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ワクワクドキドキときどきプンプン 3日目

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2:杏寿郎



 昼食後、わいわいと全員でバスに乗って向かった先は、竈門ベーカリーの近くにある大きな自然公園。煉獄にしてみれば、義勇の剣技を初めて目にした、忘れがたい思い出の場所だ。
「ここで撮影するのか? ロケって言うからもっと遠くに行くのかと思ってた」
「ねー。ロケ車とかいうのに乗ってくのかと思っちゃった」
「アホか。中学生の自主制作だぜ? そんなわけあるかよ」
 なぁんだと言わんばかりの錆兎と真菰に答える宇髄の声は、皮肉げなからかい交じりで、いつもどおりだ。だけれどもどことなく、宇髄らしからぬためらいが感じられる。しきりと真菰や禰豆子をチラ見してはため息をついているのは、いったいどういうことなんだろう。
「なんだよ、天元。さっきから真菰と禰豆子見てはため息ついて。真菰たちが行ったらなにかまずいのか?」
「あー、まずいと言えばまずいような……というか、まずいことになるわきゃねぇと思いたいけど、油断がならねぇというか……」
 常の宇髄にはないため息が気になるのか、怪訝そうに言った錆兎に、答えた宇髄の言葉は、まったくもって意味がわからない。
 炭治郎たちがそろって首をかしげているが、煉獄とて疑問は同じこと。ついでに少しばかり不安にもなる。
 なにしろ、宇髄が自主映画の撮影を手伝っていることを言ってしまったのは、煉獄なのだ。なにか問題があるから隠したかったというなら、万が一の場合には、煉獄にも責任がある。
「女の子は行っちゃいけないとか?」
「……まぁ、ある意味」
 炭治郎の素直な疑問に答える宇髄の声は、どこか疲れている。
 ますますわからないと言いたげに、炭治郎が隣に立つ義勇を見上げて、「女の子が行っちゃいけない映画ってあるんですか?」と聞いている。
 問われても義勇だってわからないのだろう、少しだけ眉を寄せて小首をかしげただけだった。

 そんな義勇の肩には、昨日はなかった竹刀袋。昨日も出がけに少し揉めたのだが、義勇はできるかぎり竹刀を手元に置いておきたいらしい。ロッカーに入らないし大事な物ならなにかあったら困るだろうと宇髄が言うので、昨日は置いていくことにしたものの、竹刀を手放す義勇の顔はどこか不安げだった。
 今日はどこかに預ける必要もないということで、義勇はやっぱり竹刀袋を担いでいる。錆兎たちや鱗滝がなにも言わないところをみると、義勇にとって大事なことなのだろう。

 もしかしたらあの竹刀は、冨岡にとってなにか特別な意味があるものなのだろうか。

 竹刀の点検をする際にうかがい見た義勇の真剣な目や丁寧な手付きを思い浮かべ、煉獄は内心独り言ちる。竹刀への敬意や感謝はもちろんのこと、置いていくのが不安なほどに大切なのだとしたら、あの真剣さもうなずける。
 義勇の不安や、竹刀への執着の意味はわからない。けれど煉獄はわからないなりに、それを胸に刻みつけた。
 義勇にとって大事なことならば、自分も大事にしてやらねばと思う。錆兎たちが言う心が迷子という精神状態は、煉獄には想像もつかないが、義勇の危うさはもう承知している。そしてそれが快方に向かっていることを、喜びとともに感じていた。
 あの竹刀をおろそかに扱えば、義勇の心がまた迷子になる可能性があるかもしれない。ならば決して忘れてはいけないし、自分も気をつけなければ。
「うむ、剣士として見上げた心がけだ! 俺も竹刀を持っていくことにしよう!」
 どこかウキウキとした響きがまじってしまったのは、自分の未熟さゆえか。ちょっと恥ずかしくなったけれど、そんな煉獄の照れくささは、誰にも気づかれなかったようだ。
「はぁ? なんでだよ」
「もしかしたら冨岡が手合わせしてくれる気になるかもしれないだろう? その機会をのがさぬようにな!」
 目先が変われば、義勇も気紛れだろうと手合わせに了承してくれるかもしれないじゃないか。可能性は低いだろうが、万が一に備えて、いつでも手合わせできるようにしておきたい。
 そんな煉獄の意気込みは、残念ながら誰にも理解されなかった。
 いくらなんでも、その理由はないだろう。公園で手合わせって、決闘かよ。そっちの方が映画の撮影だと間違われちゃうんじゃない? などなどと、あきれた様子で口々に言われるとは思いもしなかった。
「よもやそこまでか?!」
 自分の行動が常識外れと思われているらしいことに少しばかりうろたえてしまう。とどめとばかりに、義勇もふるふると首を振り「……しない」とつぶやく始末だ。いつもは感情を読むのが困難な瞳ですら、なにかかわいそうなものでも見るようだった気がする。
 思わずガックリと肩を落としてしまったけれど、それでも竹刀を置いていくという選択肢は、煉獄にはなかった。だって、万が一ということもある。可能性がゼロでないのなら、チャンスをふいにしないためにも自分の愛刀だって手放せない。
 そんな煉獄にあきれ顔で苦笑した錆兎が「じゃあ俺も持っていくか。青空の下で素振りするのも気持ちよさそうだ」と言ってくれたのは、武士の情けだろうか。そうなれば真菰だって肩を竦めつつ己の竹刀袋を担ぐし、炭治郎や禰豆子も右にならえだ。
 小学生に気遣われてしまったが、それを恥だと思わないところが煉獄の面白いところだと、宇髄あたりは言うだろう。煉獄にしてみれば、人の気遣いや教えには年齢など関係ないと思う。気遣われれば子供からだろうとうれしいし、いかに幼かろうと自分が認めた者ならば教えを乞うのに躊躇はない。
 だから煉獄は「ならば見学が終わったらみんなで公園で素振りするか!」と快活に笑ってみせた。
 その結果が、宇髄以外全員が竹刀持ちという、てんで撮影見学にはふさわしくない出で立ちとなったわけなのだが、一番それを気にしそうな宇髄は、現状それどころではないようだ。
 しきりに吐き出されるため息はどうにも気になるが、理由を聞いても「いや、まぁ……大丈夫だろうとは思うんだけどよ……」などと、言葉をにごすばかりで、明確な答えを口にしない。
 それもまた常の宇髄らしからぬと、煉獄はますます首をひねっていたのだが。

 その答えは、宇髄が待ち合わせていた人物の一言によって、たやすく判明した。
 と、言うよりも、その人物こそが答えだった。

「僕の映画のヒロインになって下さい!!」

 公園で待っていた男は「よぉ」と手を上げた宇髄など目もくれず、一行を見るなり眼鏡の奥の目をぱちりとしばたたかせたと思ったら、一直線に突進してきた。
 思わず身がまえた煉獄の隣で、宇髄が真菰と禰豆子を引き寄せ背に庇う。が、その男が鼻息荒く走り寄りガシッと手を取ったのは、真菰でも禰豆子でもなく、もちろん炭治郎や錆兎でも、ましてや煉獄でもなかった。
 男が握りしめたのは、とっさに炭治郎と錆兎へと伸ばした義勇の手だ。
 しかも、それと同時に大きな声で言ったのが、先の言葉である。

「そっちかよっ!! 女に見境ねぇから真菰たちがヤバイかと思ったら、冨岡のほうたぁさすがに盲点だったわ! いや、ちらぁっと考えなくはなかったけどな! まさかそれはないと思ったのに、裏切らねぇやつだなテメェはよぉ!!」