二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

拝啓、すてきな笑顔のあなたへ

INDEX|3ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 

後ろを見なくてもわかる、この背中に流れる風たち。
反発しない風が、前から後ろへ、雫と共に流れてゆく。
雨の日にこの速度で走るには──手で、足で、とにかく鋭く、掻き分ける。
雨粒ではなく、プールのように。

 かき分け、切り裂き、駆け割いて。
 
周りの声は聞こえない、私だけの世界。
気づけば雨音すらも、とうに後ろに置いてきた。
どれだけ走ったのか、もう終わりが近いことだけは感覚でわかる。

杞憂だったのか、はたまた──あの子のおかげなのか。

これだけ自分の走りができれば、雨なんて。
そう、考えていた時だった。
 
ふと、傘をさした人物が目に入る。
あれは、トレーナーさん──と言うことは、ゴールはもう少し。
表情を確認してみようと目を凝らしたとき、無音だった世界に音が追いついた。
 
──スズカ、追いつかれるぞ──
 
そう、ありえないはずの言葉が聞こえた。
 
瞬間、恍惚とした世界に寒気が走る。
反対に後ろから迫る熱。
振り返らなくてもわかる。
 
──誰か、追いついている!
 
目が覚めたように音の洪水が耳を襲う。
いけない、これでは差し切られる!
 
だめ、これがレースなら、いかに、どんなものだったとしても。
 
先頭の景色は、譲らない──!

左足の筋肉が軋み、骨が音を立ててバネのように縮む。
反発を利用して、また地面ごと体を跳ね上げる。
心臓からの血液が熱い。
自分の吐息が、まるで蒸気のように口の端から立ち上る。
思わず平手に力が篭り、我に帰って余分を抜く。
必死に、必死に、前だけを見て、そして、そして──。
私と「それ」は、ほぼほぼ同時にゴールした。
集中力を切らさないまま、思わず後ろを振り返る。
 
すると、そこにいたのは──。
 
「ぜ、ぜえ、はあ……うええ、速すぎです、スズカさん……ぐええ」
 

レース前、顔を真っ青にしていたあの子だった。
「……う、嘘でしょ……」
 瞬間、口をついて出てしまったその言葉に、自分を恥じる。
なんて傲慢、追いつけるなんて──本当に、競り合うなんて、思っても見なかった、そんな自分の、深層心理に。
 「ふ、ふふふ……でも二位、です、スズカさん、相手に……うええ……」
全力を出し切ったのか、満面の笑みで仰向けに雨を受けるフクキタルを呆然と見つめていたスズカだったが、はたと我に帰ると、手を差し伸べに駆け寄った。
 「フクキタルっ、大丈──」
 「あえっ、スズカさん、危な──」
後続のウマ娘が来ていることに気づかなかったスズカは、ギリギリでそれを避けると、バランスを崩して倒れ込んだ。
派手に尻餅をついてしまい、ドロドロになった体操服に己を叱る。
そして後続のウマ娘に一言謝り、もう一度フクキタルの方を向くと──すでに本人が目の前に立っていた。
そして、曇天の晴れ間に照らされる満面の笑みがスズカの瞳に映される。
「もうっ、スズカさん、危ないですよっ」
「う、うん……ごめんね、ありがとう」
差し伸べられた手は、雨に降られた後でもなんだか、暖かかった。