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ワクワクドキドキときどきプンプン 3日目

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 頭を掻きむしりながらわめいた宇髄に、男はまったく動じた様子もなく、しれっと「あ、僕ロリコンの気はないんで」と抜かしたものだ。
 呆気に取られ煉獄や錆兎たちは、わめく宇髄と男を交互に見つつぽかんとしてしまったが、当の義勇はと言えば、呆気にとられるなんてレベルでは済まなかったらしい。炭治郎たちを守ろうと伸ばしたはずの手を握られたまま、カチンと硬直し、遠い目で虚空を見ている。

「な、なんなんですかっ!? 義勇さんの手をなでるのやめてください!!」

 必死な炭治郎の声に我に返り、あわてて煉獄が男の肩をつかんで引き離せば、存外たやすく男は義勇の手を放した。義勇はいまだ状況を脳内処理できずにいるのか、呆然と虚空を見たままだ。
「義勇さん、大丈夫ですか!?」
 泣き出しそうな声で炭治郎が言えば、錆兎や真菰も泡を食って義勇と男の間に割って入る。
「なに考えてんだ、おまえ!」
「勝手に義勇にさわらないで!」
 ギンッと睨みつける二人の視線など気にした様子もなく、男はまじまじと義勇を見つめ、しきりにうなずいている。
「うん……うんっ。いいなぁ、いいですよ。これならイケる」
「イケる、じゃねぇよ……テメェ前田、この野郎! よく見やがれ! 冨岡は男だっつぅの!! お前の目は節穴かっ!!」
「あ、大丈夫です。男の娘は一定数の需要が見込めるし、僕もイケます」
 怒鳴る宇髄にすら男はどこ吹く風だ。グッと立てられた親指と、キラッと光った眼鏡に、さしもの煉獄もイラッとする。知らず眉間には深いシワが刻まれた。

 いったいなんなんだこの男は。

「おい、宇髄。いったいどういうことなんだ、これは」
「あー……こいつ、別クラで映像部の前田っていうんだけどな、ご覧のとおりゲス野郎でなぁ……。ヒロインがまだ決まらないとは言ってたが、まさか冨岡に目をつけるとは、俺もさすがに思わなかったわ」
 ヒロインと言っていたのは、聞き間違いや勘違いではなかったのか。
 ますますきつく眉を寄せた煉獄や、疲れ果てた風情の宇髄など、前田はまったく気にならないようだ。また義勇に近づこうとして、錆兎たちに阻まれている。立ちすくんだままの義勇の腰にギュッと抱きついた炭治郎と禰豆子も、必死な顔で前田を睨んでいた。
 言葉の意味はわからないなりに、子供たちでさえ前田のいかがわしさは感じ取れるのだろう。まぁ、あのワキワキと蠢かせている手に不穏なものを感じないようでは、そのほうが心配ではあるけれども。
「おいっ、天元! こんなやつと友達だなんて見損なったぞ!」
「こんな変態と友達だなんて人聞きの悪いこと言うんじゃねぇよ、ただの知り合いだ! とはいえ、ちっとばかり借りがあるもんでな。っていうか、絶対に駄目だって言ったのに、お前らが行くって言い張ったんだろ」
「ひどいですねぇ。たしかに僕は変態かもしれませんが、ようは己の欲求に正直なだけです。ついでに変態は変態でも、変態という名の紳士であるという自負があります。変態なめないでください」

 なんなんだ、この変態の大盤振る舞い。甚だ教育に悪いぞ、こいつ。

 大概のことには動じない自信があった煉獄ではあるが、さすがに頭痛を覚えて深く嘆息してしまう。
「宇髄……ちょうど竹刀もあるし、こいつを叩きのめしてもいいだろうか」
「賛成してやりたい気持ちはど派手にあるが、暴力沙汰はやめとけ。こいつ、こんなんでも一応、自主制作映画じゃそれなりに名前が知られた有名人だ」
 ボコったのが知られたら後が面倒だと、宇髄も疲れ果てた声で言う。前田は一行の不審と警戒の視線などまったく気にする様子もなく、どこかうっとりとした顔をして義勇を眺めまわしている。

「いやぁ、じつにいいですよ。白くてきめ細かい肌、脱色だのカラーリングだのとは無縁な鴉の濡れ羽色した髪、長いまつ毛に瑠璃色のきれいな瞳。唇が小振りなのもいいなぁ。なんともかわいらしい。華奢で儚げな体つきもたいへんいい。じつにお美しいです、はい。女の子なら露出多めが僕は好きですけど、この人なら変に女装するより、ユニセックスな服のほうがいいですね。見せない色気ってやつですよ。ミニスカートも似合いそうですけど、この人は肌の露出が少ないほうが、よりエロチシズムを感じられると思うんですよね。見える肌は足首や手首、うなじだけ。あ、でも、鎖骨はチラッと見えるほうがいいですね。ほかは見せない。見る側に想像させる。うん、じつにいい、いいなぁ。チラリズムはいつの世も正義ですよ。もちろん、ポロリが期待できる服も個人的には大好きですけどね。脚や腰の細さを強調する感じで……いや、逆にトップスは緩めがいいかな? 彼シャツみたいな感じで、体が泳いじゃうくらい大きいざっくりニットなんか着て萌え袖とか、最高じゃないですか? ときどき見える手首の華奢な可憐さにドキッ! なんて方向にしましょう。あ、宇髄くんが今着てるニット、ちょうどいい大きさですね。それでいきましょうか。あー、でも色がなぁ。蛍光イエローのニットなんてどこで買ってくるんですか。ここは清楚な白でしょう。でなきゃ肌の白さが強調できる黒か、いっそ赤でしょ。ワインレッドのニットなんていい感じかもしれません。わかってませんねぇ、宇髄くんは。まぁいいです。宇髄くんのよりサイズダウンするけど白いニットはたしか衣装にありましたから、それで我慢します。ボトムはサブリナ丈のスキニーデニムなんかいい感じですね。色は黒で決まり。きっと足首もきゅっと締まってるでしょ、この人。いやいや、服の上からでもわかりますよ、僕くらいになるとね。メイクも控えめにしたほうがいいですね。いっそグロスだけとかのほうがいいかな。マスカラなんていらないですしね、この見事なまつ毛なら。肌もこれだけきれいならファンデやドーランで隠すのはもったいない。うーん、髪はそのままでもいいかなぁ。しかし、ポニーテールも捨てがたい。ああでも、ポニーテールじゃあざとすぎるか……うん、髪はそのままでいいです。リボンやシュシュもなし。洒落っ気なく見えるほうがかえってほのかな色気が感じられそうです。女の子かな、いやいや男の子かもって、悩むぐらいがいい。こんなにかわいい子が女の子のはずがないっていう男の娘路線よりは、想像を掻き立てられる中性的な魅せ方でいきましょう」

「おまえ、なに言ってんの……?」
「こいつの言ってることは半分も理解できんが……これは冨岡を褒めてるってことでいいのか?」
 毒気を抜かれるとはこのことか。聞いてるだけでぐったりと疲れ、煉獄は同じくがっくりと肩を落としている宇髄へと、とまどいの視線を向けた。
 口をはさむ隙さえ見つけられない怒涛の独り語りの内容はさっぱりわからないけれど、しきりに義勇を誉めそやしている雰囲気ぐらいは、煉獄にも感じられる。とはいえ、それを義勇が喜ぶかと言えば、断じてそれはないだろう。と、考えて、ハタと気づいた煉獄はあわてて義勇へと目を向けた。

 冨岡! そうだ、冨岡はこれ聞いて大丈夫だったのか?

 心配して義勇を見やれば、義勇はいつも以上に感情が抜けきった顔で小さくぶつぶつと呟いていて、煉獄の顔からもザっと血の気が引いた。