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いじめたい

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やがて雲雀はその鬱憤を晴らすように人を咬み殺すようになった。ツナと同じように弱く小さな者。けれどどういうわけか、ツナを苛めた時のような高揚感はない。それどころかだんだんと馬鹿らしくなってきた。それならばと強く傲慢そうな者を標的にしてみるがやはりつまらない。
一人がだめなら二人、三人、と咬み殺していき、それでもツナの代わりにはならなかった。だからといって他に方法が思い浮かばなくて、学校中の、そして並盛中の群れを咬み殺していく。いつかツナが帰ってきた時、自分だけが彼を苛められるように。他に狙う奴がいないように。不良を片っ端から咬み殺して秩序を正していった。そうしているうちに、自分が中学生になる頃には、いつのまにか並盛の支配者にまで登りつめてしまった。
「ヒっヒバリ!」
悪いことをしている奴もしていない奴も、自分を見るだけで肩を竦め震え上がる。
群れの一人がつかみかかってきたのを、すっと避けてひじで顎を狙う。男は簡単に気を失ってしまった。
(……気持ち悪い)
ふと素手で人の体に触れるのが気持ち悪くなって、その日から雲雀はトンファーを使うようになった。
もう習慣のように並盛の秩序を正していくうちに、いつのまにか自分の周りにはリーゼントの男が増えた。悪さをする不良もぐっと少なくなり、平和になった並盛で、それでもツナはまだこの町へ戻ってはこなかった。



中学の屋上で並盛を見渡して、雲雀は思う。思い浮かぶのは小学生のツナの泣き顔、怯えた顔。そんな表情しか思い出せない。一生懸命記憶の糸を手繰り寄せるが、他の表情なんて全く思い出せなかった。
(綱吉、綱吉)
頭の中を、心の中をいっぱいにされて、雲雀は途方に暮れた。彼の家を訪ねにいくのももう習慣だ。あの家に光が灯ったことなど一度もない。
(早く彼をいじめたい)
また怯えた顔が見たい。殴りたい。触れたい。会いたい。会いたい。僕は本当は。
――本当は、笑顔を見たかった。
ただ、笑顔を見たかった。自分だけが彼の笑顔を見ていたかった。他の誰にも見せたくなんかない。でもどんなにがんばってもそれができなかったから、それ以外の表情だけでもすべて独占したかった。自分だけが彼を泣かせて、怯えさせて。その瞬間だけは、あの大きな瞳に自分だけがうつる。自分だけを意識してくれる。
「どこへ行ったの。ねぇ。綱吉」
胸に迫った思いを、抑えきれず零れた呼びかけは、どこにも届くことなく溶け消えてしまった。


それは翌年の入学式だった。半ば諦め気味に体育館の二階から、入学式の新入生の群れを眺める。一人ひとりに視線を遣るが、やはり彼はいない。雲雀は諦めて体育館を出た。
前から必死に走ってくる人影が、石に躓いて盛大に転んだのを、その時雲雀は何の気も無くぼんやりと見た。痛そうに鼻をさすりながら、おもむろに体を起こした、彼。雲雀は目を瞠る。見間違えるはずもない。彼だ。背は伸びた。けれど相変わらず年不相応に小柄。髪の色も瞳の色も、昔と同じ蜂蜜色。大きな瞳がこちらを向いた。視線が合って。何を言おう。何て話しかけよう。一体どこへ行っていたの。綱吉。綱吉。頭の中にいろんなことが浮かんだその一瞬、ツナはみるみる顔を青ざめさせて唇をわななかせた。
「ひー!」
ツナはあっという間に踵を返して、走り逃げてしまった。

僕だよ。忘れたの?
問いかけたい気分になったが、雲雀は口を噤む。覚えているからこそだ。小学生の時の仕打ちを覚えているからこそ、彼はきっと自分が怖くて憎くて仕方がない。自分が悪いということは十分承知しているが、やはり拒絶されてしまうのはひどく苦しいことだった。
「綱吉」
無理やり教師を使ってツナを呼び出して、二人きりになった応接室。まず何から言えばいいのかわからなくて、とにかく彼の名を呼んだ。
ツナはそれに怯えたように顔を上げる。「ヒバリさん」と小さな唇が小さく震えて声を零した。
まっすぐに見つめられて、心臓がどうにかなってしまいそうだった。あふれ出した気持ちが自分に何をさせてしまうのかひどく怖くなって、雲雀は途方に暮れる。どうすればいいのかと困惑した瞬間、ガッと音が響いた。その音にびっくりしてツナを見ると、ツナは頭を抑えてうずくまっている。
どうしたの、と問いかけかけてはっとした。自分が殴ったのだ。
「……綱吉」
頭を撫でながら、ツナはじっと雲雀を見上げた。涙が滲んでいるようだった。
「なんで殴るんですか」
「それは……」
「ヒバリさんって、何も変わってないんですね。どうしてそんなにオレを苛めたがるんですか」
苛めたいわけじゃない。そういうわけじゃない。けれど気持ちを言葉にするのはひどく難しかった。なんて言って伝えれば信じてもらえるのか分からなかった。
ただ黙りこんでいると、様子を伺っていたツナは諦めたようにため息を零す。
「もういいです。もうオレには、お願いですから構わないで下さい。今はもう、ヒバリさんにはいっぱい憂さ晴らしの相手がいるじゃないですか。学校中に」
「違う、綱吉」
「オレもヒバリさんの視界に入らないように――ヒバリさんに二度と会わないように、気をつけますから」



せっかくすぐ近くに彼はいるのに、話しかけることすら叶わなかった。
目が合ったと思ったらすぐに身を翻してしまう。これみよがしに避けられている。
(それでも――)
ただ、そこにいてくれるだけでうれしい、だなんて。思ってしまう自分にはっとする。探しても探しても見つからなくて、待てど待てど会えなかった数年間。
小学生の頃からの思いは、もう引き返すこともできぬほど。
どうすればまたあの瞳に自分を移してくれるのだろう。必死に考えて、できる限り彼を助け守ってやった。困惑したような顔で、それでも「ありがとうございます」と言ってくれるのは、小学生の頃と何も変わらない。
廊下で転ぶことなんて日常茶飯事だ。腕をぐいと引っ張って立たせてやる。「廊下を走ったら危ないだろ。」そう言おうと思ってやはり飲み込んだ。小言なんて言って、これ以上自分の印象を悪くしたくなかったから、ただ黙って彼の頬を見る。柔らかそうなそこは少し擦り剥けていた。
「オレ、ヒバリさんが何考えてるのか全然わかんない」
俯いてしまった彼の表情は、どこか泣き出しそうに思えた。


三連休の、ちょうど真ん中の日。
守るもののある時の戦い方なんて知らない。今まで守るものなどなかった。ただひたすら獲物を狙えばいいだけだった。
数十人の男に囲まれて、髪を掴まれているツナは今にも泣き出しそう。巻き込んでしまったこと、怖い思いをさせてしまったこと。いろいろなことが雲雀の胸を掻き毟る。とにかく一ミリの傷もつけさせたくなくて、必死にツナを庇いながらトンファーを振るった。
やっと全員を倒せた時には、みっともなく息が上がってしまっていた。腕につっと何かが流れる。血だ。自分の血なんて初めて見たな、と冷静に思ったところで、雲雀ははっとツナを振り返った。ツナは腰が抜けたように座り込んで、呆然とこちらを見ていた。
「綱吉、怪我は?」
駆け寄って体中を検めるが、返り血はあるもののツナ本人の怪我はなさそうだ。
作品名:いじめたい 作家名:七瀬ひな