D.C.III.R.E
俺が気づいた時には既に、目前まで迫っていた。
「カレン、危ない!!」
俺は咄嗟に近くにいたカレンを抱き抱え、銃弾が来る方向に掌を広げた。そこに魔方陣が展開し、バリアを作り上げる。
バチィッ!と言うような音がして、銃弾が弾かれ真下へ落ちた。その銃弾は、まるで幻だったかのように霧散して消えた。
いや、今はそんなことを気にしている場合じゃない!
「リッカ!」
「見てたわよ!」
俺の呼び掛けにリッカが反応する。リッカは銃を撃った男を見つけると、そいつに対して拘束魔法を掛けた。
「……こんなとこかしら?」
数十メートル先にいた男が、リッカの魔法で動けなくなっていた。その足元には、型は分からないが拳銃が落ちていた。
「でも、どうして……」
「まさか、あの男は魔力を持っていないのでは」
明確な理由は不明だが、現実に俺とリッカの魔法で動けるはずがない中で、奴は動いていた。
一体何故……?それにあの銃弾はなんだったんだ?
「詳しいことは、奴に聞いてみれば分かりますかな」
「杉並、居たのか」
「当然。陛下の命でこれまで動いていたのだ。この出来事の一部始終を知る権利がありますから」
……実際は事後処理やなんやらの為に居たのだろう。
と言うか、俺やリッカの魔法の上でピンピンしてるってどう言うことだよ。お前だって魔法使いじゃないのか……?
いや、そんなこと考えてる場合じゃないか。
「杉並、あいつを頼めるか」
「勿論。貴方は早く恋人を安全な場所へ」
「助かる」
「杉並、私達も手伝うわよ」
「それには及ばんぞ、グリーンウッド嬢に同志芳野。貴様らも、先の大魔法で疲れているだろう。今は休め」
「……貴方が優しいの、妙に引っ掛かるんだけど」
「何、俺は陛下の為にやっているに過ぎん」
どこまで本当なのやら。
しかし助かるのは事実。
俺は未だ抱き締めたままのカレンを見た。
「カレン、大丈夫か?」
様子を伺うが、外傷はなさそうだ。
「……はい。もしかして、私……」
「銃弾が飛んできた。それを俺が咄嗟に弾いた」
「ユーリさんは大丈夫なんですか!?」
「大丈夫だ。当たらないように防御魔法を使ったし」
「良かった……」
「そう言うカレンはどうなんだ」
「私はなんともありません」
口ではそう言うが、震えているのが分かる。
そりゃそうだ。こんな若さで、そうそう経験することじゃない。
「帰ろう、カレン」
「はい」
そう言い、俺はカレンをお姫様抱っこしながら立ち上がった。
「リッカ、悪いけど俺達は先に戻る」
「そうしなさい。エリザベスへの報告は、私からしておくから」
「後追いで俺もするさ」
「今はいいから、早くカレンを連れて帰りなさい」
「ああ」
学寮、カレンの部屋。
俺はカレンを寝かしつけ、脇に座って頭を撫でていた。
なんとも言えない震えを感じていた。
――もしあそこで、カレンを襲った銃弾を防げなかったら?
本当に夢で見た景色通りの筋書きを辿っていたかもしれない。
そう考えるだけで動機がする。
「……ユーリさん?」
不意に、カレンの声が聞こえた。
見ると、カレンは俺の顔を心配そうに見つめていた。
「カレン……。起こしてしまったか?」
「いえ、そもそも寝られなかっただけです」
「起きていたのか」
「はい」
静寂。
俺にはこれ以上の言葉を掛ける勇気がなかった。
だが、その静寂を破ったのはカレンだった。
「……ありがとうございます、ユーリさん」
言葉が上手く出ない。返事が出来ない。
「咄嗟に私を守ってくれて、凄く嬉しかったです。有言実行、出来ましたね」
――心配するな、俺がきっちり守ってやる。
その事を言っているのだろうか。
「……だが俺は、カレンを危険な目に合わせた。こんなことなら――」
「連れていくべきではなかった、ですか?」
俺が言おうとした言葉をカレンは先回りして言った。
「確かに怖かったですよ。けど、それで私を置いていくのが良かった、なんて私は嫌です」
「しかし……」
「それに、私を同伴者に選んでもらえて、凄く嬉しかったんですよ。信頼されてるんだなって」
歯噛みする俺をよそに、カレンは言葉を続けた。
「ユーリさんが女王様から色んな仕事を請け負って、色んな所を回ってるのは知ってます。そこに今回みたいな危険がありそうだなんてすぐに想像できます。だから私、今回の件を生徒会で対処するってなった時には既に覚悟してたんですよ。ユーリさんの同伴者になることも、その覚悟の上です」
なんて強い娘だ。
「だからユーリさんが気負う必要はありません。それに今日出る前に言ってくれた、俺がきっちり守る、って言葉があったから、安心してユーリさんに着いていこうって思えたんですよ。今回も、これから先起こるかもしれないことも」
……そうか。
俺はこの娘のこう言うところに惹かれたのか。
俺に足りない、芯の強さに。
「ありがとうな。俺のこと、信用してくれて」
「当然です。だってユーリさんは、カテゴリー5の魔術師で、私の恋人さんなんですから」
そう言ってカレンは起き上がり、俺の唇にキスをした。口を離すと、恥ずかしそうにはにかんでいた。
「でも、怖い思いをしたのは事実です。今日は側に居てください」
……こういう強かで我が儘なところも、彼女の魅力なのかもしれない。
「ああ、いいぞ」
今度は俺からカレンにキスをした。
作品名:D.C.III.R.E 作家名:無未河 大智/TTjr