にお役目に就かせてくださいませ。

作品名:白いからす 作家名:aoi