D.C.III.R.E
俺達四人は、すぐエレベータに飛び乗った。そしてエレベーターは動き出す。俺はそれに、下から上へ押し上げる力を加えた。簡単に説明すれば、今使っている魔法は、エレベーター本体とその中にいる俺達を一つのオブジェクトと仮定して、そのオブジェクトに加速度をかけて下から押し上げるというものだ。
「急に加速するから気をつけろよ」
最低限負担を和らげる魔法も併用するが、それでも油断は禁物だ。
注意を促すと俺は、エレベーターの加速度を上げ、上に上げた。
「わっ」「おっと」「きゃっ」
三人から驚いたような声が聞こえるが気にしていられない。急がねば。
ある程度まで上昇した時、俺は加速を止め、次は安全に停止出来るように魔法式を構築して使用した。するとゆっくり減速していき、到着したと同時に速度がゼロになり停止した。
この間、わずか一分ジャスト。
「……ちょっとは手加減してほしいわ」
「急がせたのはそっちだろうが」
「ごめんなさい」
「というか二人とも、時間が惜しいのでは?」
「そうだったな。急ごう」
清隆に言われ、俺達は急ぐ。
「あっ、ユーリ君達!あそこで魔法使いの人達が!」
時計塔の警備員であるおっちゃんが叫ぶ。
「分かってる。とりあえずおっちゃんは落ち着いて」
「あ、ああ……」
「そんじゃ、急ぐから」
俺は手を振ってその場を後にする。時計塔を出ると、すぐにその光景は見えてきた。
「この国を魔法使いの暮らしやすい国に!」
そのような言葉を発しながら、ウィザリカの一員と思われる魔法使い達がスコットランド・ヤードの人間達と戦闘を行っていた。
しかし違和感があった。
「ユーリさん、見た感じなんですけど、一般の人達はいないみたいです」
「そうか」
カレンも、同じように見えたようだ。実際そうなのだ。
眼前に見える光景に魔法使いとヤード以外の人間はいない。
ならどこにいるのか。
その時、俺のシェルに着信があった。
「なんだエリー、用か?」
その発信主は、エリーだった。
『ええ。先ほど、ヤードの協力の元、ロンドン全体に気象警報と外出禁止令を発令し、なおかつ私の魔法を用いてロンドンにいる一般人のみなさんが外に出たくなるようにしました』
「なるほど、それでこんな状況なわけだ。……てか、エリー大丈夫か?そんなに魔法使って」
『大丈夫じゃありませんよ。多分これで一週間くらいは魔法が使えないと思います』
「無茶しやがって。サンキューな」
『いえいえ』
俺は通話を切り、リッカ達に呼びかける。
「さて、今エリーからの報告で、ロンドンにいる一般人達が外に出てこない状況になっている。これで俺達は周りを気にせず行動できるわけだ」
「あの、ユーリさん。ヤードはどうするんですか?」
「気にするな清隆。俺がヤードに話は付けてある」
5月に入った時点でな。俺はヤードのトップと面識がある。話を通すのにさほど時間はいらなかった。
「そんじゃ、二組に別れてウィザリカの面々に説得していこうか」
三人がそれぞれの言葉で頷く。
そして俺はカレンとともに行動を開始した。
だが事態は深刻だった。
「やめてくれ!こんなことをしても、魔法使い達の待遇は良くならないぞ!」
「そうですよ!それに、言いたいことがあるならはっきり直談判をお願いします!」
「うるさい!政府の回し者が!」
「邪魔をするならば、<失った魔術師>とて敵だ!」
……まあ、俺の事が有名なのはさておき。
このような感じで、誰も俺達の説得に応じない。それどころか俺達を敵と認識し、攻撃魔法を撃ってくるのみだこれでは下手に手を出せばどんな反撃があるかわかったものではない。
とりあえず、リッカ達と合流してみる事にした。
「よぉリッカ、そっちはどうだ」
「てんでダメよ。そっちは?」
「同じだ。……これは奥の手が必要かもな」
「……そうね」
俺達は覚悟を決めた。割と多めに魔力を食う魔法だから、あまり使いたくないんだがな。
「清隆、カレン、防御系の魔法は使えるか?」
「はい」「少し頼りないですけど」
「充分よ。……ちょっと大きな魔法を使うから、その準備をしている間、私たちを守ってほしいの」
「たのむ」
二人は何も言わず頷いた。
「さて、これやるのはいつぶりかね」
「ざっと百年前じゃない?あの時も同じ事が起こったものね」
「今回よりは規模は小さかったけどな」
俺達は背中合わせに立ち、二つの魔法陣を重ねて同時に展開する。"重ねる"というより"紙一枚分ほどの間を持って"と言う方が正しいか。その魔法陣の規模は、ロンドンを軽く包み込むほど。俺達二人は、清隆とカレンが守ってくれている間、自分自身が張った魔法陣に目一杯魔力と思いの力を注ぎ込む。続けること数分。
「流石に、そろそろ……」
「限界……です……」
清隆とカレンが根をあげる。
「もう少しだけ堪えてくれ」
「もう少しだけなの」
俺もリッカも、自身の中にある力を全て出し尽くすくらいの勢いで魔力を注ぐ。いや、俺に限って使い切ることはありえない。だが前回使った時はほとんど使い切り、一日動くことが出来なかった。
その時は先々代女王が助けてくれたが、次の日にはさっぱり元通りの魔力が俺の中に宿っていた。
しかしながら、恐らく今日一日はもう行動不能になるだろう。いや、それくらいの魔力は残せばいいのか。
俺は魔力の無駄を調整し、ある程度の魔力は残しつつ、かつ最大出力での魔法が行使できるように努力した。
結果、割と多めの魔力が体の中に残った。
「ユーリ、なかなか魔力効率が良くなったじゃない。前回とは大違いね」
「お前もな」
俺達は、同時に作業を完了した。
「清隆、カレン、下がれ!」
「でも防御だけは続けて!」
「相変わらず無茶な事言いますね」
「でも、了解!」
二人は俺達に最大限近づき、そのうえでバリアのようなものを張る。
「そんじゃ、行くぞ」
「ええ」
そして声を揃えて叫ぶ。
「せーのっ!!」
同時に両手で地面を叩く。それを合図に魔法が、魔術が行使された。
俺が行使した魔法は、魔法陣の範囲内にいる人間に恐怖を与える魔法。
リッカが行使した魔法は、魔法陣の範囲内にいる魔力を持たない人間と俺達四人を俺の魔法から守る魔法。
魔法陣の範囲とは、共に魔法陣の上の事だ。つまり、俺もリッカも地下以外のロンドン中の人間を対象にした事になる。
それは成功した。
俺とリッカが仁王立ちすると、ウィザリカの面子が腰を抜かして倒れ、後ずさっていく。対して、ヤードを含め、俺の周りにいる人間全員におかしな点は何もなかった。
「成功だな」
「ええ」
俺達は安堵の息をつく。そしてカレンと清隆はバタリと座り込んだ。
「お疲れさん、二人とも」
「付き合わせて悪かったわね」
「いえ、とんでもないです」
「大きくなる前に止められてよかった」
俺達は肩の荷を下ろし、暫しの休息をとる。
それでも気は抜けない。俺の脳裏に、今朝見た夢の景色がちらつく。
――もし、あの夢の光景が本当になってしまったら。
そう思うと、気が気でなかった。
だから気付けたのかもしれない。俺達が普段聞き慣れていないはずの銃声に。
作品名:D.C.III.R.E 作家名:無未河 大智/TTjr