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ワクワクドキドキときどきプンプン 2日目

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 ちゃぶ台で錆兎と炭治郎が、人参をスライサーで千切りにしている。その向かいでは、包丁を握った宇髄がひたすらキャベツを千切りしていた。その手際の良さには禰豆子も真菰もビックリだ。すごく早いしキャベツも細い。まるでコックさんみたいだ。
「すごい、宇髄さん上手!」
「ふふん、だろぉ? もっと派手に褒めていいぞ、禰豆子。あと、さっきは悪かったな」
 自慢げに言ったかと思ったら、すぐにバツが悪そうに謝ってきた宇髄に、思わず笑ってしまう。派手な服装だし口も悪いしで、ちょっと怖い人に見える宇髄だけれど、本当はやさしい人なんだとこういうときによくわかる。
 もともと禰豆子はくよくよ悩まない。怒りも持続しない質(たち)だ。だからこんなふうに謝ってもらうと、悲しい気持ちよりうれしい気持ちのほうがずっと大きくなって、ニコニコとしてしまう。
 さっきのジャンケンのことはもう忘れちゃおう。スパッと思い切ると、禰豆子は宇髄の隣に腰を下ろし、にっこりと笑いかけた。だって宇髄も煉獄もいい人だし、禰豆子はやっぱり二人が好きなのだ。
「いいよ。でもなんでお台所でしないの?」
「流し台が俺様には低すぎんだよ。全員で立つには狭いしな」
 なるほど。鱗滝が立っている流し台は宇髄には低そうだ。見上げるのも大変なほど宇髄は大きいから、このほうが楽なのだろう。
「炭治郎、煉獄が戻ったら先に風呂に入れよ。俺と天元は後でいいから」
 錆兎に言われて、そういえば煉獄の姿が見えないなときょろきょろと真菰と一緒に見回すと、気づいた宇髄が苦笑した。
「煉獄は道場で布団敷いてるよ。あいつ、ビックリするぐらい料理できないから戦力外」
「義勇、炭治郎たちが帰るまでみんなで道場で寝るんでもいいだろ? 俺らと義勇の布団も煉獄が道場に運んだから」
 こくりとうなずいた義勇に、炭治郎がうれしげに笑ったのを見て、禰豆子も顔を輝かせた。みんな一緒がうれしいのは禰豆子も同じだけれど、炭治郎が幸せそうなのが禰豆子にはなによりうれしい。
「それじゃ真菰ちゃんと一緒に眠れるの?」
「やったね。隣で寝ようね、禰豆子ちゃん」
 キャッキャと笑い合ってるうちに煉獄が戻ってきて、禰豆子に気づいた途端ぺこりと頭を下げた。
「さっきは傷つけてしまってすまなかった! 女の子と一緒に風呂に入るというのは初めてで、どうにも照れてしまったのだ。本当に申し訳ない!」
「禰豆子のことが嫌いなんじゃねぇから」
 宇髄にも改めて頭を下げられ、禰豆子は一瞬きょとんとして、すぐにまたにっこりと笑った。
「大丈夫、もう悲しくないよ。真菰ちゃんやぎゆさんとお風呂入るの楽しかったもん」
 それならよかったと二人が笑ってくれるのがうれしい。やっぱり宇髄も煉獄もいい人だ。小さな禰豆子にも、誤魔化したりしないでちゃんと謝ってくれる。
 やさしく笑った煉獄が頭を撫でてくれて、禰豆子はますますうれしくなった。

 だから禰豆子は気がつかなかったのだ。炭治郎がちょっと悲しそうな顔をしたことに。



 一日目の夕飯は義勇の大好物だという鮭大根と、コロッケとメンチカツがいっぱい。炭治郎たちがくるからと、鱗滝がたくさん買ってきてくれたらしい。
 宇髄が千切りしたキャベツは、炭治郎と錆兎が千切りした人参と一緒にコールスロードレッシングで和えられた。きれいな千切りに煉獄がしきりに感心していたのがおかしい。どっちも大皿でドンッと置かれている。
 禰豆子と真菰も、義勇と一緒にお皿を出したりしてお手伝いした。それを見ていた鱗滝はずっとにこにこと笑っていて、お父さんやお母さんの躾がしっかりしているんだろうと炭治郎や禰豆子を褒めてくれた。
 お母さんが作ってくれるいつものご飯も好きだけれど、こんなふうに友達と一緒に食べるご飯は、なぜだかいつもよりおいしく感じるから不思議だ。炭治郎と真菰に挟まれて、禰豆子はご機嫌だった。
 反対隣りの義勇へと笑顔を向けつつご飯を頬張る炭治郎に、禰豆子は上機嫌なまま「あのね、お兄ちゃん」と話しかけた。
「禰豆子ね、ぎゆさんに頭を洗ってもらったの。ぎゆさん頭洗うの上手だったよ。真菰ちゃんと一緒にぎゆさんの頭も洗ってあげたんだぁ。それにね、禰豆子が自分で体洗って、ちゃんと耳の後ろも洗ったら頭撫でてくれたんだよ。肩まで浸かって百数えられたら、偉いって言ってくれたの!」
 炭治郎の向こう側で、義勇がこくりとうなずいてくれる。炭治郎も笑ってくれたから、禰豆子はもっと炭治郎を喜ばせたくて、炭治郎の耳に唇を寄せて内緒話もした。
「あとね、内緒だけど、ぎゆさんお尻に傷があるの。ちっちゃいころに犬に噛まれちゃったんだって。ぎゆさん、だから犬が苦手なの。内緒だよ? でもね、禰豆子がもう痛くない? って聞いたら、大丈夫って言ってくれたよ」
 義勇のことが大好きな炭治郎に、教えてあげようと思ったのだ。義勇のことなら炭治郎はきっと、なんだって知りたいはずだ。そうなんだと、教えてくれてありがとうと目を輝かせ、笑ってくれると思った。それなのに。
 一瞬だけだった。炭治郎がどこか痛そうな、悲しげな顔をしたのは、ほんの一瞬。すぐに明るくてやさしい笑顔をみせてくれた炭治郎は、いつもどおりのお兄ちゃんだ。
「そっかぁ、褒めてもらえてよかったな、禰豆子」
 声だっていつもと変わらずやさしい。それでも見間違いなんかじゃない。キュッと眉が寄って、赫い瞳が揺れたのを、禰豆子は見た。

 まただ。きっとまた炭治郎は、なにかを我慢した。

 どうして? と、禰豆子の顔も悲しくて歪む。泣きたくなってくる。
 なんでお兄ちゃんは我慢しちゃうんだろう。義勇はきっと怒ったりしないのに。禰豆子だって、もしも炭治郎が我儘を言っても嫌いになったりしないのに。悲しいなら悲しいと言ってほしい。だって。
「禰豆子ちゃん? どうしたの?」
 箸を止め黙り込んでしまった禰豆子に、真菰が話しかけてくれる。だけど心配そうな声に禰豆子は笑い返せなかった。
「どうして……? お兄ちゃん、どうして我慢するの? なにが悲しかったのか言ってくれないと、禰豆子、わかんないよ」
 大好きなお兄ちゃんが悲しんでる。それが悲しい。それなのに、なにが炭治郎を悲しませたのかわからないから、悔しい。わからない自分にちょっぴり腹も立つ。グッと喉の奥が詰まり、禰豆子の目に涙が浮かんだ。
 禰豆子が突然泣き出したものだから、みんながギョッと目をむいている。ご飯の最中に泣き出すなんて、少しだけ恥ずかしくもなった。けれど、涙は勝手にぽろぽろと落ちる。
「禰豆子、どうしたんだ? どっか痛いのか?」
 炭治郎だって心配してくれているのに、涙が止められない。
「ねぇ炭治郎、今なにか我慢した? 我儘言いたいのに言わなかったの?」
 きっと禰豆子の涙のわけに気づいてくれたんだろう。真菰が炭治郎に聞いてくれた。真菰は禰豆子と同じ一年生なのに、本当にお姉ちゃんみたいだ。
 悲しい気持ちの片隅で、いいなと禰豆子はちょっと思う。

 真菰ちゃんはいいな、大人の人みたいでいいな。禰豆子もお兄ちゃんが頼ってくれるぐらいお姉ちゃんになりたいのに。

 お姉ちゃんは泣いちゃダメと思うのだけれど、悲しくて悔しくて、涙はぽろぽろ零れて落ちる。