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願うことはひとつ

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今は長期休み中らしいが、週に何度か雲雀は外出した。
そういう時は退屈でたまらない。家にいてもつまらないから、ツナもあてもなく近隣を出歩いた。
どうやったら雲雀がその気になってくれるのか、何か参考になるものはないかと探しながら、途中からそんなことは忘れたように単純に買い物を楽しみ始める。ツナにとっては何もかも目新しかった。あちこちの店に入ってウィンドウショッピングを楽しむ。
周りの人間の真似をして、気に入ったものをレジに持っていったりもした。もちろんお金を持っていないからツナに買える訳がなく、あっさりとあしらわれる。以前のセーラー服も、たまたま店主との会話の流れで雲雀の名を出したら、なぜかただでくれただけだ。

歩いていると広場に出た。商店街の中心に広くスペースをとっているそこは、噴水がきらきらと太陽の光を受けている。近づけば空気がひやりと心地よかった。

水の流れを楽しみながら噴水を見つめていたら、水越しにぼんやりと黒いものが見えた。しばらくそれを目で追うように見ていてはたと気づく。雲雀が外出する時にいつも着ている物と同じだ。
「ヒバリさん」
駆け寄りながら声をあげたが、よく見てみると見たことのない人物の二人組みだった。髪型が妙なその人達は、ツナの声に反応してこちらを振り返った。
二人は最初顔を緊張に固めていたものの、当の雲雀はいないことに気づいて緊張を緩める。それからツナに向かって怪訝な顔をした。
「何だお前」
「あの、その服どこで買えるんですか?」
身長差は20センチはあろうか。ツナは顔をぐっと上げて問いかける。二人は一度不思議そうに顔を見合わせて、それから、風紀委員の制服だ、と短く答えた。
「せいふく?オレも欲しいんです。それ、ヒバリさんとおそろいだから」
「委員長とどういう関係だ」
もう一人に、敵を伺うような、警戒するような目を向けられて、ツナは一瞬返答に窮す。
「…え、っと、一緒に住んでます」
他に言いようがなかったのでとりあえずそう答えると、二人はびっくりしたように目を開いた。先ほどまでこちらをなめてかかっていた二人は、びしっと音を立てそうなくらい姿勢を正して緊張をあらわにした。
「そうとは知らず失礼しました。委員長のご家族でしょうか。いつもお世話になっております」
「え、違うんですけど……」
二人の態度の違いにツナの方が困惑してしまった。早々に立ち去ろうとしたが二人はしつこい。荷物もちしましょうか、家までお送りしましょうか、などとありがた迷惑なことを言う。
「あの、いいんです。オレ、」
言葉が途中で切れた。
かわりに「もがっ」と変な声を出してしまってツナはぱちぱちと瞬く。後ろから口元を手のひらで覆われていた。左腕をつかまれてそっと引き寄せられる。
正面からその人物を捉えた二人は、よりいっそう身を正した。びっくりしているような顔だった。ツナからは後ろが見えなかったが、それでも誰なのかがよく分かる。
「この子としゃべらないで」
雲雀は気持ちを隠すような平淡な口調でそう言った。

「ヒバリさんヒバリさん」
そのまま手をとられて、引っ張られるようにツナも足を進めた。風がふわりと吹いた。それは雲雀の羽織る学ランをはためかせた。
「ねぇ、オレ、人としゃべらない方がいいんですか?」
もしかしたら、自分がしゃべるとぼろが出てしまうのかもしれない。そう思って雲雀に問えば、雲雀は前を向いたままそれに答えた。
「だめじゃないけど、話して欲しくない」
雲雀の言葉の意味はよく分からなかった。なのにどこかうれしい気分になって、ツナは弾んだ声で頷く。
「分かりました。オレ、ヒバリさん以外の人とはしゃべりません」
小さく振り返った雲雀は、少しだけ虚を突かれたような顔をして、それからかすかに笑った。
(きれい……)
時折見せる、その優しい顔が。
自分だけが見るのはもったいない気もして、かといって他の人に見せるのなんてもったいないという思いもする。
伝染病のようだった。彼が優しい顔をすれば、自分も優しい気持ちになれた。彼がうれしいなら自分もうれしい。そんな感情が、ツナにはひどくあたたかいものに思えて、自然と顔が綻んだ。




「ヒバリさん」
お風呂から上がってぽかぽかのきれいな体。
雲雀に後ろから抱き着いて、ぎゅっと体を寄せた。できる限り色のある声で雲雀の名を呼ぶが、雲雀はとくに反応せず、ツナの腕を難なく外す。
こちらを振り返って、雲雀は淡々と言った。
「髪、ちゃんと乾かさないと風邪引くよ」
「……ヒバリさん。きっとオレ、上手ですよ」
自信ありげなツナに、雲雀はまた呆れたようにため息をついた。
「そんなにしたい?」
「だって……」
自分は淫魔だ。人間を惑わして、快楽を与えてやる代わりに精気をもらう。
本来このように一所にとどまるものではなかった。だめならだめで、次へいけばいい。けれどどういうわけか、そんな気にはなれなかった。
そうなると自分の飢餓感を救ってくれるのは、もう雲雀しかいないのに。
「やっぱり、好きな人とじゃなきゃできないんですか……?」
言いながら、ちくん、となぜか胸に痛みがさした。
理由の分からないそれを頭を振ってやり過ごし、ツナは上目遣いで雲雀の機嫌を伺う。
「……そうだよ」
あやすように、大きな手で髪をそっと撫でられて。
ため息交じりのその言葉に、ツナの胸が一際大きく痛んだ。それがなぜなのかはツナにはまだ分からなかった。
だから何とも言えなくて、ただ顔を伏せる。
「…髪乾かしてあげるから、こっちへおいで」

快楽も与えてやれないのなら、自分が雲雀のためにしてやれることはなかった。淫魔とは無力な存在だ。
濡れたままの髪をドライヤーで乾かしてもらいながら、ふと考える。こうやって世話になるばかりで、自分は彼に何もしてあげられていない。
それが申し訳なく思えた。
「ねぇ、ヒバリさん」
かちりとドライヤーの電源を切った音を聞いて、ツナは振り返る。
「何?」
「卵焼き作ってください」
雲雀は訝るように眉をひそめた。
「今から?なんで?」
「急に食べたくなったんです」
ふぅんと釈然としない風につぶやいて、雲雀は腰をあげる。それに倣ってツナも腰をあげた。少し長すぎるパジャマの裾を踏みながら、雲雀についていってキッチンに向かう。
キッチンはリビングとカウンターを挟んで一続きになっていた。カウンターに座って、料理の音を聞くのがツナは好きだった。
けれども今度はカウンターではなく、雲雀の傍に立つ。危ないよ、と言われて少し距離はとったものの、相変わらず離れようとははしないツナに首を傾げながら、手際よく作り始めた。一人暮らしだからだろう、料理には手馴れている。
卵を取り出す。割る。混ぜる。油を引いたフライパン。くるくる。
一部始終を観察するようにじーっと見てくるツナを、雲雀は不思議に思っていた。


朝目覚めると、時計は5時をさしていた。
カーテンを開けると、朝もやがかかったような景色が広がっていた。時間帯によって景色から受ける印象は違うのだとなんとなく思った。すずめがさえずる声を聞きながら、ツナはふあぁと大きく欠伸をする。
作品名:願うことはひとつ 作家名:七瀬ひな