D.C.III.R.E
After da capo:Solitary Cattleya 魔術師と魔法使い
夏真っ盛り。とは言うものの、この地下学園都市の風見鶏では、気候は常に過ごしやすいもので一定になっていて、それを感じさせない。
だけど唯一それを感じさせてくれる場所がある。
それはリゾート島。
この島では他の場所とは違って気候が温暖なものに設定されていて、この地底湖も浸かって遊ぶのに丁度いいものになっている。
「はぁー……」
かくいう俺も、恋人と一緒になってこの地底湖で浮かんでリラックスしていた。
「清隆~」
「なんですか」
「久々の休日だって言うのに、私に付き合わせちゃってごめんね~」
「いえいえ。これまでかなり忙しかったんですから、これくらいゆったりしても怒られませんよ」
ここ暫くの間、リッカさんは女王様からのミッションでイギリス中を飛び回っていた。本来ならユーリさんと手分けしてこなす予定だったのだけど、ユーリさんは風見鶏の卒業を間近に控えてて、やるべきを優先した結果、こちらまで手が回らなかった。
結果的にその負担をリッカさんが被る形になってしまった。
だからと言って、ユーリさんを責める気はない。来年の年度末頃は、リッカさんが同じことになってるかもしれないし、その先には俺も控えてる。
それにユーリさんは宮廷魔術師に就職を決めた矢先に、女王様からのミッションを言い渡されて、女王様に付いて色々な仕事をしているらしい。これについてはカレンさんがぼやいてたな……。
「ま、たまの休日と思って、楽しみましょう」
「……そうですね」
願わくばリッカさんの負担を少しでも減らしてあげたい。
でも同じくカテゴリー5のユーリさんは学生から社会人に身分を移した分、仕事や責任が増えてる。
何かあったら頼れ、とは言ってくれてるけど限度はあるし、俺は俺でやらなきゃいけないことがあることは忘れていない。
「なーに辛気臭い顔してるのよ」
「えっ」
不意に俺に覆い被さる影。口に触れる柔らかい感覚。
リッカさんにキスされた。
「俺、そんな顔してました?」
「ええ。私とのデートとは思えないくらい」
相変わらずの自信だ。
「貴方には色々考えることがあるのは分かってるんだけどね」
葛木の宿命と俺が風見鶏に来た目的については、リッカさんに教えている。……強引に言わされたようなものだけど。
「姫乃の事もあるだろうから、無策で動けだなんて言わないけどね」
「けど今そんなこと考えてるのは違いますよね」
「それだけじゃないんでしょ?」
隣のリッカさんが微笑む。
「貴方は私の事も考えてくれてる。大方忙しい私に代わって出来ることはないか、なんて考えてくれてたんじゃないかしら?」
「よくお分かりで」
「貴方の想いはちゃんと分かるわよ」
「このペンダントを通して、ですか?」
俺は首から下げてるペンダントに手を当てた。
「ティンカー・ベルなんてなくても分かるわ。だって貴方は私の恋人なんだもの」
最近は恋人と言う単語を言う時に照れることもなくなったな。
嬉しい反面、ちょっと寂しい。
「そうですね」
そんなことを考えていると、リッカさんが立ち上がり、俺に手を差し出してきた。
「さて、そろそろ行きましょうか」
「行くって、何処に?」
俺はその手を取って立ち上がった。
「もうそろそろ日が落ちるし、帰りましょ」
「もうそんな時間か」
空を見ると、西日がきつくなっている。
結構長い時間こうしていたんだな。
「そうですね、今日は帰りましょう」
俺達は着替えて浜辺を離れた。
「流石に疲れたし、今日は定期便で帰りましょうか」
「そうですね」
水に浮かんでただけでも、結構体力を使うものだ。行きは自前のボートで来たけど、流石に帰りまでボートを操縦する気力はなかった。
俺達は手を繋いで定期便の港まで向かった。
船はすぐ出るらしい。
急いで船まで向かう。
その時だった。
「おん?」
「あら?」
「おや?」
「あれ?」
見覚えのある二人と鉢合わせた。
……見覚えというか、なんというか。
「リッカに清隆じゃないか」
「お二人揃ってデートですか?」
ユーリさんにカレンさんだ。二人は腕を組んで俺達の前に立っていた。
「そんなところよ」
「お二人もデートですか?」
「まあ、な」
「もうすぐユーリさんは本格的にお仕事始まっちゃいますし、学生最後のデートってところです」
「なるほど」
話し込んでいると、汽笛が鳴った。
「あら、もうすぐ出ちゃうみたいね」
「早く乗ってしまおう。こんなところで逃して待ちぼうけなんて嫌だろ」
「ですね」
俺達は定期便に乗り込んだ。
船はすぐに出発した。
席は特に指定のない自由席。
さて、どこに座ろう。
「それじゃ、俺達はここで」
俺達の邪魔をしたくないのか、それとも自分達が水入らずでいたいのか。
ユーリさんはカレンさんの手を引いて去ろうとした。
「ええ、また」
「お気をつけて」
俺達もそれを察して別れの挨拶を――。
「ちょっと待ったぁ」
と思った矢先、カレンさんの声で俺達は一斉に声の主を見た。
「少し四人でお話ししませんか?」
「話って、何を」
「いい機会だし、聞いておきたいことがあるの」
顔を訝しめるユーリさん。
心中お察しします。
「何を聞きたいかによるわね」
「そんなの、私と清隆くんが気になってることに決まってるじゃありませんか」
カレンさんと俺が気になってること?なんとなくわかった気はする。
「ユーリさんとリッカさん、どうやって知り合ったんですか?」
やっぱり。
カテゴリー5同士、接点は見えるけど、その辺りは二人とも頑なに語ろうとしない。何かあったのだろうとは思うけど。
「その話か」
「大体察してたけどな」
二人揃って微妙な顔をしている。
そんな顔をされると余計に気になる。
「確かにそれは気になりますよ」
人のプライバシーの領域の話だけど、気にならないと言えば嘘になる。
というか、あれ?どうしてカレンさんは俺がそれを気にしてることを知ってるんだろう。
ふとカレンさんを見る。
俺の視線に気付いたのか、ウインクされた。なんだろう、これ。
「ま、私は構わないわよ」
「えっ」
驚いて声が出てしまった。
さっきまであんなに話したくないような雰囲気を出してたのに。
「ただ、この話をするとなると気になることがあってね」
「それはこっちの台詞だ。お前こそいいのか?」
「別に構わないわよ。他の人に聞かれなければ」
リッカさんとユーリさんが何か言い合ってる。
話を聞く限り、お互いに話したくない領域の話があるらしい。
なんだろう。
「ま、その空間は俺とカレンが用意しよう」
「私?」
「お前なら出来ることだ」
「それなら清隆でも出来そうだけど?」
「俺ですか?」
なんか、とばっちりを受けてる気がする。
何故に。
「お前ら二人、俺達の過去が知りたいって言うんなら、それ相応の対価を払って貰わないとな」
「大丈夫よ。この四人だけの秘密にはしておくから」
今度は二人揃って怪しく笑ってる。
このリッカさんの言葉の意味、どういう意味だろう。
でもここまで来たら引き返せないか。
「分かりました、やりましょう」
作品名:D.C.III.R.E 作家名:無未河 大智/TTjr