天空天河 六
幕間3 受胎告知
(ちょっと一息)
「小殊、、何だ、重大な事とは、、。」
長蘇に呼び出され、靖王は蘇宅の書房に駆け付けた。
「景琰、、実は、、、。」
「ん？、、。」
ぽつりぼつりと、神妙に語る長蘇。
「、、、夢見に、天の使いが現れ、、祝福をされた。」
「おお、小殊！、それは良かったな。
、、、、、で？、、何の？？。」
何だか分からぬが、取り敢えず喜ぶ靖王。
「、、、、、私が、、、身篭ったと、、、ﾎﾟｯ。」
「は？。」
靖王は、どう反応して良いのか、よく分からない。
━━、、、、、、まてまてまて、、、。
小殊の事だ、、、。
こうやって私はいつも騙された。
平静を、、平静を保つのだ。━━
騙されまいと、平静を取り繕う靖王。
「、、、ふ〜〜〜ん、、、良かったな小殊。」
そんな靖王の様子に、長蘇は怒り出す。
「景琰！！、他人事みたいに、、、、。
誰の子だと！！！、お前と私の子なのだぞ！！。」
「えっ？？！！。
ば、、馬鹿な、、、。」
「景琰、、嬉しくは無いのか？。」
思わぬ靖王の反応に、涙ぐみながらぽつりと言う長蘇に、靖王はたじろいだ。
━━ま、、まさか、、、そんな、、、。
男の小殊が、身篭ったなどと、、、。
、、、ついこの間、確かにそんな冗談は言ったが。━━
困り果てた靖王を見て、長蘇が話す。
「、、、、確かに、、信じられぬのも無理は無い。
だが、現に、天の使いから告知を受けてから、、私の身体は変化を始め、、、。
ほら、、もう私の腹部が、、、。」
そう言って、帯も締めぬ衣の上から擦る、長蘇の腹部は、丸い膨らみを見せている。
「、、し、、小殊、、。」
「、、何故かは分からぬ。
私が飛流の『魔』の力を借りて、この身体になった時、、、何かの手違いで、、女人の身体の一部が、作られたのかも、、、、。」
「、、、私の子が、、小殊の身体に、、、。」
━━いやいやいや、、、。
この手の冗談は、昔、小殊に、一度やられた。
そして散々笑い者にされたのだ。
、、おい、、、二度目をやるか？。
お前、、どこまで私を、、、。━━
長蘇は、疑わしそうな目で見る靖王に気がついた。
「、、、確かに、、昔、この手の冗談で景琰を騙したが、、、、。
これは本当なのだ、信じてくれ。」
「、、、、、。」
━━いやいやいやいやいや、、、、。
小殊！！、、さすがに私も大人だ。
その手の冗談は、、、。
、、小殊に、付き合ってやるべきか？？。━━
困った表情の靖王。
「、、、そうだな、、。
昔、私が景琰を揶揄った、、。
これも自業自得か、、、、。
、、、だが、、。」
そう言って、長蘇は立ち上がり、衣の紐を解き、合わせを開いていった。
ゆったりした厚い衣を何枚かと、肌着を解いてゆけば、忽ち、長蘇の腹部が顕になる。
確かに長蘇の腹部は、妊婦の様に膨らんでいた。
「、、！！！。
え、、、小殊、、、本当に、、お前、、。」
「ああ、、景琰、、。
お前と私との、子だ。」
長蘇は顔を赤らめて、伏し目がちに、だが嬉しそうに言った。
靖王か近付き、おずおずと長蘇の腹部に触れた。
「、、本当に、、本当に、、孕んでいる、、。
私と小殊の子が、、」
長蘇の腹部の膨らみは、長蘇と一体のもので、体温を帯びており、妊婦のその腹部にしか見えず、とても靖王を騙すために作られた物とは思えなかった。
━━小殊が、、私の子を宿した。━━
「騙されても、嘘でも良い」
靖王はそう言った。
「愛しい君との子が、こんなに嬉しい事だとは。」
靖王は、長蘇の膨らんだ腹部を愛おしく摩り、涙ぐんでいた。
「何て嬉しいんだ、小殊。
私は父になる。」
「景琰、、私も嬉しい。
、、、、あ、、。」
「子が動いた！！。」
二人は、子の胎動を感じた。
赤子の生命を、胎動が証明していた。
「身体を冷やしてはならぬ。温かくしておかねば。」
靖王は長蘇の衣を閉じ、更に自分の外套まで羽織らせ、長蘇を優しく抱きしめた。
「大事にせねば。復讐など、どうでも良い。
小殊、元気な子を産んでくれ。」
「ん。」
「、、だが、、小殊の腹部が、どんどん大きくなっている気がするのは、、、私の気のせいか？。」
「いや、、、気のせいではないのだ、、。
子は、、、今日、、産まれる。」
「何っ？？、、今日？？？。」
「、、あっ、、、ﾝﾝｯ、、、、。」
長蘇が突然、苦しみ出し、その場に蹲る。
「？、、、どうした、小殊？？。」
「、、う、、産まれそう、、、。」
息も絶え絶えに、長蘇が言った。
「ぇぇｯ！！！！、、、私は、、一体どうすれば、、。
小殊！！しっかりしろ！！。」
靖王は、苦しそうな長蘇を支え、長蘇の額に吹き出る汗を、衣で拭って背中を擦ってやる。
「小殊！！、、小殊、、しっかり、、、。」
「ﾝﾝﾝｯｯｯ！！！、、、ああああ！！、、、。」
「小殊ｯｯｯ！！！。」
おぎゃーおぎゃー
「、、あぁ、、小殊、、、よくやった。
産まれた、、。
男の子だ。
目の辺りは小殊にそっくりだ。」
靖王の腕の中で、疲れ切っている長蘇だが、満ち足りたように、嬉しそうに微笑んでいる。
「景琰、、、口元は、、景琰によく似ている。
あぁ、、なんて可愛らしい。」
長蘇は、産まれた子を抱き上げ、そっと額に口付けた。
「景琰、、私達の子だ。
なんて、、なんて私は幸せなんだ、、。」
「大事に育てよう。
靖王府に迎える。乳母も探さねば。」
「乳母なぞ、いらぬ。大切な景琰との子は、私が乳をやり、私が育てる。」
「え？、、、小殊がだと？？？。」
「ふふ、、だって、、。」
長蘇が靖王の手を取り、自分の胸に導いた。
靖王の手には、長蘇の胸の膨らみが。
「えっ！！！、、、。」
靖王が赤面する。
「あはは、、。私が産んだのだ。私に育てられなくてどうする。」
長蘇の腕の中の子がむずがった。
「お腹が空いているのだろう。」
そう言って、長蘇が胸を開けば、乳房かほろりと飛び出し、嬰児は乳首を探しあて、その口に含んだ。
「あは、、くすぐったい、、。」
優しく子を見守りながら、母乳を飲ませる長蘇。
子は夢中で乳を飲んでいた。
長蘇と子の姿に、靖王は尊さを覚えた。
「景琰、、良く乳を飲む子だ。きっと丈夫な良い子に育、、、、
あははははは、、、景琰、、、どうしたのだ。
泣くやつがあるか。」
赤子から、靖王に視線を移した長蘇が、泣いている靖王に驚かされた。
「小殊が私達の子に母乳を、、、、、。
いや、、だって、、、こんな幸せな、、。」
靖王は溢れる涙を拭かずに、長蘇と子の姿を目に焼き付けていた。
「あはは、、。この子を守り育てねば。
景琰にも頑張ってもらわなければ。
父親なのだ。」
そう言うと、笑いながら、靖王の頬の涙を、掌で拭き取った。
「、、ﾝ、、。」
返事は言葉にもならず、靖王の目には、また涙が溢れて、頬を伝った。
だが長蘇には、泣く靖王の心が良く分かる。
靖王は、子供の誕生を、心から喜び、長蘇を慈しんでいる。