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ワクワクドキドキときどきプンプン 3日目

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12:杏寿郎



 義勇があらわれたときこそ動転したものの、煉獄の剣はそれでも的確に敵を倒していく。焦りが消えれば、ただもうワクワクとした高揚感ばかりが胸を占めていた。
 これは喧嘩で正式な試合の場ではないから、義勇の戦いかたもイレギュラーだが、義勇の剣を間近で見られることに違いはない。これを喜びと言わずしてなんと言おう。
 煉獄も戦いながらなので、まじまじと眺めるわけにはいかない。それでも、視界の端にとらえる義勇の流れるような体さばきや、鋭く洗練された剣筋は、感嘆とともに煉獄の闘志をもかきたてる。不死川も同様らしく、先ほどまでとは動きが段違いだ。顔つきもなんだかイキイキとしている。
 宇髄はといえば、煉獄たちほどに浮かれ気分にはなれないようだ。苦虫を噛み潰したような顔をして、どうにか義勇に近づこうとしているように見えた。だが、大柄な宇髄には敵も警戒心がうずくのだろう。四、五人がまとまって襲いかかるものだから、さしもの宇髄もそうそう簡単には身動きがとれずにいる。
 たしかに、共闘を喜んでばかりはいられない。敵の狙いは義勇なのだ。今はまだ義勇が『賞金首』本人だと確信しているわけではないようだが――その理由を知れば、義勇は盛大に落ち込むだろうけれど――それでも、人質としてとらえるなら義勇が最適だと考えるのは当然だろう。
 なにしろ、義勇の今の見た目は華奢な女の子と変わらない。ユニセックスな服装も相まって、美しい少女としか思われていないのだ。現れたそのときには、だけれども。
 今はそこに、とんでもなく強いの一言が付け加えられているのは間違いない。女にいいように叩きのめされているという事実が、敵をいきりたたせていることは一目瞭然だ。不死川や宇髄に多く群がっていた敵は、今では義勇を取り囲む人数のほうが多い。
 一撃必殺が信条なのか、不死川や義勇が倒した相手は立ちあがることもできずにいる。それでも敵の数が減ったように感じないのは、煉獄の気のせいではなかったようだ。
「おいっ、派手に集まってきてやがんぞっ!」
 宇髄の怒鳴り声に周囲を見まわせば、バタバタと足音を立てて駆け寄ってくる人影が見えた。しかも一人二人じゃない。連絡が回っているのだろう。だとしたら、数はこれからますます増えるかもしれない。
「不死川をやりゃあ名前が売れるからなぁ、金儲けもできて一石二鳥だっ!」
「テメェらもそれなりにヤルみたいだけどよ、仲間はまだまだくるぜぇ? そろそろあきらめてそこのネエチャン置いて降参しろよ!」
 下卑た笑い声が上がる。『冨岡義勇』だからというわけではなく『めったに見られぬ美少女』が目当てになっているのが、ニヤニヤとした下品な笑みでわかる。まったくもって不快感ばかりをあおる輩だ。

 冨岡は女の子ではないのだが。まぁ、わかっていてもあんな格好をしていては、女の子のようでちょっとドキドキしなくもないけれども。

 ちらりと浮かんだ思考を即座に振り払い、煉獄はグッと唇を引き結んだ。
 いずれにせよ、状況は不利だ。義勇の強さは煉獄とて信頼している。だが、いかんせんスタミナ不足は否めない。長引けば体力がもたないだろう。そうなれば、どうしたって義勇を庇って戦うことになる。
 それは避けたい。義勇が敵の手に落ちるなど許しがたいのは当然として、煉獄たちに庇われることで義勇が罪悪感を募らせてしまうのも、煉獄としては避けたいところである。
 なにせ義勇の自己評価の低さときたら、筋金入りらしいのだ。ただでさえヒロイン役などという、本人にとっては不名誉なことこの上ない事態になっている。そのうえ囚われの姫扱いなどされたら、いったいどれだけ自責の念にとらわれることか。炭治郎曰く、心が迷子という状態に陥るのは想像にかたくない。
 さて、どうしたものか。宇髄の考えも煉獄同様なのだろう。焦れているのがはた目にも伝わってくる。
 不死川もまた、増えた敵に苛立ちがあらわだ。子供たちがいる撮影場所には、まだ誰も近づいてはいないのが救いだが、それもいつまでもつか。あちらには錆兎と真菰がいるから、安心……とは、言いがたいのが、また困る。
 なにしろ、あの子たちは義勇のこととなると平生の冷静さをかなぐり捨てて、かなり無鉄砲なことでも平然とするのだ。まだ浅いつきあいとはいえ、煉獄ももう重々理解している。

 あのゲスな眼鏡に子供たちを任せざるを得なかったが……それもまた、不安要素だな。

 子供たちを守る立場の年長者が、どう見ても荒事には向かない面々ばかりというのはしかたないにしても、せめて炭治郎たちに悪影響を及ぼさずにいることを祈るしかないのが、なんとも心許ない。あの面々が錆兎や真菰を抑えられるとも思えず、不死川の弟が、年長らしくいさめてくれるのに期待するしかないというのは、どうにも不安だ。
 なんてことを考えていられる余裕は、そこまでだった。

「多勢に無勢なんて士道不覚悟甚だしいぞっ、おまえら!! 男なら正々堂々一対一で勝負しろっ!!」
「人を傷つけてお金をもらおうなんて最低! そういうのって性根が腐ってるって言うんだからねっ!!」

 響きわたった高い子供の声に、ギョッとしたのは味方のほうだ。義勇参戦も比じゃないぐらい、煉獄だって驚いた。
 いや、危惧はしていたけれど。こないでほしいが、きっとくるんだろうなぁと、思ってはいたけれども。それでも、よもや
「なんで炭治郎と禰豆子までいやがんだよっ!」
「よもやよもやだ。竈門兄妹までくるとは……」
 錆兎たちがやってくる可能性は高いと踏んでいたが、それでも炭治郎たちは逃がすだろうと、煉獄は思っていた。
 錆兎たちと違って、炭治郎や禰豆子は今日から本格的に剣道を習い出したばかりだ。喧嘩だってきっと一度もしたことがないだろう。争いごとにはとうてい向かぬいい子たちなのだ。
 だというのに、炭治郎と禰豆子もしっかり錆兎たちについてきているばかりか、炭治郎はなにやら水鉄砲のようなものをかまえているし、禰豆子は禰豆子でカメラを手にしている。
「ありゃ、俺のカメラじゃねぇか」
「勇ましいのは結構だが……竈門少年と禰豆子だけか? あの眼鏡たちはどこに行ったんだ?」
 どうにか会話しつつも、煉獄も宇髄も敵を倒す手は止めない。隙を見せるには敵の数が多すぎる。
 だが、義勇はそうもいかない。炭治郎たちのもとへ駆け寄ろうとして、気がはやったのだろう。打ち込む力が弱かったのか、対峙した男は倒れず……。
「冨岡っ!!」
「ぎ……っ!」
 身をひるがえしたところで男に髪をつかまれた義勇に、咄嗟に叫んだ煉獄と、錆兎の声が重なった。しかし、錆兎は呼びかけをこらえたようだ。なぜ? と考える暇はない。少々遠いが助太刀に走ろうとした煉獄の目の前を、赤い水流が横切った。

「うわっ!! なんだこりゃっ!!」
「大丈夫ですかっ!? ぎ……じゃ、なかった。えっと、冨岡さん!」

 どうやら炭治郎が撃った水鉄砲らしいとはわかったが、なんで赤?