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ワクワクドキドキときどきプンプン 2日目

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「うむ! 先日の一件でも、冨岡は即座に竈門少年の思惑に気づいただろう? 冨岡、竈門少年の体の傾きや足の運びから、竈門少年が方向転換すると察したんじゃないのか?」
 くりっと義勇を振り返り見てたずねる煉獄につられ、炭治郎が義勇に視線を向けると、義勇は、わずかばかり戸惑った様子を見せながらも小さくうなずいた。
 煉獄たちと出逢ったときの一幕は、記憶に新しい。繋がれた犬を逃してくるなんて誰にも言わずに走り出したのに、なんで義勇には考えてることがわかっちゃったんだろうと不思議だったけれど、答えは剣道のおかげということか。
「そんなほんのちょっとのことでわかるんですか!?」
「煉獄さんもわかる?」
「わかるとも! 鱗滝殿やうちの父上ほどともなれば、相手の目や息遣いだけで次の動作を読むぞ! 残念ながら俺はまだその域にはおよばんがな!」
 禰豆子と一緒になって聞けば、煉獄は言葉ほどには悔しげでもなく言って笑う。
「へぇーっ! 錆兎や真菰もできるのか?」
「真菰ちゃんすごいね!」
 大興奮で聞いた炭治郎と禰豆子に、二人はそろって肩をすくめた。
「まだ無理だな。でも絶対に爺ちゃんと同じくらい強くなってみせる」
「そのために稽古してるんだもんね。もっと大きくなったら煉獄さんにだって勝つよ」
「煉獄さんにも? うわぁ、すごい! 真菰ちゃんがんばって!」
「うん。ありがと、禰豆子ちゃん。がんばるねっ」
「ふむ、煉獄道場を継ぐ身としては負けられん! 俺も今まで以上に鍛錬に励むとしよう!」
「チビっ子相手に派手に大人げねぇ……と、言いたいところだが、こいつら歳のわりにはかなりできるのが素人の俺でもわかるからなぁ。うかうかしてらんねぇぞ、煉獄」
 キャッキャと笑いあう禰豆子と真菰は楽しそうだ。打ち負かすと宣言された煉獄もニコニコしているし、宇髄もどこか愉快げだった。
 みんなが笑っているなか、義勇だけはいつもの無表情。ちょっぴり寂しいけれど、それでも錆兎たちを見る義勇の目はとてもやさしくて、楽しそうな匂いが少し嗅ぎ取れた。
 よかった、義勇さんも楽しそうだ。うれしくなりながら炭治郎が、義勇さんも頑張ってくださいと応援しようとしたとき。

「あ、そうだ。炭治郎と禰豆子も剣道やってみるか?」
「それ、いいアイディア! ね、禰豆子ちゃん、炭治郎も。剣道やらない?」

 ポカンとした炭治郎と禰豆子に笑顔を向け、錆兎と真菰は、いかにも名案とばかりになんだか興奮気味に詰め寄ってくる。
「うちに通えば、義勇の弟弟子と妹弟子になれるぞ」
「義勇が炭治郎や禰豆子ちゃんのお兄ちゃんになるよ。私と錆兎もね」
 え? 義勇さんがお兄ちゃんって……なにそれすごい。とっさに炭治郎は隣に座る義勇をパッと仰ぎ見たけれど、炭治郎のはち切れそうな期待とは裏腹に、義勇は小さく首をかしげただけだった。いつもと同じ、なにを考えているのかわからない無表情だ。
 でも、そわっとした期待の匂いがかすかにする。炭治郎はなんだか「うわぁ!」って叫びたくなった。
 だって義勇の弟弟子になるってことは、錆兎や真菰が義勇のことを弟って言って撫でたりかまったりするように、義勇も炭治郎のことをいっぱい撫でてくれたりするってことで。炭治郎が禰豆子たちのお兄ちゃんなのと同じように、義勇が炭治郎のお兄ちゃんになってくれるってことで。
 そうしたら、義勇みたいに強くなれるかもしれない。観の目っていうのを炭治郎も使えるようになったら、もっと義勇のことがわかるようになるかもしれない。義勇ともっとずっと仲良くなれるかもしれないってことだ。

 うわぁ、うわぁぁ、うわぁぁぁっ!! なにそれ、すごい!

 やりたいと大きな声で言かけた炭治郎を止めたのは、煉獄の一言だった。
「だが、竈門少年の家からでは、こちらに通うのは厳しくないか?」
「煉獄……おまえさぁ、空気読んでやれよ……」
 悪気なく炭治郎をしょんぼりさせた煉獄に、宇髄が軽いため息とともに言う。べつに煉獄が悪いわけじゃない。煉獄の言うことはもっともだ。
 なにせ、鱗滝の家は炭治郎にとっては遠すぎる。バスで通うにしても、炭治郎にはお兄ちゃんとして禰豆子たちの面倒を見るという重要な使命があるのだ。竈門ベーカリーの看板息子としては、お店のお手伝いだってしなくちゃいけない。
「剣道ならうちでも教えてやれるぞ! 竈門ベーカリーからもそう離れてはいないし、竈門少年、禰豆子と一緒に煉獄道場に通うのでは駄目か?」
 見る間に意気消沈してしまった炭治郎を、煉獄が気遣ってくれているのはわかる。あわてさせてしまっているのも申し訳ない。だけど、そういうことじゃないのだ。
「こちらとは流派が違うが基本は同じだ! うちの稽古も厳しいが、竈門少年たちならきっといい剣士になれるだろう。大歓迎するぞ!」
 そう言って笑ってくれるのは、とってもありがたいことだと炭治郎だって思う。でも違うのだ。
 煉獄のことは好きだけど。煉獄がとても強いことだって稽古を見ていてわかるけれど。本当に、本っ当に、申し訳ないと思うけれども。

 そうだけど、そうじゃない。

 煉獄を見る錆兎と真菰や宇髄の目も、そう言っていた。
 みんなにじとっと睨まれて、ん? と首をかしげて一同を見回した煉獄は、義勇が目に入ったと同時に、己の失態に気づいたらしい。
「冨岡、すまん! 竈門少年を横取りしようとしたわけじゃないぞっ!」
 さっきよりも盛大にあわてた煉獄の言葉に、炭治郎が義勇に視線を向けると、義勇は無表情のまま膝を抱えていた。感情の読めない瞳は変わらない。でも少し伏せられた瞼。落ちた肩。落ち込んでいるのが誰の目にもよくわかる。
 かすかに感じた悲しい匂いに、炭治郎もあわててしまう。
 どうしよう、義勇さんを悲しませちゃった! だけども、絶対に煉獄さんのところには行きませんなんて言うのは、親切で誘ってくれた煉獄に悪くて口にはできない。どうしようと迷っていたら。

「でも、煉獄さんのとこに行ったら、ぎゆさんの妹にはなれないんでしょ? 禰豆子、真菰ちゃんと一緒がいいなぁ」

 空気を読んだわけじゃないだろうけれど、禰豆子がちょっと残念そうに言ったのに、錆兎や宇髄が強くうなずいた。
「禰豆子よく言った! 大事なのはそこだ、そこ!」
 宇髄に睨まれた煉獄はめずらしく困り顔だ。男らしい眉毛がへにょりと下がっていた。
「しかし、通いきれんのならしかたないだろう? 勝手に決めたところで親御さんの意見もあるからな。その話はまた改めて相談することにして、いい加減風呂に入ってこい。飯が遅くなるぞ」
 煉獄への助け舟は、道場に戻ってきた鱗滝の苦笑まじりの鶴の一声。一同顔を見合わせて、言葉もなく立ち上がる。小さな騒動は一旦保留だ。なにせみんな育ち盛り、空腹には勝てない。


 ぞろぞろと母屋に向かう途中、炭治郎は隣を歩く義勇をこっそり盗み見た。義勇の顔には、さっきの落ち込みなどまるで見当たらない。義勇も残念だと思ってくれたのならいいのだけれど。炭治郎が残念に思うほどには、義勇は気にしていないのかもしれない。