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ポケットにしまう有限の涙と無限の栄光。

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「ご飯とか、ジム施設とか、ただで使っていいって、聞いたんですけど……その」
「それも本当です」風秋夕は笑った。「ここは乃木坂の住処(すみか)、全部自由だし、無料だよ。プライベートも守られてるから、後で詳しいルールみたいの教えるね」
 岡本姫奈が緊張しながら言う。
「えダンスレッスン、とかも、するところ、て、あったりするんですか?」
 風秋夕は微笑ましく頷いた。
「あるある。プールだってサウナだって、食堂だってジムだって映画館だってカラオケだって、鏡のレッスンの部屋だって、エクササイズ・ルームっていうんだけど、何でもあるよ。地下二十二階までに、多くの施設があるから」
「え~すごい」岡本姫奈は驚いた。
 一ノ瀬美空は、眼を輝かせながら、口角を引き上げて言う。
「えこのお祭りも、お金って使わないでいいんですか?」
「使わせまぁせん!」風秋夕は微笑む。
 池田瑛紗は少しだけ怯えたように畏まっており、中西アルノは冷静に質問のアンサーを記憶している様子であった。
「みんなの個人の部屋も用意してあるから、詳しい事は後で説明するからね。まずはお祭りを楽しんで下さい。ファン同盟意外には、祭り運営のスタッフ。それ以外に部外者は絶対にいないから。安心して遊んで」
 乃木坂46五期生達は、微笑んでそれぞれが個性的な返事を返していた。
 お祭りの参加者は、乃木坂46とそのOG、そしてそのマネージャー達や、今野義雄氏達である。無論、主催側の風秋夕を始めとして、乃木坂46ファン同盟も全員揃っている。否、お祭りには不釣り合いな、はるやまのスーツ姿であるが。
 ゲストである乃木坂46達は浴衣を着るものもいれば、私服で参加しているものもいる。OG達も服装は様々であった。
 広大なお祭り会場は、すっかりと朱色とオレンジのライティングに染まり、夕焼け時を演出されている。
 時刻は既に、完全な夜に包まれ始めていた。
 今野義雄氏は、稲見瓶と山崎怜奈と鈴木絢音と堀未央奈と遭遇し、脚を止めた。稲見瓶達四人は、四人共が私服姿であった。無論、今野義雄氏も私服姿である。
「稲見、父親は来ないのか? 今年も」
「え? はい。ここの予定の事は、知りもしないですよ」
 今野義雄氏は、その手にカップスターを持っている。山崎怜奈と、鈴木絢音と、堀未央奈が、そそくさと今野義雄氏に気さくな挨拶をした。
「おうおぅ、楽しんでるか?」
鈴木絢音は笑みを浮かべる。「この雰囲気が、毎年好きで……」
堀未央奈が言う。「今年は参加できたんで、これから楽しもっかな~って」
山崎怜奈は二人を見て言う。「他の二期生には、まだ連絡つかないのう?」
「北野はあれだろ、鎌田行進曲の舞台中だろ?」
 今野義雄氏はそう言って、カップスターを食べ始めた。
「なんか、他のみんなもまだお仕事終わってないみたいで……、連絡、まだ既読つかないんよねー……」堀未央奈はスマーフォンに視線を落として言った。二人を見る。「てか、五期生、来てるんだって」
「来てるぞ」今野義雄氏は麵をすする。「挨拶しろ挨拶、色々教えてやれ」
 稲見瓶はグミを食べている。
「あ、稲見、それどこにあった? なんだぞれ」
「ピュレグミです。まりっかのCMしてる商品で、屋台に出てますよ。何処だったかな……、確か、場所は」
「いいよいいよ、僕はほら、ぶらぶらするの嫌いじゃないからさ」
 そう言って、今野義雄氏は小さく片手を上げて、四人に背を向けて夕焼けの会場に紛れて行った。
 今野義雄氏と入れ替わりに、秋元真夏と松村沙友理と新内眞衣が、稲見瓶達四人のいる金魚すくいの屋台の前に歩み寄った。秋元真夏と松村沙友理だけはお祭りの運営が用意した浴衣を着用していた。新内眞衣は私服姿であった。
「あーあれ、未央奈!」
新内眞衣は、堀未央奈を指差して、驚いた顔をした。
「もうまいちゅん、既読つかないじゃんかー」
 堀未央奈は怒った顔をする。
「えーごめん、え、鳴ったかな、鳴んなかったような……」
「ちゃんと確認して」堀未央奈は溜息をつく。
「は~い、すいませ~ん」
 新内眞衣は両肩を上げて、眼を背けて謝罪を口にした。
「金魚すくいするの?」
 秋元真夏が笑顔で、二期生達に言った。
「やろうかなー、と」鈴木絢音は答えた。
「ちゃんと飼えるの?」秋元真夏はきく。
「いいえ、飼えません……。あ」そこで、鈴木絢音は思い当たったように、秋元真夏に薄い笑みを浮かべる。「怒って下さい」
「は?」
「飼えないのに、金魚すくいをしようとしています。怒って下さい」
 鈴木絢音は笑顔で言った。
「やだよ」秋元真夏は苦笑を浮かべる。「別に、すくったら、金魚お店に返せばいいんじゃない?」
「怒って下さい」
「いーやーでぇす」
 松村沙友理は笑う。「ふふ、何、なんやの、新しい遊びかなんか?」
「絢音ちゃんは、キャプに怒ってほしいんだよね?」山崎怜奈は微笑んで言った。
 鈴木絢音は無言で頷いた。
 堀未央奈と新内眞衣は金魚のプールの前でしゃがみ込み、既に一人二枚目のポイを使って金魚すくいを楽しんでいた。
 樋口日奈と和田まあやが、金魚すくいの屋台の前に参上した。
「未央奈うまーいじゃーん……」和田まあやは感心する。「まいちゅん、へったくそ、はっは」
「え、まあや、うまいの?」樋口日奈は和田まあやをセクシーな視線で一瞥したが、決して誘惑しているわけではない。「やった事あるう?」
「あーるある、あーるよー。ちまやろうよ」和田まあやは樋口日奈に笑った。「えじゃあ、じゃさ、勝負しようよ」
「この出目金、いっつも狙いたくなるー」松村沙友理も浴衣の膝裏の裾を上品に手で押さえるように折って、その場にしゃがんだ。「てか、でっかくない? 出目金~、これ乗る~? 乗らへんのとちゃう?」
「奥義があるんですよ」山崎怜奈は言った。「こう、この金魚すくいの、わっかのー、枠に乗せるんですよ、金魚の身体を」
「とりあえずやってみよっか」秋元真夏は、上品に膝を折って、しゃがみ込んだ。「あの、取るやつ、何ていうの? 取るやつ下さい」
「ポイですね、はいよ」
 金魚すくい店の二十台ぐらいの男性店主が、皆にポイを配った。
 山下美月は向井葉月を大袈裟に指を差して笑った。
「あっはっは、葉月さんやばいっすよー」
「んー?」
 向井葉月の口元にはたこ焼きの青のりや鰹節、ソースやマヨネーズがくっきりとついていた。
「やんちゃすぎ」山下美月は尚も笑う。
「もっと女の子らしく食べれないのかい」梅澤美波も笑った。「それじゃ波平君じゃん」
「梅ちゃんはお上品ですわね」
 御輿咲希はうっとりとした眼で梅澤美波に言った。
「たこ焼きも、梅ちゃんの前ではオシャレ・フーズですわ」
「葉月が可笑しいんだよ」梅澤美波は苦笑する。
「なんか、ついちゃうんだもん……」向井葉月は口の周りをなめる。
「なめるな」山下美月は更に笑う。
「おいひい……」阪口珠美はたこ焼きを一口で口に入れた。
「ほらあ、たまちゃんみたいにして食べればいいんだって」山下美月は向井葉月に言った。
「あっついんだもん」向井葉月は顔を険しくさせる。口元を手首でぬぐう。
「手でふくなって」山下美月は笑う。
「フーフーすればいいんだよ、こうやって。フー、フー」