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願うことはひとつ

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ソファーはツナのお気に入りだった。気がつけばよくここで転寝をしている。
今日も日光を受けて気持ちよさそうに寝入っている。ツナの傍らに、雲雀は膝をついた。
日の光に照らされた栗色の髪がきれいだった。
柔らかな髪をそっと梳きながら、ツナの寝顔を見る。幼い寝顔。こうしていると、本当に普通の人間のよう。
以前、何の気はなしに「人間みたいだね」と言った時の、思いのほかうれしそうな顔をしたツナが思い出された。
「人間みたいだよ、どこからどう見ても」
なのに違う。根本的なところで。
ツナが居候し始めてから、どんどんツナのことを知っていった。
子どものようにそそっかしいこと、よく転ぶこと。人となんら変わらないそんな面を知ると同時に、自分とは全く違う存在なのだと思い知らされることもある。
ツナのことを知っていくたび、ツナに笑顔を向けられるたび、手放したくない、そんな思いが胸を占拠した。それは目の離せない子を見守る親の気持ちに似ているのかもしれないし、もしくは全く違うものかもしれない。とにかく、手放せない、と思う。そう思うことはきっと彼にとって残酷なことだった。与えるべきものを与えないくせに、そばに置きたがる。そんな自分に雲雀は途方にくれた。どうすることもできなかった。
髪を梳いていた手を、頬に持っていった。滑らかな肌を楽しんでから、そのまま親指で、ツナの唇をなぞった。ふっくらと、柔らかい。
口付けたくなった衝動を、雲雀は抑える術を知らない。
「……」
柔らかい唇が心地よかった。いつも自分の名だけを紡ぎ、いつもきれいな笑みを象る、ふっくらとした唇。
抑えがきかなくなって、何度も何度もキスを繰り返した。
「ん…」
ツナの体がほんのわずか揺れる。そうしてぼんやりと目を開けた。
「ヒバリさん……?」
まだ寝ぼけているようだった。彼にとっては夢の中なのかもしれない。
いまいち焦点があっていない瞳が、ふっとうれしそうに細められる。ふわりと笑って、
「もう一回」
そう寝ぼけた甘い声をあげるツナに、雲雀は胸がとくんと脈打つのを感じた。
そのまますっと眠りについたツナに、もう一度触れるだけのキスをした。


雨が降り出したのは、昼を過ぎてからだった。
内容は覚えていないが、ひどく幸せな夢から覚めた時には、天気予報どおりの雨天。最初小雨だったのはしばらくもたたないうちに激しい雨に変わっていた。大粒の雨がしきりに窓をたたく。
ソファーに座ったまま、おぼろげな窓の外の景色を見ながら、ツナはため息をついた。今日は散歩などできそうにない。
ただこの雨ではさすがに億劫らしく、雲雀も外出する気配がないのがツナにはうれしかった。
隣に座る雲雀に問いかける。
「ヒバリさん。今日は学校はいいんですか?」
うん、と雲雀は雑誌に目を落としたまま頷いた。雑誌の内容はツナには分からないが、雲雀の持っているバイクの写真がいくつも載っているのが見えた。
「ヒバリさんの通う学校ってどんなところなんですか?」
「別に普通だよ」
「どんなことを習うんですか?」
興味深々に問いかけると、雲雀は雑誌から視線をはずしてこちらを向いた。長い前髪の合間から、漆黒の瞳がのぞく。色素の薄いツナにとって、雲雀の髪も瞳も、憧れるべきものだった。
「君は?」
「え?」
「君は、どんなことを学んできたの?誘い方やし方を学んだの?どうやって?実践で?」
言葉につまってしまったのは、どこか、責められている風に感じたから。ツナはただ首を傾げる。
「……なんでもない」
雲雀は何か振り切るように頭を軽く振り、呟くようにそう言った。そうしてまた雑誌に視線を落とした。
会話を楽しんでくれそうな気配がないのを感じ取って、ツナも雲雀から視線を外した。
なんとなく足元を見ながら、足をぶらぶらさせる。大き目のスリッパが脱げそうだった。足も、手も、どこか頼りなく華奢。
少し、痩せてしまった気がする。
自分が屋敷で教わってきたことは、淫魔の在り方や歴史、それから一般教養程度だった。雲雀の言う、誘い方云々などは教わったことなどない。
小さくてスパルタな家庭教師。学んだことを思い出す。淫魔は自分くらいの年になったら、人の精気がないと生きていけなくなること。
こちらの世界に来て急にだった。日に日に膨れ上がる飢餓感。もしかしたら年齢云々よりも、世界を取り巻く何がしかの要因が関係しているのかもしれない。けれどツナに詳しいことは分からなかった。習った気もするが、もともと記憶力はよくない。
「……ヒバリさん、おなかすいた」
雲雀の服のすそを引っ張って強請る。ツナの真意が分かっていないのか、分かっていても分からぬ振りをしているのか。
雲雀はキッチンに向かう。手際よく料理をし始めた。
「綱吉、できたよ」
おいしそうな見た目どおりにおいしい、雲雀の手料理。自分のために作ってくれたもの。
(すごくおいしいのに……)
それなのに空腹感を拭うことができない自分の体が、ツナにはひどく嫌なものに思えた。


雨はいつまでも止む気配を見せなかった。
やみませんね、なんて談笑しようとした瞬間、けたたましい音が聞こえて思わず小さく悲鳴を上げる。
雷か、と冷静な声が届いた。
「雷……」
窓を見れば雨空にふさわしくない強い光が差す。光が消えたと思ったら、今度はまたひどい音が響いた。ツナは窓から目を背けた。
「か、雷、ここには落ちませんよね…?」
「大丈夫なんじゃないの」
「本当?」
「たぶんね」
体を丸めて、耳をふさぎたい気持ちに駆られた。それを辛うじて耐えて、なんとか平気そうに振舞おうとする。雷を怖がるなんて、子どももいいとこだ。
「あ、ヒバリさん。あの、オレ、片付けますね」
何か別のことに集中していたくて、ツナはダイニングテーブルから立ち上がる。食器類を片付けようと、数枚重ねて持ち上げた。
流しまであと一歩のところで、また雷が轟いた。
「……っ」
さっきよりも大きな音に思わず両手で耳をふさいでしまい、その拍子に皿がガシャンと音をたてて床に落ちた。
割れる音に気づいた雲雀が様子を伺いにくる。大丈夫?と聞かれツナは血の気が引くのを感じた。
「ごめんなさい、オレ、お皿割っちゃって、あの、今すぐ片付けますから」
その時また小さな窓からまた光が差し込んだ。ツナは反射的に身構える。
「……おいで綱吉」
「え?」
こちらに伸びてきたしなやかな腕に、ふわりと抱きしめられて。あたたかい手のひらがあやすように背中を撫でた。
雷鳴が今度は、なぜか遠くでかすかに響いている程度にしか聞こえなかった。
「大丈夫だよ」
あたたかい。香水などつけていない人だけど、どこか甘い香りがした。
抱きしめられているだけで、酔った時の様な心地いい気分になる。うっとりと目を閉じて、雲雀の胸に顔をうずめた。シャツ越しにとくんとくんと雲雀の心臓の音が聞こえる。それを聞いていれば、雷鳴に対する恐怖心が薄れた。
「落ち着いた?」
「あ、ありがとうございます……」
体が離れてしまったことを、残念に思う。もっとぬくもりを感じていたかった。それが無理でも、せめてそばにいたかった。
「あの、ヒバリさん。今日も夜、お仕事するんですか?見ててもいいですか?」
作品名:願うことはひとつ 作家名:七瀬ひな