天空天河 六
そして、長蘇と同じ様に、靖王は長蘇を深く愛している。
靖王が二人を見守る視線は長蘇に、深く静かな安らぎに包まれるような、安堵感を与えた。
靖王は、背中から包むように長蘇を抱き、長蘇は子を抱き、母乳を与えている。
子は二人の愛に守られて、沢山、乳を飲み、満足し、やがて眠ってしまった。
「寝てしまった。あぁ、なんて愛らしい。」
「あぁ、小殊の子供の頃にそっくりだ。
見ているだけで幸せになる。」
満腹になり、あどけなく眠る姿には、この世の不幸など、何も無い。
丸々とした、赤子の頬と小さな手。
幸せが沢山詰まっていて、見守る長蘇と靖王を、幸せにしてくれる。
長蘇と靖王に守られて、安心して、長蘇の腕の中ですやすやと眠る嬰児。
「ありがとう、小殊。」
微笑みながら、嬰児を見ていた長蘇だが、突然、心に不安が芽吹いた様子で。
靖王を見る長蘇の眼に、恐れの色が浮かんでいた。
「景琰、、私は幸せで、、、どうしたらいい?。
こんなに幸せで天罰が下らないか?。
私は、どうしたら、この幸せを守れる?。
いや違う、、私などどうでもいい、、。
この子が、、、この子が健やかに、成長してさえくれれば、、、。
この子の身の上に起こる不幸は、私の命と引き換えにしていい。」
不安に取り乱しそうな長蘇に、靖王が穏やかに微笑んだ。
「何も心配しなくていい。
私が、小殊とこの子を守る。
『魔』だろうと、天だろうと、私達のこの幸せを壊させはしない。
私が必ず幸せにする。
愛しい君とこの子を、不幸になどさせるものか。
安心して私達の子を育ててくれ。
何も、、何も、怖くは無い。傍には私がいる。
怖くなくなるまで、ずっと小殊の傍にいる。」
靖王の言葉に、長蘇の恐怖心が解(ほど)かれた。
「、、、小殊、、疲れたのだ。
『子を産むのは命懸け』だと、母が言っていた。
私が守っている。
安心して休むのだ。
、、、、、眠れ、、、。」
長蘇は靖王に身体を預け、素直に目を瞑った。
長蘇のその顔に、恐怖心は消えていた。
━━愛しい小殊とこの子は、必ず守る。
例え何が起ころうと、私は二人を幸せにするのだ。
小殊、そして、我が子よ────
───共に、幸せを築こう。 ━━
安心して身体を預け、眠る長蘇。
二人の子は、長蘇の腕に包まれている。
長蘇の、絹糸の様な、柔らかな髪が、頬にかかっていた。
靖王は長蘇の髪を、手櫛で梳くと、頬に乱れた髪も直り、綺麗に後ろに流れた。
靖王は、長蘇の滑らかな頬に、口付けをし、腕の中の我が子の頭を、そっと撫でた。
━━幸福だ。━━
目の前の幸せを噛み締めて、靖王もゆっくりと目を伏せた。
夜明け前の、静まり返った靖王府の書房。
靖王が、寝台の上で目を覚ませば、その横には長蘇が共に横になっていた。
「、、?、、、。」
━━、、、赤子は?、、私達の子は、、どこに、、?。━━
靖王は、むくりと起き上がって、辺りに我が子を探す。
だが、目を閉じて横になる長蘇を見て、、。
「、、、夢、、だった、、のか。」
幸福な余韻が、消えぬように、靖王は掌で胸を押さえた。
もう一度、長蘇に視線を移せば、長蘇は目覚めていた。
「すまぬ、小殊、、起こしてしまったか?。」
「いや、、珍しく、ぐっすりと眠った。こんなに深く眠れたのは、久方ぶりだ。」
長蘇が起き上がろうとしていた。
靖王は長蘇が起きるのを手助けしてやった。
「寒いだろう?。昨晩は雪が降ったようだ。
ほら、、衣を、、。」
靖王は、夜具の上に掛けてあった衣を、長蘇の体に掛けてやった。
朝はまだ早く、部屋の中は仄暗い。
起き上がった長蘇は、自分の腹部を見て、そして確認する様に、掌で腹部を摩った。
「、、私達の子か?、、小殊、、。」
長蘇は靖王の言葉に、驚いたように靖王を見た。
「私も、小殊と同じ夢を、、見ていた様だ。」
その言葉に更に驚いた長蘇。
だが、次第に柔らかな微笑みにかわった。
「幸せな夢だった。」
「あぁ、、。」
「まだ早い。もう少し眠ろう。」
「ん。」
靖王は、長蘇が横になるのを手伝い、また夜具の上に、寒くない様、衣を掛けた。
夜具の中で、靖王は長蘇を引き寄せ、優しく抱きしめた。
あの夢の中の長蘇の様に、靖王に身体を預けた。
心地良い、幸せの余韻に、二人は包まれる。
雪の、静かな朝の事。
─────幕間3 受胎告知 終─────