D.C.III.R.E
Epilogue:Refrain when Eternity 辿り着いた世界
「……こんなところか」
俺は一息吐き、大木から手を離した。
離した手を今度は首筋に当てる。
そこにある魔法陣は、まだ熱を持っていた。
「まったく、君は無茶をするね」
不意に聞こえる声。
この声に俺は聞き覚えがあった。いつだったか、境界を越えた迷子を元の居場所に連れ戻す為にここを訪れた時に会ったのだったかな。
「昔、ここに因果を残して時間を巻き戻した魔法使いがいたけど、君は因果だけを過去の時間に飛ばした。どうしてそんなことをしたんだい?こんなことをしても、この<径>の過去も未来も変わらないのに」
「そんなことが気になって出てきたのか、お前は」
俺は鼻で笑い、その答えを返した。
「そんなの、俺がこの<径>でしか存在していないからだ」
「と言うと?」
「昔とある魔法使いに、俺という存在はこの<径>でしか存在していないと教えてもらった。てことは、他の<径>では最愛の人と共に人生を生き切ったということだろう。でも思ったことが一つある。何故そんな事になっているのかと。無数に枝分かれしているはずの<径>で、この俺だけが唯一この時間まで存在しているとなると、何か人為的な干渉があったんじゃないかと考えたわけだ。そんなことするのは、いや、そんなことが出来るのは、俺を除いて他にいない。そんな事情を聞いて行動しそうな奴なんて、他に思い浮かばないからな」
「じゃあ何故、ここまでそれを行おうと思わなかったんだい?」
「決まってる。やらなかったんじゃなくて、出来なかったんだよ。俺はどうやら、カガミの国に嫌われていたらしかったからな」
それは大昔に境界を越えた迷子を元の居場所に帰した時に味わっている。
原因はおそらく、<最後の贈り物>によって体に抱えた魔力が、世界のマナそのものを拒絶していたから。今となっては確かめようがないが、俺はそのように推測している。
「それで、この境界の世界のマナを使って世界に干渉出来る時を待ったと?」
「そうだ」
「一体何の為に?」
「俺を過去に縛り付けない為だ。俺はかなり根に持つタイプでな。一度決めたらそれをとことんやり通すまで足掻く。昔からそれは変わってない」
「恋人の生まれ変わった存在を見つけ出すまで、100年も生き続けてたわけだしね」
「ほっとけ」
「それであんなちょっとの情報を流すだけで良かったのかい?」
「まあ、あんな場面を見たら、俺ならそれを回避する為に全力を尽くす。過去にあまり干渉せずに、過去を変えるやり方を選んだだけだ」
「きっかけを与えるだけで、変えるのはその当事者だと?」
「そう考えてくれて問題ない」
声の主は、まるで腑に落ちたかのようにすっきりとした表情を露わにした。
「まあ、好きにすると良い。それより、通の魔法使いに戻った君は、ここから帰れるのかい?」
「帰れるさ。普通の魔法使いに戻ったからこそ、このカガミの国に嫌われずに、ここの魔力を扱うことが出来る」
俺は掌を前に翳した。そこに魔法陣が浮かび上がる。それはカイの魔法の魔法陣。
周囲のマナを自分の魔力に変換し、魔法陣を起点に扉を開けた。
世界に存在するマナを自分の魔力に変換する魔術は既に確立していた。後はそれを応用してやればいいだけ。
「それじゃあ、帰るよ」
「もう会うことはないだろうね」
「ああ。これから先、ここに用があることはないだろうからな」
俺は扉を潜り、元居た世界へ戻った。
元の世界へ戻った俺を出迎えたのは、最愛の妻だった。
「おかえり、貴方」
「ただいま、二人共」
妻と、妻に抱かれた幼い娘に帰ってきた時の挨拶をする。
娘は待ちくたびれたのか、すやすやと寝息を立てて眠っていた。
「そんなに時間経ったかな?」
「結構経ったかもね」
「そりゃお待たせしました」
俺と妻は笑いあい、肩を並べてその場を後にした。
その時強い風が吹き、桜吹雪が舞い上がった。
作品名:D.C.III.R.E 作家名:無未河 大智/TTjr