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ワクワクドキドキときどきプンプン 3日目

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「おいっ、あいつがなんでいんだよっ」
 早くも及び腰になる輩に、宇髄が軽い口笛を吹いた。
「さすがは有名人。最初からあんたにお出まし願えばよかったな」
「今からでも遅くねぇぞォ。テメェらは戻ってろ。俺だけで十分だァ」
 そうだろう? と言わんばかりに雑魚の群れを睥睨すれば、怯えの波がますます広がっていく。
「ふむ。たしかにこのままこいつらが引いて、今後うちの学校の者への手出し無用となるなら、それが一番だが……さて、どうする」
 宇髄へ問いかけた煉獄の言葉に、先頭に立っている男が気色ばんだ。
「やっぱりテメェら、キメ学か。不死川、キメ学のやつらとつるんでるなんて聞いてねぇぞ!」
「つるんでるわけじゃねぇよ。テメェらと一緒にすんじゃねェ。だが、弱い者いじめを見過ごすわけにはいかねぇなァ」
「おい、弱い者いじめだとよ」
「むぅ。見くびられたものだ」
 実弥の言葉じりをとらえて呑気に会話する宇髄と煉獄に、思わず脱力しそうになる。そんな場合ではなかろうにと、イライラと睨みつければ、宇髄は飄々とした笑みで肩をすくめ、煉獄は憮然と顔をしかめていた。
「つるむ云々はともかくだ。先ほども映画のカメラマンを務める生徒たちが、君らに絡まれたと言っていたぞ。おかげで撮影がおしている。ヒロイン役は俺たちの友人なのでな。あまり気疲れさせたくない。ここは引いてくれないだろうか。それこそ俺の剣は、弱い者いじめをするためにあるわけではないのでな」
 力みのない立ち姿だが、煉獄の姿勢に隙はない。挑発とも聞こえる言葉にも、気負った響きは感じとれなかった。
 言葉はともかく、煉獄が臨戦態勢であるのは間違いがない。ちらりと見やれば宇髄も何気なく立っているようでいながらも、いつでも動きだせるのがわかる。

 なるほど。この場を治めるだけでなく、今後の憂いを断ち切っておきたいというのが本音か。

 だとすれば、この人数はかえって好都合というわけだ。これだけの人数を集めてさえ勝てない。そんなあきらめと怯えを徹底的に植えつける、格好の機会には違いない。
 悟って、実弥も小さく息を吸い込むと、ギンッと集団を見まわした。
 こいつらの警戒心は実弥にしか向いていないように見える。ということは、宇髄と煉獄は不良連中どもに名が知られているわけじゃない。転校してきて日が浅い不死川が知らないだけではなく、正真正銘、ごく普通の一般生徒なのだろう。
 二人ともそれなりに手練れなのだろうが、煉獄にも言ったとおり喧嘩と試合は違う。二人を庇いながら、さらには奥に逃げるやつがいないよう気を配る必要もある。

 こりゃ、ちぃっとばかり骨が折れるかもしれねェ。

 だが、そんな実弥の懸念はすぐさま霧散することになった。
「うるせぇ!! おいっ、たった三人だ! やっちまぇ!!」
 一人が怒鳴ったとたんに、それに背を押され一斉に襲い掛かってくる。ほとほと己の意思のない輩ばかりだ。
 拳を振り上げむかってくる集団は、わずかばかり不死川に向かう人数のほうが多いように見えた。さもあらん。転校当初に十人ほどを一人で叩きのめしたことを、忘れていないのは褒めてやろう。実弥はニヤリと笑い、向かってきた男のみぞおちに鋭く拳をたたき込んだ。

 狙うならみぞおちか顎先。一発で動けなくさせる箇所。ただし、内臓や骨を傷つけない程度に。過剰防衛に気をつけてってなもんだ。

 馴染んだ感覚に高揚する闘気とは裏腹に、実弥の頭は冷静だ。
 不安要素があるとすれば宇髄や煉獄を盾にとられることだがと、飛んでくる蹴りを避けつつうかがえば、宇髄が一人を投げ飛ばし、煉獄もまた、殴りかかってきたやつの腹に胴打ちをたたき込んだところだった。倒れ込んだ敵を一顧だにせず、二人とも息つく間もなく襲ってくる次の敵に対峙している。
 実弥も次の相手の顎先にアッパーを決めながら、少しばかり感嘆した。なるほど、こいつらは口先だけの馬鹿ではないらしい。
 竹刀を振るう煉獄の姿は、こんな場であるにもかかわらず、実弥の胸に郷愁を呼び起こす。殺陣は多勢に無勢のほうが、見せ甲斐があるもんだ。芝居ではないのに、なんとなくそんなことを思う。
 小手から面へ、返す刀で次の相手の胴へ。流れるような煉獄の剣さばきは苛烈で、まるで襲い掛かる猛火のようだ。
 それに一瞬見惚れたのは、実弥の落ち度であろう。不意に背後から襟首をつかまれ息がつまった。しまった、と思った瞬間。
 悲鳴とともに首が解放され、酸素が肺に流れ込む。即座に体勢を整え、ファイティングポーズをとった実弥の目がとらえたものは、白いサマーニットの背に揺れる長い黒髪。腕まくりした姿は勇ましいが、のぞく腕は細く、いかにも華奢だ。
「は……?」
 思わずぽかんとしてしまったのは、致し方ないだろう。
 まじまじと見つめる実弥の視線などまるで気にした様子もなく、突然現れた味方は、凛と背を伸ばして竹刀をかまえている。
「冨岡っ!?」
 思わず出てしまったのだろう。驚きがあらわな煉獄の呼びかけに、ざわついたのは敵のほうだった。
「冨岡って……あれが賞金首か?」
「は? まさか、あのネエちゃんなわけねぇだろ。探してんのは野郎だぞ」
「どっちだってかまわねぇよっ! 女人質にとりゃあ、こっちのもんだ!」
 そんな会話も、実弥の耳には遠い。ただもう呆然と白く細い背中を見つめるばかりだ。
「馬鹿っ! なんで来たっ!!」
 宇髄の怒鳴り声にハッとして、実弥もふたたび戦闘態勢をとる。とにかく冨岡だけはなんとしても守らなければ。狙われているというのにノコノコとやってきたことへの怒りはあるけれど、それを当人にぶつけているような暇もない。
 呼びかけた煉獄が、しまったという顔で冨岡に駆け寄ろうとするのが見えた。しかし、雑魚といえどもやすやすと加勢を許すやつがいるわけもなく、襲い掛かってくる輩を打ちのめすのでやっとのようだ。宇髄も大差はない。焦る気持ちは実弥とて同様だ。冨岡の一番近くにいる自分がどうにかしなければならないだろう。
 竹刀をかまえる姿勢からしても、冨岡に剣道の嗜みがあるのはたしかだけれど、実弥にしてみればそれがどうしたとしか言えなかった。試合ならばともかく、これは喧嘩だ。女の出る幕じゃない。
 女を人質にとることを恥と考える輩じゃないのは、一目瞭然。冨岡を庇いながら戦うにはこの人数は分が悪い。
 足手まといは勘弁願いたいという苛立ちよりも、冨岡の身に及ぶ危険にこそ実弥は焦る。こいつらが人質に紳士的な態度をとるなんて、太陽が西から昇るよりもありえないだろう。捕まればいったいなにをされることかと、実弥の背にヒヤリとした汗が流れた。
 即座に逃げろと怒鳴ろうとした実弥の口は、けれど、ニヤニヤと笑いながら冨岡を捕まえようとしたやつらがそろって地べたに転がったのを見て、はくりと喘ぐにとどまった。
 まさか、こんなに華奢で可憐な風情の少女が、二人同時に襲い掛かる敵を一刀のもとにたたきのめすなど、誰が思うものか。
 流れる竹刀の軌道は、煉獄の苛烈さとくらべると優美と言っていい。洗練されたなめらかな剣さばきだ。それは滔々と流れる川を思わせた。