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ワクワクドキドキときどきプンプン 3日目

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 村田がわめいても、誰も慰めようとしないのはちょっと気の毒だった。けれども村田を気にしている余裕は炭治郎にもなくて、義勇が所在なさげに一人で立っていることのほうが気になってしまう。
 義勇自身は映画になんて出る気はなかったろうに、炭治郎や禰豆子が出てみたいなんて言ったせいで頑張ってくれているのだ。これ以上困らせたり疲れさせたりしたくない。
 どうしよう、どうすればいいのかな。炭治郎が悩んでいると、炭治郎の体がヒョイと抱え上げられた。
「こいつの目線が高くなりゃいいんだろォ、こうすりゃ解決じゃねぇか」
 そう言った実弥の腕に抱えあげられて、炭治郎は目を白黒させた。いつの間にか実弥の腕に抱かれていた寿美は玄弥と手を繋いでいる。小さい子のように抱っこされた炭治郎に、みんなの視線が集中するのが恥ずかしい。
 前に義勇が抱っこしてくれたときは、恥ずかしかったけれどうれしさのほうが勝っていた。けれどもさすがにこれは居たたまれなくて、どうしようとオロオロと視線をさまよわわせた瞬間、ふわっと炭治郎の鼻をくすぐったのは「好き」の匂い。
 とっても淡くて感じ取るのもむずかしいほどだけれど、お父さんとお母さんが笑い合っているときに、ときどきふわりと香る甘くてやさしい匂いだ。
 誰から? なんて、探るまでもない。こんなに淡い匂いが感じられるほど近くにいるのは、炭治郎を抱き上げている実弥しかいないのだ。
 でも、誰に? この人が好きなのは誰? 炭治郎が実弥の視線を辿ると、そこには義勇が立っていた。
 視線を向けた途端に義勇と目が合ったのは、義勇がずっと炭治郎を見ていたからだろう。
 炭治郎をじっと見つめている義勇の目を見返しても、義勇がなにを思っているのか炭治郎にはわからない。匂いで読み取ろうにも離れているからそれもできなくて、炭治郎は義勇の視線からのがれるようにうつむいた。
 義勇の前で違う人に抱っこされているのはなぜだか焦るし、義勇を見ている実弥から好きの匂いがするのはもやもやする。炭治郎がすっかり困り果てても、みんなは気づいてくれない。
「なるほど、これなら視線のバランスもとれますし、ヒロインの自然な笑顔が引き出せそうですね。じゃあ、これでやりましょうか」
 前田の言葉に嫌だとも言えず、実弥に抱っこされている自分を義勇の目から隠すことだってできず。炭治郎がなんだか泣きたい気分になったそのとき、大きな笑い声が近づいてきた。
 大人数っぽいけど、なんだかあまりいい笑い方じゃない。笑い声に混じって乱暴な言葉遣いの話し声も聞こえてくる。
 それぞれの声に聞き覚えはないのだけれど、言葉遣いにはなんとなく覚えがあった。
 聞いていると嫌な気分になる言葉ばかりで、ずいぶんとガラが悪い。こんな言葉遣いの人は周りにはいないのに、どこで聞いたことがあったんだろう。考えだしてすぐに、炭治郎は、思い当たった記憶に思わずムッと頬をふくらませた。

 それは、前にこの公園で犬に石を投げつけていたやつらの、義勇を馬鹿にしていたときの言葉とよく似ていた。

「困りますねぇ、ちゃんと立ち入り禁止って札をかけてあるのに、入ってこられちゃ迷惑ですよ。こっちはちゃんと公園の管理事務所にも許可を貰って撮影してるってのに……」
 言いながら前田がちらっと視線をやる先で、宇髄がげんなりとした顔をして肩をすくめていた。
「追っ払ってくりゃいいんだな。了解」
 嫌な声を聞かずに済むのはうれしいけれど、撮影が止まるのはありがたいような困るような。もう義勇と一緒のシーンはないなら、早く終わって欲しいと思うのはたしかなんだけれども、実弥に抱っこされた姿を義勇に見られているのもちょっとつらい。それに実弥からする好きの匂いを、あまり嗅いでいたくない。

 せめて撮影が始まるまでは降ろしてくれないかな。義勇さんは俺が違う人に抱っこされてるの、どう思ってるんだろう。

 不安で、でも義勇に視線を向けることもできなくて。とにかく早く終わってほしかった。
 実弥はなにも悪くない。むしろ撮影のためには感謝すべきだ。けれどどうしても好きの匂いが気になって、胸の奥がざりざりと削られているみたいだ。痛いし苦しいし、頭がカッと熱くなるような感じもする。
 義勇の特別なは錆兎と真菰だと感じるたび、胸がもやもやするのはヤキモチだと、炭治郎はもう知っている。でも、実弥の匂いに感じているこれは、なんだか錆兎たちへのヤキモチとはちょっと違う気がした。
 もやもやよりも乱暴で、怒りたくなるような泣きたくなるような、嫌な気持ち。これもヤキモチなんだろうか。
 義勇のことを好きなのは、自分だけがいいなんて。そんなのとんでもない我儘だし、とってもひどいことを思っていると、炭治郎はキュッと唇を噛んだ。
 義勇のことが大好きなのは、きっと炭治郎だけじゃない。錆兎や真菰だってそうだし、禰豆子だって義勇にとっても懐いている。義勇を独り占めしたいと思うけれど、誰も義勇を好きにならないでとは思ってなんかなかったはずなのに。
 なのになんで、実弥が義勇のことを好きになるのは嫌だと思ってしまうんだろう。
 実弥のことが嫌いなわけじゃない。義勇にやさしくしてくれたし、玄弥たちのお兄ちゃんでもあるんだから、きっといい人なんだろう。義勇とだってきっと仲良くなれるはず。

 でも、やだ。
 義勇さんのことが好きな人と、義勇さんが仲良くなっちゃうなんて、やだ。
 俺が一番好きなのに。義勇さんのこと、一番大好きなのは俺なんだからっ。

 我儘だけど、悪い子かもしれないけど、義勇に一番好きになってもらうのは自分がいい。炭治郎が好きなのと同じぶんだけ、義勇にも好きになってもらいたい。義勇の特別になりたい。
 錆兎や真菰にはまだまだ負けてるかもしれないけど、昨日知り合ったばかりの実弥には負けたくないし、絶対に負けるもんか。

 よしっ、と、意を決して顔を上げた炭治郎が、実弥に降ろしてくださいというより早く、大きな怒鳴り声が聞こえてきた。宇髄の声もする。
 ピクリと実弥の腕が一瞬強張って、すぐに炭治郎の体が降ろされた。
「おい、玄弥ァ。チビども任せっから、ちゃんと見とけやァ」
 見上げる炭治郎には目もくれずに、実弥は宇髄が向かったほうへと歩いて行く。煉獄もすでに竹刀を手に歩き出していた。
 錆兎がつづこうとするのを、玄弥があわてて止めた。
「おいっ、おまえは行ったら駄目だって! 危ねぇぞ!」
「足手纏いになる気はない。心配無用だ」

 なにが起きてるんだろう。わからないけれど、なんだか怖いことが起きてそうな気がする。少し怯えて義勇を振り返り見ようとした炭治郎の肩を、当の義勇がそっとつかんだ。

「……俺が行く」

 錆兎と真菰の目は一気に険しくなったし、炭治郎も驚いたけれど、真っ先に口を開いたのは玄弥だった。
「な、なに言ってんだよ、駄目に決まってんだろ! あんた狙われてんだろ?」
「足りない」
 義勇の言葉の意味をつかみかねたのか首をかしげる玄弥と違って、錆兎と真菰は眉を怒らせ進み出ると義勇の前に並んだ。