D.C.III.R.E
「……まあ、あいつらだろうな」
俺は表側を見る。
そこには宛名として書かれた俺とカレンの名と差出人の名、そして添えられた一文が書かれていた。
「リッカに清隆、元気そうで何よりだ。そんで『多くの魔法使い集まるこの場所で、毎日楽しく過ごしています。』か。良いところに住んでいるらしいな」
恐らくリッカの字であろう文字は、変わらない筆跡をしていた。
俺は懐かしい思いを抱きながらポストカードを懐に仕舞い、カレンの待つ家の中へ戻った。
その日は風見鶏の学園長室で仕事をしていた。
「そう言えばリッカ達からポストカードが届いた。元気そうみたいだった」
俺は仕事の手を止めずにエリザベスに話し掛けた。
仕事中だが、ここには俺達しか居ない。
雑談だし、友人に話し掛けるような態度をしているが、今は忙しくないしこれくらいは良いだろう。
「私のところにも届きました。いい島みたいですね。えっと……ハツネジマ?でしたっけ、リッカさんと清隆さんが住んでいるのは」
「ああ、初音島な。いいところらしいな」
「そうですよねぇ……」
エリザベスはなにか考えるように首を傾げる。
……あっ、やばい。これ絶対なにか考えてる顔だ。
「ユーリさんは行かないのですか?」
……だと思ったよこの野郎。
「俺は宮廷魔術師だぞ。仕事はサボれねぇよ」
書類に目を通しながら俺は話す。
「そうは言いますが、貴方の為でもあると思いますよ?」
「どういう意味だ?」
俺は手を止め、エリザベスを見た。
なにか意味深な事を言うエリーが気になってしまったからだ。これでは仕事に手が着かない。
「仮にも貴方は魔法使いの端くれ。そして初音島は、"魔法使いが集まる場所"として有名な島だそうです」
確かにリッカがポストカードにそんなこと書いていたな。つまりそれを豪語できるほど魔法使いが沢山住んでいるということだ。
「流石に、公にはそんなこと秘密だそうですが」
つまり魔法使いの間では有名ということか。
「そんで、そこに俺を行かせたい理由は?魔法使いがいっぱいいるからってだけじゃないだろう?」
エリザベスは、一呼吸置いて俺に告げた。
「……実は初音島には、非公式新聞部でも調べられなかった禁呪に関する読本があるそうです」
「なんだって!?それは本当か!?」
俺はらしくも無く身を乗り出した。それをエリーは優しく宥める。
「まあ、落ち着いてください。……そのことは、清隆君から私宛てに親展で届いた文書に書いてありました。どうやら、ユーリさんに直接届けたかったそうですが、一般の郵便システムを使うわけにはいかなかったようで……」
なるほど。つまり、俺に届いたポストカードはカモフラージュということか。粋な事しやがる。
……ちょっと待て。
「お前、その手紙どうやって届いたんだよ」
「……うふふ」
「おいっ!」
何度聞いても、はぐらかされるだけだった。
その日の夜。
夫婦揃った夕食の場で、俺はカレンに話を持ち掛けた。
「なあ、カレン」
「何?」
「イギリスを出る気はないか?」
「なんかやらかしたの?」
「違う。今朝リッカ達から届いたポストカード、あっただろ?」
「うん」
「そこに描かれてた島、初音島に行かないかと思ってな」
「行きたいの?」
「ああ。俺の勘なんだが、そこには俺のこの呪いをどうにかする手段がある……と、思う」
「歯切れが悪いね。どうしたの?」
「今日エリザベスから聞いたんだが、あいつのところにも同じく手紙が届いていたらしくてな。どうやらそこには、非公式新聞部でも調べられなかった禁呪に関する読本があるらしい」
「なるほど、それを自分の目で見たいってことだ」
「ああ」
「それで、付いて来てくれないだろうか」
「そう言うことなら、大歓迎。それでユーリさんの呪いを解くことが出来たら万々歳だし、その島が気に入ったら、残りの人生をそこで過ごすってのも良いだろうしね」
ほっと一息。
けど気になることが一つ。
「ああ、そうだな……」
「歯切れが悪いな、どうしたの?」
「いや、一時的に行くにしてもずっと住むにしても、この国を離れるわけだから、宮廷魔術師も風見鶏も辞めて、一からのスタートになるなって思って」
「そんなこと気にしてたの?」
「ああ」
直後、大きな溜息が聞こえる。
無論目の前のカレンだ。
「そんなの、別にいいよ。お金はちゃんと持ってるし、食べるものと住むところにさえ困らなければ何とかなるでしょ?」
「それはそうだが」
「私に苦労掛けるとか、そんなこと考えてる?それなら気にする必要なし!思い立ったらすぐ行動!きっと悪いようにはならないよ」
「そうだといいな」
「それにユーリさん、非公式新聞部までは辞める気はないでしょ?」
……あっ。
「その反応を見るに、忘れてたな?」
「だからそんなに強気だったのか?」
「勿論。まあ、そっちまで辞める気なら考え物だけど」
「そんな気はない。それに非公式新聞部としても調査できていない場所や魔導書を調査できるんだから、俺に辞められたら困るだろ」
「わお、強気。でもその意気だよ」
「そうだな。……よし、明日エリザベスに話してくる」
「うんうん、私は私で風見鶏の教師を辞めることになるわけだし、決まり次第すぐ教えてね」
「それなら一緒に話をしよう。ちょうど明日も風見鶏で仕事だ」
「タイミングばっちりだね、そうしよう」
◆ ◆ ◆
次の日の夕暮れ。
学生達が帰った後、俺とエリザベスが仕事を続ける学園長室の扉をノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
俺は扉の先にいるであろう人物に声を掛けた。
「失礼します」
扉を開き、学園長室を訪れたのはカレンだった。
昨日の話をしに来たか。
俺は仕事の手を止め、エリザベスに声を掛けた。
「学園長、少し時間宜しいですか?今朝お話した件です」
「分かりました、良いですよ」
俺は席を立ち、備え付けのキッチンで紅茶を三つ淹れる。
そんな俺の傍にカレンが寄ってきた。
「学園長に話したの?」
「いや大事な話があると言っただけだ。本題はお前が来てからと思って」
「なるほど」
そう言うとカレンは俺の傍を離れ、来客用スペースのソファに行った。
「どうぞ、カレンさん。お座りください」
「ありがとうございます」
言われたようにカレンは座る。
その向かいにエリザベスは座った。
俺は紅茶を淹れ終わってから二人の元へ向かい、カレンの傍に座り紅茶を配った。
「ありがとうございます、ユーリさん。それでお話とは?」
「ああ、昨日陛下が提案してくれた話になります」
「私達初音島に行こうと思うんです」
「それはどうして?」
「昨日陛下に教えていただいた、非公式新聞部でも調べられなかった禁呪に関する読本。それを自分の目で見てみたいんです。もしかしたら、それがあれば俺に掛かった呪いを解くことが出来るかもしれない」
「なるほど。ではカレンさんはどうして?」
「私はユーリさんの奥さんですから。旦那様が行く場所に付いていって支えてあげたいんです」
作品名:D.C.III.R.E 作家名:無未河 大智/TTjr