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天藍ノ都  ───天藍ノ金陵───

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 心配性で、長蘇の具合を診ては、何かと渋い顔をして、小言を言う。
 だがその外は、少年の様になり、燥(はしゃ)ぐ時がある。
 常にそうなる訳では無く、長蘇といる時は、特にそうなのだと、周囲の者が言っていた。

 神域の如き医術を持つのに、こんな事に喜んでいる藺晨の、酷く子供っぽい一面に、可笑しさを覚える。

「、、クス、、、。」
「、、、何が『クス』だ。
 長蘇!、鏡が来たら、またやろうな、着せ替え遊び!。これは楽しい!!。」
「またやる気が?!、藺晨!!。
 鏡も着せ替えも懲り懲りだ。
 遠慮する。」

 長蘇の一言に、藺晨の不満が弾ける。
「何だと〜、これで終わりだと?!。
 私がどれだけ苦労して、布地を開発したと。
 寒症のせいで、重くて分厚い衣を何枚も着る、長蘇の為に作り上げたのだ。
 なのにお前は、これっきりて終わりだと?。
 私の労を労(ねぎら)ってはくれぬのか?。
 何と酷い男だ!、これ程私は、長蘇に尽くしたというのに、、、。」
「、、、わ、、分かった、、、。
 だが、着せ替え遊び以外にしてくれ。
 それならば応じよう。」
「良し!、二言は無しだ!。
 長蘇、今日一日、私に付き合ってもらおうか。」
「、、、付き合う内容にもよる。」
「なーに、ただ酒楼で酒を飲むだけさ。
 折角だから、長蘇には、その格好で行ってもらう。」
「は????、、、馬鹿言うな、嫌だ。」
「ならば、また着せ替え遊びを、、。」
「しない。」
「じゃぁ、酒に付き合え、ほんの一〜二刻だ。
 付き合ってくれれば、鏡は持ち込まない。約束する。」
「、、、、ぅー、、。」
 どちらも嫌で、決めきれない長蘇。

「さぁ、行くぞ。
 黎綱、馬車は頼んだな!。」
「勿論ですとも!、若閣主。こちらに向かってます。」
 
「は?、黎綱、馬車ならば、蘇宅にもあるじゃないか!。」
 長蘇は、怪訝な顔で、黎綱に問う。

「宗主、蘇宅の馬車は、壊れました。馬も不調で、馬車が引けません。」
「、、黎綱、、お前、今日は、なんて良い仕事をするんだ!。サイコー!。」
『でしょでしょ!』と言わんばかりに、黎綱は、親指を立てて、得意げに藺晨に合図を送る。
 今日の藺晨と黎綱は、阿吽の呼吸だ。
 これ程二人の息が、ぴたりと合うのも、珍しい。

「、、ワナ、、お前らッッ。」




 逃げも隠れも出来ない状況で、蘇宅の門の中で、馬車を待つ長蘇には、悪い予感しか無かった。

 そして、その予感は大当たり。

『馬車が来ました』と門番が叫ぶ。
 
 金銀を配(あしら)った雅な馬車は、ぴたりと蘇宅の前に止まった。。

「は?、嘘だろ!、ド派手なこれに乗れと???。
 何故、窓全開??、つーか、外されてるし。
 こんな馬車に乗れるかぁぁぁ!!!。黎綱!!!。」
 馬車を見て、わなわなと震え、怒鳴る長蘇。

「ぁ〜〜、なんか〜〜、他の馬車は、全部、出払ってるみたいで〜〜、これしか無かったんだそうですよ〜〜。
 仕方ないですよね、乗りましょうか、宗主。」
 今度は藺晨が親指を立て、黎綱を賛辞。
 満足そうな黎綱。

「そうだな、長蘇、言いたい事はあるだろうが、ごねるのも見苦しいし、、ここはほら、な、、潔く!、男だし!!。」
「くぅぅ、、。」
 思い切り嫌がる長蘇を、無理やり二人で乗せ。
 黎綱が御者、長蘇を一番見栄えの良い場所に座らせ、藺晨はその隣に。
 
「出発しまぁ〜す。」(黎)
「はぁ〜〜い。」(藺)
 馬車はからからと、蘇宅を出発した。

 
 暫くすると長蘇が、苛々と口を開いた。
「おぃッッ!!!、黎綱!!!、もっと早く走らせろ!。
 この馬車、何でこんなに遅いんだ!。」

 すると黎綱が困ったように。
「そうなんですよぅ〜。
 馬が、、思うように動かなくてぇ、、、。
 他所の馬だからでしょうか。
 ほらっ、馬!!、もっと早く走れッッッ、走れってば!。」
 黎綱の言葉とは裏腹に、馬を急かす様な、手綱の扱いはしてない。

「くwww。」
 長蘇が悔しがっていると、藺晨が、そのやり取りを面白がって笑った。
「あははは、、、長蘇よ、馬が言うことを聞かぬなら、それは仕方が無い。」
 そして藺晨は、御者台の黎綱の方に向けて言った。
「黎綱!、私とお前は話が合う!。
 私の配下にしてやるぞ。
 どうだ、私の側近にならぬか?。江左盟より、手当てを弾むぞ!。」
「あはははは、、、。
 絶対、嫌ですぅ〜〜。」
 前を向いたまま、黎綱即答。
「あはは、絶対嫌かぁ〜。ま、冗談だがな〜。」
「、、、、、バカ。」ボソッ(蘇)

「ま、馬鹿話はここ迄だ。
 長蘇よ、肝心な話はここからだ。」
「?。」
 今度は至って真面目な顔で、長蘇に話しかける藺晨。

「実は、この新素材の布を、金陵で売り出したい。
 製法や技術を教えるから、江左盟の店で、売り出してくれないか?。」
「あはは、、そんな事だろうと思った。
 売り出すならば、我が配下の『妙音坊』で使うなり、金陵の貴人に着せるなり、色々と方法はあるのに、、。
 、、、、何故、、私を広告塔にしたのだ?!。
 (次第にイライラ、、、)
 ぁぁ?、、、藺晨、答えてみろ。
 ただ私に着せて揶揄ったのなら、許さぬぞ。」
 長蘇、怒り心頭。
「あははは、、。
 正解!。長蘇よ、良く分かったな。」
「くっ、、この、、、バカニシテンノカ。」
「そんなに怒るな、体に悪い。
 決して長蘇を、おちょくった訳では無いのだ。
 長蘇にこの衣を、着てもらう必要があったのだ。
 女子の衣だけにするつもりは無く、染色がし安く、煌びやかな鮮やかな色にも、くすんだ落ち着いた色にも、思い通りに染まる。男にも着てもらいたいと思っている。
 だから、長蘇に着てもらい、こうして出歩く必要があったのだ。
 長蘇は華奢で、優雅さもあり、顔も悪くは無い。
 女子にも男にも『着てみたい』と思わせるには、長蘇は、打って付けの人物だったのだ。」
「、、、、、ならば、そういう事は、先に言ってもらわないと、、。」
「先に言ったら、長蘇よ、着てくれたか?。」
「、、、いや、、着ないな、ふふふ。」
「あははは、、、やっぱりな。
 だが、今日、蘇宅に持って来た衣は、全て、長蘇の肌の色や髪の色に合わせて染め、縫製をした物だ。
 長蘇以外に、これを誰が着こなせると。
 私の見立ては正しかった。
 ほら、馬車の周りを見てみろ。長蘇が『着た』という事が、どれ程、効果絶大か。」
「、、、、、なッッ?!。」
 長蘇が周りを見回せば、馬車の脇や後ろに、ぞろぞろと数十人の女子や男の群れが、この馬車と一緒に歩いているのだ。

「なんて美しい方なの!。」
「天界人の様よ。この世の者とはおもえないわ。」
「素敵〜〜〜。」

 等々、口々に女子達が話していた。
 男共も、女子の群れの間から、少しでも長蘇の姿が見たくて、背伸びをしたり、びょんぴょん飛んだり、、、。
 長蘇が藺晨に言われ、馬車の周りを見回した途端、『きゃ────────ッッッ!』という嬌声が上がった。

「何なのだこれは一体、、、プルプル。
 赤羽営の出陣の時でさえ、民衆は、これ程、可笑しな事には、、、。」

「長蘇の姿を見たいのだろは。