二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

Sugar Addiction

INDEX|2ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 

 二人で沈んだソファは心地よく、テレビもつけずにぼんやりとしていれば、司がうつらうつらと舟を漕ぎ始める。
「坊、寝るならベッド行き」
「寝ません……お風呂、まだです、から……」
 喋りながらも瞼が落ちるのに逆らえない様子の司を抱き上げて、ベッドに連れて行く。そっと降ろして離れようとすれば、ぎゅっと服を掴まれていることに気づいた。思いのほか強い力に、こはくは溜息を吐くしかない。
 坊、と叱るように呼んでみるけれど、眉を寄せてゆるゆると首を横に振るだけで司は離そうとしない。
「困った兄はん」
 しゃあないな、と苦笑いしてその隣に寝転がる。すうすうと穏やかな寝息を立てるその唇に指の先で触れれば、もにょりと動いた唇はこはくの指先を柔く食み、嬉しそうに笑った。
「夢の中でも食べとるんかいな」
 ほんまに欲張りやな、と下の歯をなぞってから指を抜く。食べられた側のはずなのに、胸の奥がじくりと甘酸っぱい。
「ほんまに苺みたいやな」
 その甘酸っぱさに、誰もが虜になる。
「わしの目ん玉を藤の花に例えるお人なんて、兄はんくらいや」
 昔からそうだ。どこかちょっと変わっていて、信じられないほどわしに甘い。不思議なお人。

 ぼんやりと寝顔を眺めていたこはくは、ある言葉が脳裏をよぎる。花にはそれぞれ『花言葉』が与えられているのだ、と。……教えてくれたのは誰だったか。
ポケットに突っ込んだままだったスマートフォンを取り出してみれば、真っ黒な画面に自分の顔が映った。誰にも見せられない、緩みきった顔。
「藤、花言葉……っと」
これまでの検索履歴とは似ても似つかない言葉を検索すれば、紫色の花の画像と共に並ぶ、美しい言葉の数々。
「【優しさ】、【歓迎】……あとは、【決して離れない】、【恋に酔う】……ははっ、なんやそれ」
 買いかぶり過ぎや、なんて言いながらも頬が熱を持つのが分かる。酔っているのはどちらだろうか。離れないのか、離れられないのか。そもそも花言葉なんてものに振り回されている時点でお察しだけれども。
「こんなん、姉はんらでも調べんやろ」
 笑いながらも検索フォームにもう一つの言葉を入力すれば、今度は愛らしい花が表示される。
「菫は、【謙虚】」
 読み上げた言葉に目を瞬かせる。兄はんはどう考えたって強欲や。……ああでも、変なところで遠慮しいやしな。声を押し殺して笑いながら、次の文字をなぞる。
「【誠実】……あとは、【小さな幸せ】」
 ああ、兄はんのことや。思わず両の手で顔を覆う。この手のひらを握ってくれたのは、沢山の大きな幸せよりもこはくと共に歩むという小さな幸せを優先してくれたのは、他の誰でもない、司だった。
「優しすぎるんよ」
なんでやろな。今は見えないその瞳を憂いながら、長い睫毛の先に触れる。隠れた菫は花咲く前から砂糖漬けだったのだろうか。ふ、と自分の口から零れたのが笑みだったのか溜息だったのか、こはくには分からなかった。

肩まで布団をかけてやり、枕元のスイッチで明かりを落とす。どこか落ち着かないぱりっとしたシーツの中で、甘く香る司の匂いだけがこはくの心を和ませた。
「おやすみ」
そっと額に唇を寄せる。
 どうか、どうか良い夢を。そう願いながら瞼を閉じた。



2.水まんじゅう

 梅雨が明け、思わず浮き足立ってしまうほどの晴れの日。司は数日ぶりの外の空気を存分に吸い込むと、歩みを進めていた足をぴたりと止めた。
「……甘い香り」
 大きな橋を渡ってすぐ。草木の生い茂る中にベンチだけが点々と並ぶ、公園とも呼べないその場所の傍を抜けようとしたところだった。ふわりと風に乗って届いたそれを探して辺りを見渡していると、後ろからぺしりと頭を叩かれる。
「きょろきょろしてたら目立つやろ」
 振り向けばキャップを深く被ったこはくが、怖い顔をして立っている。
「人通りも殆どありませんし……それにほら、あの香りが」
 ああ、あった、と近くの低木の元までこはくの手を引く。少し前までじめじめとしていた空気に混じり始めた、初夏の気配。白く厚みのある花からは、甘い香りが漂っている。
「ああ、クチナシか」
 久しぶりに見たわ、と目を丸くするこはくに、司は優しく微笑む。
「うちの庭にあったでしょう、懐かしいですね」
 ちょっと一休みしましょうよ、と傍に合ったベンチを差せば、肩を竦めたこはくは荷物を下ろす。
 河原を見下ろすように設置されたベンチは丁度上を通る高速道路で影になっており、その周りを四季に合わせて彩られるよう様々な樹木が植えてあるようだった。
 どさり、と荷物を下ろしてこはくの隣に座れば、キャップで仰いでいた風が司の頬を撫でた。
「この匂いを嗅ぐと思い出しますね」
 胸いっぱいにその花の匂いを吸い込めば、横にいたこはくが首を傾げる。憶えていないなんて、そんなまさか。私は毎年この花の匂いを嗅ぐ度に思い出しては赤面していたというのに。



 いつも突然庭に訪れる存在に、漸く飛び跳ねなくなった頃。
「桜河!」
「朱桜の兄はん、今日は何してはるん?」
 こてん、と首を傾けながら歩み寄ってきたこはくに見えるように手元の本を掲げた。
「今日は植物図鑑を読んでいます」
「兄はんは本読むのがお好きやね」
 燦々と日光が降り注ぐ庭で、膝に乗せた図鑑を捲れば、こはくも一緒になって覗き込んでいる。
「これ知っとるよ、登りにくい木や」
「『サルスベリ』と書いてありますね。サルも滑り落ちるほど、ええと……『じゅひ』がなめらか……」
 花の拡大写真を見て、確かに見たことがあった気がするなと頷いた。

「で、朱桜の兄はんはなんでこんなところで図鑑見てはるん?」
 くりくり、と大きな瞳がこちらを覗いている。僕より少し薄い、藤色の綺麗な瞳。どうしたん、と傾げられた首にはっとした私は、見惚れていたのを誤魔化すように小さく咳ばらいをした。
「そちらの花の名前を調べているのです」
 指差したのは、庭の端でひっそりと開く白い花。
「ふうん、綺麗やね。それにええ匂いがするわ」
 にっこりと笑う顔が愛らしくて、司はきゅっと鳴った心臓を隠すように図鑑に顔を埋める。
突然現れることに驚かなくなったと言うよりも、いつも居やしないかと探している。会えない日は寂しくて、会えた時はほんの少し緊張して、嬉しくて、どきどきする。お友達とは、こういうものなのでしょうか?
「坊、何してるん?」
 うずくまる僕の肩を揺さぶった桜河は、よいしょ、と脇の下に手を差し込んできました。
「お、うかわっ……! な、何をするのですかっ!」
「何って、こんな日の当たるところでじっとして、具合でも悪なったんやと思うて」
 縁側までずるずると引き摺られ、本家の威厳も年上の尊厳もあったものではありません。
「大丈夫です、少し考え事をしていただけですから。それよりもまた、『坊』と呼んだでしょう」
「慌ててたから堪忍な」
 心配やってん、とはにかむ姿にまた胸が苦しくなる。司はそんなこはくに背を向けて、縁側から家の中へと上がる。早足で向かったのは、キッチンだった。
 お稽古を頑張ったから特別に、と貰った水まんじゅうを取り出し、お皿に取り分ける。ついでにグラスへ冷たいお茶を注いでお盆に乗せ、縁側へと戻った。
作品名:Sugar Addiction 作家名:志㮈。