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ポケットにしまう有限の涙と無限の栄光。

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 風秋夕は磯野波平に言った。
「乃木坂の三期デビュー前に、数々の芸能活動こなしてるんだぜ?」
「例えば何よ……」磯野波平はそう言って、中村麗乃を一瞥した。「麗乃ちゃん、そうなんか?」
 中村麗乃は、磯野波平から眼を逸らして、ゆっくりと小首を傾げた。
「トップコート20thスターオーディションでは、ファイナリスト。このみ制服アワードでは、フォトジェニック賞を受賞。ミスアイディー2017オーディションではセミファイナリスト。これだけジャンルの違う世界で次々に爪痕残してるんだぜ、凄いだろ?」
 風秋夕は磯野波平にそう言って、中村麗乃に爽やかな笑みを浮かべた。
「ほんと、業界が認めざる得なかった、逸材だよ。俺が言ってるんじゃないんだぜ、業界が言ったんだぜ、逸材だって」
「全然……」
 中村麗乃はおどけて首を横に振った。
 高い天井にシンプルな空間デザイン、その広大な面積を誇る地下二階フロアに、ボブ・ジェームスの『shamboozie』が流れる。
「これ、……この曲、さっき流れてたラキムってラッパーの『ゲス・フーズ・バック』ていう印象的なトラックの、元ネタの人なんだ。ボム・ジェームスって言って、ブラインド・メン・キャン・シー・イットって曲は、スヌープとか、クーリオとか、ブラックストリートとかにもサンプリングされて使われてる。他にも沢山の有名アーティスト達にトラックをサンプリングされてる凄い人なんだよ。元ネタの偉人だな」
 齋藤飛鳥だけが「ふうん」と息をもらして聞いていた。皆は各々が別の話題で持ちきりである。
「飛鳥ちゃんだけだよ、俺はいつだって……」風秋夕は感動する。
「夕君、夕君、ねえねえ飛鳥さん」
「はい?」
「ん?」
 山下美月がふいに二人を呼んだ。齋藤飛鳥は山下美月に振り向いていたが、風秋夕だけは齋藤飛鳥をしきりに見つめたまま声だけが山下美月に反応していた。
「これ、ていうもの、何かあります?」山下美月は笑みを浮かべて二人に言う。「私だったら、ダジャレでえ、エキゾチックに駅増築、を越えた事がないんですけど」
「私だったらぁ、例えば、白石さん、とかなんだけど」梅澤美波は同じ話題に居たらしく、二人に笑みを浮かべて言った。「これ、て、何かありますか、お二人」
「なぁい、かなぁ……」齋藤飛鳥は考えるのが面倒くさくて即答した。
「これって、……何だろうね」風秋夕は考える。「乃木坂が始まった年からは、もう全部が乃木坂になっちゃうから、その前だよなぁ……」
「例えば、夕君洋楽とか好きだから、これって曲とかさ」山下美月はわくわくした表情と声で言った。「なんかないの?」
「そういえば、赤ちゃんの時だよね」風秋夕は微笑む。「俺は、子守歌がわりに、スウィートボックスのエブリスィングス・ゴナ・ビー・オーライを聴いてたみたいだよ」
「スィートボックス?」山下美月がきく。
「イーサン、スウィートボックスの、エブリスィングス・ゴナ・ビー・オーライかけて。すぐに頼む」
 電脳執事のイーサンの応答の後に、広大な地下二階のフロアに、スウィートボックスの『エブリシングス・ゴナ・ビー・オーライ』が流れ始めた。
「ああ……、いい曲……」
 山下美月は美しい眼差しで天井を軽く見上げて呟いた。齋藤飛鳥も、梅澤美波も、耳を澄まして楽曲を聴いている。
「母親が好きだったんだろうな……。全てうまくいくよ、ていう曲なんだけどさ。俺は苦難にも屈しないポジティブな子守歌に育てられたみたい。おかげで前向きだよ。何事も、やるだけやって、倒れるなら前のめりだ。とりあえず飛鳥ちゃんに好き好きの認知してもらわないと」
 風秋夕は微笑む。視線の先には齋藤飛鳥がいた。
「しぃまぁせん」
「あきらめないもーん」
「あきらめろ」
「またー、飛鳥ちゃん鬼教官じゃーないんだから」
「イーサン、クリア・アサヒのおかわり貰えますか?」山下美月は高い空中を見上げて注文した。電脳執事のイーサンからの応答がある。「ふえ~~……。酔っぱらっちゃったぁ……」
「美月たん!」
山下美月の発言を地獄耳で聞き逃さなかった磯野波平は、ハンサムに微笑み、凛々しい顔つきでソファを立ち上がった。
「今夜は君を帰さぬいょ……痛って…噛んだっ」
「それはファン同盟の呪いだよ」稲見瓶は無表情で言った。
「与田ちゃん、量産型リコ、始まっちゃうね~!」風秋夕は嬉しそうに与田祐希に微笑んだ。「どうなの、感触的には?」
「感触ぅ? あドラマのぉ?」与田祐希は上目遣いで宙を覗いて考える。「う~~ん」
「感触はなあ、やわっこくてぇ……、肌触りが良くてぇ……」
 舌が復活した磯野波平は、奇妙な笑みを浮かべて両手の指先をわさわさと動かす。
 風秋夕は嫌そうな顔で磯野波平を一瞥していた。
 乃木坂46のメンバー達は電脳執事のイーサンを呼び、クリア・アサヒをおかわりする。今宵も賑やかな夜になりそうであった。

       9

 乃木坂46・山崎怜奈・卒業企画『乃木坂ラジオほぼ全ジャック‼』が二千二十二年六月二十六日の『秋元真夏・卒業アルバムに一人はいそうな人を探すラジオ』を皮切りに、二千二十二年七月八日の『沈黙の金曜日』まで続いた。総じて全十番組をラジオ・ジャックするという山崎怜奈の卒業企画は大成功を収めた。
 一転して、二千二十二年七月十日。今宵の〈リリィ・アース〉では毎年恒例ともいえるお祭りが催されていた。
「あれ? 夕、おい夕、どこ行った~?」
 齋藤飛鳥はいらなくなった食べかけの綿菓子をぶらぶらとさせながら、夕焼け色に染まった会場も人混みに、風秋夕の姿を探していた。
 広大な面積の〈リリィ・アース〉地下二階のエントランス・フロア全域に、地図を描くように出展された数々の屋台が賑やかなのは勿論の事、星形に五台並んで建つエレベーターの前にはやぐらが組まれており、やぐらの上で、フンドシ鉢巻の男が華やかに盛大に大太鼓を叩いている。
 現在流されている音頭は『東京音頭』であった。
「あれ、おおお、よ~く来てくれたねえ、五期生のみんな!」
 風秋夕は、満面の笑みで彼女達を迎えた。
「ここの事、誰かに聞いてる?」
 風秋夕は優しい笑みを浮かべて言った。
「はい。先輩方に、ここをうまく使うといいよって、教えて頂いてます」
 冨里奈央は、こぼれそうな笑みを浮かべて答えた。
「今野さんにも聞いたよね?」
「うん」
 菅原咲月は一ノ瀬美空の耳元で囁いた。
「ようこそ、五期生の皆さん。俺はここのオーナーの風秋夕。ふあき、ゆう、です」
 風秋夕は微笑む。
「井上和です」
 井上和は、風秋夕の眼を見つめたままで、小さな会釈をした。
「奥田いろはです」
 奥田いろはも、可愛らしい笑みを浮かべながら小さく会釈をした。
 続いて、乃木坂46五期生の短い自己紹介の時間になった。
「うん、もちろん全員知ってるからね。自己紹介ありがと。俺は今、二十二歳で、君達を応援する少数精鋭の団体、乃木坂46ファン同盟でもあります。さあ、これからここは君達の自由な空間だよ」
 五百城茉央が、不思議そうに上目遣いで言う。
「あのう……、普通に、一人でも来て、いいんですか?」
「もちろんですともお姫様。ぜひ!」
 小川彩が笑顔で言う。