D.C.III.R.E
SEQUEL:I will meet you 夢見るままに恋をして
この世界はいつも、移り変わっていく。
そこに私がいること、それは変えようのない現実。
どんな世界を生き抜こうとも、そこにあった笑顔は忘れない。
◆ ◆ ◆
それは存在しなかった記憶。
私が体験したことのない記憶。
だけどはっきりとした輪郭のある記憶。
私はそれがリアルだと感覚的にわかった。
でもそれは荒唐無稽なお話。
ロンドンの地下にある、魔法使い達のための学園都市で過ごした、恋人との短い期間。
ある程度の分別を覚えていた私には、それがリアルだったとしても、イミテーションだと言われるのは目に見えていた。
だから誰にも言わなかった。
私の王子様が迎えに来る、その日まで。
● ● ●
ある夜。
私は夢を見た。
目の前に男性が居る。
でもその人は悲しそうな顔をして、決して涙を流すまいと堪えている。
どうやら私は死のうとしているらしい。
「ユーリ……さん……」
「どうした、カレン」
か細い声で、拙い言葉しか話せない。もう時間は無いのだろう。
「色々、ありましたよね。私たちが出会ってから」
「馬鹿、まだ早いぞ。俺達には、まだ」
私は首を横に振る。
「いいえ、もう私に時間はありませんよ。分かってるはずです」
彼は何も言わなかった。いや、何も言えなかったのだろう。
だから私は努めて笑った。
「……私は……貴方と出会って……貴方の事が……好きになって……毎日がすごく……幸せでした」
「……ああ。俺も幸せだった」
「貴方が私に……世界を教えてくれたんです。一人じゃない……二人の世界を」
「だけど、まだまだだよ。俺はカレンに何もしてあげられていない」
「いいえ……十分もらいました。貴方からの……精一杯の愛情を……」
「だけど……。だけど、これで満足するなよ。俺達はまだ始まったばかりじゃないか!!たった一年半、それも俺が半年いなかったから実質一年だ。それだけしか、一緒に過ごせていないんだぞ!!俺は、後悔しかしてない……。それに、今日俺があんなのに巻き込まなかったらって考えたら……」
「そんな風に……言いますけど……あそこで私を連れていったのは……正しい判断だったと思いますよ。……私が……ユーリさんの立場だったとして……私も……同じ判断をしたと思います」
「……だとしても、俺はお前を巻き込むべきじゃなかったよ……」
彼は目を閉じた。それは涙を堪えるため。
彼の思いが伝わってくる。自分自身を責める、悔やむ思い。
でも私はそう思ってほしくなかった。
だから力の限り手を伸ばした。
「泣かないで……ください。貴方の……長い人生の中では……私との時間なんて……たった一年です。それを考えれば……どうでもいいことでしょう?」
「そんな事言わないでくれ。俺が生涯で愛した女はお前だけなんだから……」
私は驚いた。そして微笑んだ。
「……そっか……ユーリさんの中で……唯一私は……愛されていたんだ……。嬉しいなぁ……」
「ああ……。だから、悲しいこと言うな。お前の事を、忘れるなんて、出来るはずないだろう」
彼の涙は止まらない。それ程までに私を愛してくれていたのだろうか。
だったら、もう一度。
「……でも……ユーリさん……また会えます。いつか……遠い未来で」
「かもしれないな。だが、会えるだろうか……?」
「会えます……きっと。私とユーリさんは……また出会って……私はまた……貴方に恋をするんだと思います」
「……だと、いいな」
彼は深呼吸して、私の手を握った。
「……よし、決めた。俺は生きる。生きて、いつかお前にもう一度会う」
「……期待しないで待ってますよ」
そして私の体を抱き寄せ、口づけをしてくれた。
「どこにいたって、見つけて見せるさ。……愛してる、いつまでも、ずっと……」
「はい。必ず迎えに来て下さいね……。私も、愛してます」
その言葉を発した瞬間、大きな風が吹いた。そして背中の桜の木から桜吹雪が舞い、桜が散った。その散った花びらが全て地面に落ちた時。
――私の意識は途絶えた。
● ● ●
とある日の夜中に起きた私は、珍しく寝汗をかいていた。
恐らく見た夢のせいだろう
なんてリアルな夢だろう。
これまでにも色々な夢を見てきた。
力を疎まれて孤児だった女の子。その才能を見込まれて、とある公爵家に引き取られたこと。地下にある魔法学校。そこで出会った人のこと。魔法学校で学生として学んだ日々。
様々な夢を見てきたけど、ここまでリアルな夢は初めてだった。
――気になる。
この記憶は誰の物なのか。どうして私がこの夢を見ているのか。
「……あれ」
なんでこれが"記憶"だって思ったんだろう。
私は少し疑問に思いつつも、流石に眠気には勝てず、再度眠りについた。
何度も夢を見たが、あの時のようなリアルな夢を見ることは暫くなかった。
それどころか、前から見ている夢を繰り返し見ている……気がする。
その理由が分からず、もどかしい思いをしている。
それに変な夢を見ているおかげで悩んでいるせいか、お父さんやお母さんに心配を掛けてしまっている。
「なんでもないよ」
そうは言うものの、やっぱり親というものは鋭いらしく、私の不調を見破っていた。
だから私はこのことを相談した。そうしたら笑われた。
「そんなの、ただの夢よ」
「気にすることはない。他に楽しいことを考えればいい」
違う。
絶対に違う。
これは夢なんかじゃない。私にとって大切な記憶なんだ。
その時私はハッとした。
どうしてあの夢が"記憶"だって確信があるんだろう。お母さんたちの言う通り、これはただの夢なのかもしれないのに。
「どうしたの?」
考え事をする私を見て、お母さんが私を心配そうに覗き込んでいる。
「なんでもないよ、やっぱり夢なのかも」
お母さん達が信じてくれないなら、これは私一人で何とかするしかないのだろう。
私は人生で初めて大きな覚悟をした。
それは小学6年生に進級したての春の事だった。
● ● ●
夢を見ている。
真っ暗闇の中、目の前に私がいる。
違う。
私にそっくり、まったく同じ顔だけど違う。子供の私とは決定的に違う見た目。大人に近い私?
「そうだね」
じゃあやっぱりこれは夢?
「違うよ。これは夢じゃない」
「だったら何?」
声が出た。びっくりしてそわそわしてしまう。
「場所、変えようか」
目の前の私が指を鳴らすと、真っ暗闇だったはずの場所が、一面緑の草原に変わった。
辺りを見渡すと、大きな桜の木が生えている。
そこに彼女は居た。
「貴女は誰?」
「私は貴女。貴方は私。だけど私は貴女じゃないし、貴女は私じゃない」
「言っている意味が分からないよ」
「そうだなぁ……」
女性は少し考える仕草をする。凄く大人っぽい感じがした。
「貴女は私と同じ魂を持って生まれた存在。つまり私の生まれ変わり、って言えば分かる?」
「つまり貴女は私の前世?」
「そうそう」
女性は笑顔で頷いた。
「貴女、お名前は?」
作品名:D.C.III.R.E 作家名:無未河 大智/TTjr