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ワクワクドキドキときどきプンプン 3日目

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「撮影といっても、明日はもう午前中の練習だけで解散だぞ? 万が一ということもある。冨岡と子供たちだけで行かせるわけにはいかんだろう」
 あきれた声の宇髄につづき、煉獄も顔をしかめている。
「撮影って、あとどれぐらいあるんですか?」
「んー? 状況は呑めてっから、今日の映像だけでどうにかするけど、あとワンシーンだけはどうしても撮りたいんだと。どうしてもヒロインの死に顔がいるらしい」
 さらりと言った宇髄に、ビシリと音がしそうなぐらいに錆兎と真菰が固まった。
「……死に顔?」
「おぅ。炭治郎が水鉄砲で使ったろ、血のり。アレぶちまけて、その上に倒れてるヒロインを……って、お、おいっ、おまえらどうした!?」
 ギョッとした声に思わず錆兎たちの顔を覗き見れば、大きく見開かれた目から、大粒の涙がボタボタと盛大に流れている。
「さ、錆兎っ!? 真菰も大丈夫かっ!?」
「し、死んじゃ、ヤダッ」
「義勇、しな、死なないでぇっ」
 ワァーンと声をあげ泣きだした二人が義勇にしがみつく。宇髄たちも驚いているけれど、炭治郎だって驚いた。だって錆兎も真菰も、炭治郎よりずっと大人で、どんなに大変なときでも泣いたりしないって思っていたから。
 でも。
「ヒロインって、義勇さん……? 義勇さんが、死んじゃうの?」
 炭治郎は、大好きな人が死ぬのがどんなことか知っている。もっと小さいときに、大好きなおばあちゃんが死んじゃったから。大人はみんな、大往生だって泣きながらちょっと笑っていたけど、炭治郎はまったく笑えなかった。だって、大好きだった。死んじゃったらもう二度と会えないんだと知って、すごく、すごく、悲しかった。今だって思い出すと悲しくなる。死ぬってそういうことだ。
 すうっと胸の奥が冷たくなって、炭治郎の目にも大きな涙の粒が浮かんだ。
「ヤダ……義勇さんっ、死んじゃやだぁっ!!」
「ぎゆさん、死んじゃうの……? いやっ、ダメ!! ぎゆさん、死んじゃやだよぉっ!」
 想像するのも嫌なぐらい、悲しくて。錆兎たちと同じく泣きだした炭治郎と禰豆子も、義勇にギュウッと抱きつく。義勇に逢えなくなるなんて、そんなの考えるのも嫌だ。
 きっと錆兎たちも炭治郎と同じなんだろう。たとえお芝居だろうと、義勇が死ぬなんてこと、ほんのちょっぴりだろうとも考えたくないし、見たくないのだ。
 大声で泣く炭治郎たちに、義勇が一番驚いているだろう。いつもの無表情がくずれて、オロオロと目が泳いている。困っているのはわかるのだけれども、今離れたら本当に義勇が死んじゃう気がして、涙がどうしても止まらない。泣きながらみんなでぎゅうぎゅうと義勇にしがみついてしまう。
「いや、落ち着けって! なにも本当に死ぬわけじゃねぇんだぞ!? 芝居だ、芝居!!」
 慌てふためいた宇髄に言われても、涙は止まらないし、しがみつく腕も離せない。
 わんわんと四人で泣いていたら、細い腕がキュッと抱きしめてくれた。四人まとめて抱きかかえるには、義勇の腕は細く頼りない。けれどもその腕のなkにいるだけで、こんなにも安心する。義勇から香る戸惑いの匂いには、ほんの少しうれしい匂いが交じっていて、炭治郎は濡れた目で義勇を見上げた。
 涙でぼやけた義勇の顔は、わずかに眉を下げた困り顔。でも笑ってくれてる。トクンと胸がひとつ鳴って、しゃくり上げたら、義勇の瑠璃色の瞳がすっと宇髄たちを見上げた。
「うーむ、見事に肉団子になってるな。俺も交ざりたい!」
「おまえ、そんな呑気なこと言ってる場合かよ……」
 大きな笑い声をあげた煉獄が、ぽんぽんと順繰りに頭をなでてくれる。その手は義勇よりもちょっと大きくて、同じようにやさしい。
「俺からもあの眼鏡に撮影の中止を頼み込んでおこう! たとえ芝居でも、俺も冨岡の死に顔を見るのはまっぴらだからな!」
「煉獄さん、ほんとっ?」
「うむ! 俺は嘘は言わんぞ、禰豆子!」
 まだ泣きながらもようやく笑って煉獄に抱きついた禰豆子に、宇髄も肩をすくめた。
「ヒロイン降板な。あのゲス眼鏡には俺が話通しとくわ」
 やれやれ骨が折れるとぼやきつつも、宇髄も笑顔だ。
「本当か? 本当にもう義勇は芝居なんてしなくていいんだよな?」
「宇髄さん、ありがとう!」
 まだしゃくり上げながら、それでもぺこりとそろって頭を下げる錆兎と真菰に、宇髄の笑みがちょっぴり皮肉げになる。
「おまえらが素直だと、地味にむず痒くていけねぇな」
 なんだと!? と食ってかかる二人の顔はまだ涙で濡れているけれど、それでも元気だ。いつもどおりに戻った大人顔負けなしっかり者の顔に、ちょっぴりの照れくささをにじませて、やいのやいのと宇髄とやりあっている。
「義勇さん、死なないですよね?」
 まだしがみつく腕をほどけないまま聞けば、義勇は、こくんとうなずいて額をあわせてくれたから。
「よかった……」
 笑った炭治郎に、義勇も小さく笑ってくれた。

  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 喉が渇いた腹が減ったとみんなでわいわい言いながら、鱗滝の迎えを待つこと三十分ほど。車でやってきた鱗滝は、しかつめらしい顔をしていた。
 喧嘩なんかしちゃったんだから、叱られるのは当然だろう。炭治郎だけじゃなく、きっと宇髄や煉獄だって、叱り飛ばされる覚悟をしていたと思う。
 けれど、鱗滝は神妙に立ち並んだ一同をながめまわし、怪我はないのかと聞いただけだった。それどころか、義勇もみんなを守って戦ったのだと大興奮で話す錆兎と真菰の頭をなでて、義勇を抱きしめぽんぽんと背をたたきながら「よくやった」と褒めてくれた。
「あれ、たぶん泣いてるの誤魔化してるぞ」
 とは、ニシシと笑いながらの錆兎の言である。
「鱗滝さん、涙もろいの。隠してるつもりだから内緒だよ」
 クフフと笑って内緒話してきた真菰に、炭治郎と禰豆子も笑う。少し恥ずかしそうに、泣いたのは鱗滝さんには内緒ねと、笑った二人の目は、まだちょっぴり赤い。
「厄介なことに子供たち巻き込んで、すみませんでした」
「年長者としてなすべき責任を果たせず、申し訳ありません」
「元をたどれば義勇に降りかかった面倒ごとだろう。こちらこそ、すまなかった。わしからも礼を言う。君らがいてくれて助かった。ありがとう」
 謝る宇髄と煉獄に首を振ったばかりか、逆に頭を下げ礼を言った鱗滝には、宇髄たちのほうがあわててしまっている。大きな二人がオロオロとしているのはなんだかちょっぴりおかしい。炭治郎は禰豆子と顔をあわせて、くふんと微笑みあった。
 これで喧嘩騒ぎは、本当におしまい。でもまだ、楽しいゴールデンウィークは終わっていない。
 お泊りのお礼に、みんなで作るカレーが待っているのだ。頑張るぞ、っと握りこぶしを作った炭治郎のお腹がグゥゥッと鳴って、真っ赤になった炭治郎にみんなが楽しそうに笑った。


「よーし、そんじゃカレーとサラダの材料買うぞ。食材選びのリーダーは禰豆子と真菰な」
「はーい!」
「了解」
「予算は四千円まで。計算係は竈門少年と錆兎だ。頼んだぞ!」
「はいっ!」
「任せろ」