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天藍ノ都  ───天藍ノ金陵───

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天藍に白き雲



 長蘇は、柔らかな風に衣を旎(たなび)かせ、黒服、覆面の刺客に抱えられて、馬を駆けていた。
 二人は、城門をも飛び出し、城外へと。


 刺客は顔を隠しているのに、長蘇には不安はなく、寧ろ、落ちないように、刺客の背中に方腕を回して、しっかりと掴まっていた。

 何せ刺客の正体は靖王。
 怖いはずが無い。

 靖王は城門が、遠く小さくなった所で、馬の足を緩め、歩かせた。

「蘇先生、大丈夫か?。
 蘇先生が、困っていた様子で、、吐血まで、、、。
 つい、拐ってきてしまったが、、、。
 、、ぁぁ、、血が、、。
 馬に揺られて、辛いだろう?。
 頃合いを見て、金陵に戻ろう。医館に連れてゆく。治療をせねば。」
 靖王は覆面を外しながら、長蘇に話しかける。
 長蘇の口元の赤い汚れに、靖王は焦っていた。

「、、せ、、靖王殿下、、。
 いえ、、あの、、、これは、血ではなく、、、。」

「ぇ?。」

 長蘇に言われて、怪訝な顔になり、靖王は長蘇の口元に顔を寄せる。
 整った靖王の顔が、目の前に近付く。
 そっと控えめに、長蘇の口元を匂う靖王。
 林殊の記憶が呼び起こされて、長蘇の鼓動が早くなる。これ程近くに寄せられた、情熱的であって涼やかな目元や、美しい鼻筋や唇を、幾度見たことか。

「???、、血、、では無い、、?。
 、、、これは、、、薬のような匂い、、。」
 靖王にとって、血は戦場で、薬は生母の元で、嗅ぎ慣れたものだった。
「これは、実は薬で、、。
 、、うちの主治医に、騙されて飲まされた薬が、余りに苦くて、吐いてしまったのです。
 城下をお騒がせして、申し訳ありません。」

「何ッッ、、策士の蘇先生が騙されたと?。
 あははははははは、、、、、、いや、、失礼。」
「、、まぁ、、そうですよね、、笑いますよね。」
「いや、、本当に、、失ッれ、、、、ププププ、、。」
「、、、靖王殿下、、。」
 長蘇が眉を寄せて、怪訝な表情で、困っている。
 靖王は、長蘇のそんな姿すら可笑しいらしく、吹き出してしまったのだ。
「ぁ、、イヤイヤ、、、、、クククク、、。」
 靖王は、笑いのツボに入ってしまい、堪えるのに必死だ。

──、、、、簫景琰!!!。
 もー、いい加減に、、、、。──

 その様子に、長蘇は少々、苛付いた。
 長蘇は、靖王の背中に回した己の手で、『脇でも抓ってやろうか!』、と思えた程だ。

 若い頃、靖王と共に山野を駆け巡り、よく遊んで、よく笑った。
──今でこそ景琰は、憮然として笑いもしない印象だが。
 昔は良く笑う奴で、私の前では、笑い転げて、止まらなくなる奴だった。
 特に私が困った顔をすると、景琰は吹き出して面白がって、、、。
 私が『いい加減にしろ』と怒っても、益々酷くなって、、、、。──
 
 そんな当時の事を思い出すと、長蘇もまた、くすりと笑わずにはいられなかった。
 あの、少年の頃に、刻(とき)が戻った気がした。

 一頻(ひとしき)り、笑った後には、靖王は爽快な表情になり、整った顔が、優しさを帯びた。

 靖王は、梅長蘇には心服はしても、策士という肩書きが、そもそも信用出来ない。
 胡散臭い策士を名乗る者には近付くまいと、心を遮蔽する程の蟠(わだかま)りを持ち。当然、得体の知れない長蘇に、目的を同じにする者として、拒絶はしないが、一定の距離を置いていた。
 だが、一流の策士以上の、腹の読めなさのある長蘇が、一人、困っている姿に、靖王は、人間味を感じたのかも知れない。
 互いに幾らか、二人の距離が、縮まったのを感じる。
 そんな感情は、長蘇にとっては、嬉しくもある一方、表向きは、靖王とは無関係を装わねばならぬ手前、不安が増す要因でもあった。


 二人はゆっくりと馬に揺られ、馬上で風と戯れる。
 長蘇の衣が風を孕み、靖王の腕や体をそっと触れてゆく。その感触は風そのもので、重さも感じない。
 長蘇の髪もまた、馬の動きに合わせて弾む様に踊り、時折、そっと靖王の頬を弄ぶ様に打っていく。

 その感触を靖王は、
━━嫌では無い。━━
そう感じていた。

 嫌では無いと言うよりも、むしろ、ずっとそうしていたい様な。
 しっとりとした絹糸の様な髪はむしろ、時折、頬を撫でられるだけではもの足りず、靖王は長蘇の髪を指に絡め、ずっと触っていたいと思った。




 温かな風と、久々に馬に乗った爽快感で、長蘇の心は満たされていた。

 靖王はというと、靖王の馬に共に乗っているとはいえ、意外にも、乗馬の上手い長蘇に驚きを隠せない。

━━虚弱体質で病持ち、という話だったから、乗馬なぞ難しいと思っていたが、、。

 この乗り方は、初めて乗馬をする者の、乗り方では無い。
 馬の動きに合わせて、適度に力が抜け、疲れない乗り方をしている。
 しかも動きは、体に染み付いている如く、息をする様に自然だ。
 私は、てっきり武術どころか、馬にも乗れない書生だとばかり。

 梅長蘇は、江湖の第一派閥、江左盟の総帥なのだ。ただの書生に、この派閥を纏められる訳が無い。

 もしや、梅長蘇は、かつて武功のあった者なのでは、、、。
 それならば納得ができる。

 、、、それにしても、梅長蘇のこの体、、。

 、、、、、、、、ナンカヘン、、。━━

 長蘇は乗馬が出来るような服装では無く、女子の様に、横乗りになっている。
 靖王が腕で長蘇の背中を支えながら、手綱を握っていた。
 まるで、人の体では無い様に、ふわふわとしていて、実体が無い様な。
 おまけに酷く軽いのだ。
 人のこんな感触は、初めてだった。

 藺晨が開発した、新しい素材のこの衣は、非常に薄かった。
 薄い衣を着る事で、露になった長蘇の余りに細すぎる身体に、藺晨と黎綱が悩んだ。
 黎綱が提案して、長蘇の身体に綿や布が巻かれている。長蘇にとっては、更に温かくて良いのだが、身体に触れば、やはりおかしいと気が付く。
 靖王はそれを知らぬ為に、悩まされていたのだ。

━━まさか、蘇先生は、本当に天界人なのか?。
 天仙とは、この様な身体なのだろうか。━━
 長蘇は靖王の疑念に、気が付かない。
 靖王も言ってはならぬ事の様に思えて、疑念は晴れずに、悶々と思考を巡らせていた。


 そして長蘇は、疲れた様子も見えなかった。
 それが尚更、靖王には、長蘇が天仙の如くに見えるのだ。



 靖王は、どこまでも二人で、馬に乗り、疾駆できる気がしていた。

━━天界人が行くところならば、、、。━━

 何となくそんな事を考えてしまい、、何となく向かった先は、、、。

 林殊とよく野駆けをした行先。
 金陵の都が、良く見渡せる山の中腹だ。

 靖王は、なだらかな山道を駆け上がって行った。
 ぽつりぽつりと、行商人や、旅人にすれ違う。
 皆、天仙と見まごう長蘇の姿に、釘付けになっていた。

 長蘇が気持ち良さげに、馬に乗る靖王に身を任せている。
 嬉しげな長蘇の気持ちが、靖王にも伝わってくる。




「ああ、、金陵の都が、、。」
 山道は森を抜け、二人は、広々とした崖の頂きに出た。

「蘇先生は、都に来る時も、この道を??。」
「ええ、この道を通りました。