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ポケットにしまう有限の涙と無限の栄光。

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与田祐希はそう言ってから、湯気の昇るたこ焼きに息を吹きかけて冷ましていく。短く持ち過ぎたつまようじから、大粒のたこ焼きが崩れ落ちて、与田祐希の指先を襲った。
「ああ~っちい、あっち! あっつうい……、あ」
 与田祐希は、そのまま、たこ焼きを一粒、床に落としてしまった。
「何やってんの」久保史緒里は呆れて苦笑する。たこ焼きを食べる。「ああっく! あくい、ああっくうい!」
 山下美月はどたばたとしている皆を笑う。
「与田、三秒ルール三秒ルール、いけるよ」佐藤楓はにやけた。
「三秒、無理だよ~……」与田祐希は火傷しそうであった右手をブラブラとさせながら苦笑する。「べちゃ、て言ったよ~……」
 宮間兎亜は、与田祐希の落としたたこ焼きを、カラの器の上に俊敏に処理した。
「あ、ありがとうございます。すいません……」
「与田ちゃんの食べかけたたこ焼きだもん。金になるわ」宮間兎亜は小首を傾げた与田祐希に、半眼でにんまりと笑う。「来栖のやつに売り飛ばすのよ」
「やーめなさい」梅澤美波は座視で言った。
 そこは様々な種類のたこ焼きを取り扱っている、会場の中央辺りに位置する屋台であった。
 三期生達は、皆がお祭りの運営が用意した浴衣を着用していた。実に風流な集団である。
 駅前木葉は、出来立てのたこ焼きを店主から受け取り、それを丁寧にそっと、中村麗乃と伊藤理々杏に手渡した。
「ありがっとー」
中村麗乃はご機嫌で言った。美味しそうにたこ焼きを見つめている。
「えっきーは食べないの? フ~、フ~」
 伊藤理々杏は、熱々のたこ焼きに息を吹きかけながら、駅前木葉を一瞥して言った。
「ああ、ええ、私も頂きます。お店の方に冷めるまで置かせて頂いているんです」
「あったかいのが美味しいのに~」伊藤理々杏はつまらなそうな表情で呟いた。
「猫舌カモミールティーなんです、私」駅前木葉は微笑んだ。
「たこ焼きって何でこんなに熱いんだろ」与田祐希は鰹節の踊るたこ焼きを見つめる。
「焼きたてだからだよ」山下美月が答えた。「え。与田ってお馬鹿?」
「桃子とも会いたかったね」
 梅澤美波は皆を見回すようにして言った。
「一応、連絡は入れたんだけどね」梅澤美波はそう言った後で、大きなセクシーな口でたこ焼きを頬張った。「はぶんこえない、っていうからさ。こえたら、きなおって言っこいたんがけご」
「解読不能」与田祐希は呟いた。
「何?」山下美月は片眼をすぼめて梅澤美波にきき返す。「なんてったの?」
「も、いい。あこで」
「後で、だって」佐藤楓は笑った。
 向井葉月は熱がりながら、たこ焼きをかじっていく。その口の周りにはマヨネーズや青のりが見事に張り付いていた。
「そんであんたは子供かっ」山下美月は笑った。「やんちゃすぎるだろ。乃木坂でしょ?」
「乃木坂ですけど」向井葉月は眉を上げてにやけた。
「はい。もう食べ終わった!」吉田綾乃クリスティーは笑みを浮かべたまま、カラになったたこ焼きの器をごみ入れへと捨てた。「へっへー、いっちば~~ん!」
「何で? 超早くない?」
 ちびりちびりとたこ焼きに噛り付いている岩本蓮加は、不思議そうに吉田綾乃クリスティーに顔を向けた。
「最初っから冷めてた作り置きもらったから」吉田綾乃クリスティーは屈託なく微笑んで、ピースをした。
「あ、写真撮ろうよ」
 佐藤楓がたこ焼きを食べながら言った。
「れんか、今ケータイ出せない」
「あじゃあ、僕が撮るよ」
 伊藤理々杏は、胸元から器用にスマートフォンを取り出して、それを慣れた仕草で上方に構える……。
「わたくし達は、ファン同盟の掟でNGですので、外れますね」
「あ、そっかそっか」梅澤美波は言った。
「あたいも写りたいたいわ~」
「お二人とも、ちゃんと守ってくれているんですね。さすがです。規則なので、守りましょうね」
 御輿咲希と宮間兎亜と駅前木葉は、伊藤理々杏の構える写真のアングルから反れた位置まで移動した。
「口に青のりついてない? 大丈夫?」久保史緒里はきょろきょろして言う。「ねえ、見て見て」
「指、痛いの無くなった……」与田祐希は、親指の先端を口に咥えた。
「くわえるな」山下美月は笑う。
「帰ったら、ヴァロやろうっかなー……。それかー、サマータイムレコード聴こうかなー。この時期聴きたくなるんだよなー」岩本蓮加は呟いて、ピースサインを作った。
「ぴぃーす!」
「いえーい!」
「いぇ~~!」
 中村麗乃と佐藤楓と阪口珠美は、ピースサインをひっくり返して笑顔でギャルピースを作る。
 皆が写真のアングルに何とか収まった。
「はーい、撮りま~~す!」
 伊藤理々の掛け声の後、記念写真にと連続で何枚かシャッター音が切られた。

 カシャシャシャシャ――。

「飛鳥ちゃん、見ぃ~っけ!」
 風秋夕はにこり、と歩みを止めた私服姿の齋藤飛鳥に、悠々と微笑んだ。
「何処ほっつき歩いてた」
 齋藤飛鳥は、ん――。と、ほとんど食べ残した綿菓子を、風秋夕に差し出した。
「はーい」風秋夕は、綿菓子を受け取った。そしてそれを一口食べる。
「あ、ちょっ、と~……、食ぁべないでよ」
 齋藤飛鳥は表情を険しくさせて、苦笑を浮かべる。
「そういう事していいの、いいんだっけえ?」
 齋藤飛鳥は凛々しく言い放ち、真っ直ぐに、風秋夕を見据える。
「先日、ディープステート・グローバリストの血族に数えられまして、また一つ、飛鳥ちゃんに相応しい男になれたかと」
 風秋夕は精彩に、微笑んだ。
 齋藤飛鳥は、片方の口元を引き上げる。
「なに、あんた世界の支配者になんの?」
「ううん。支配したいのは、いつだって明媚(めいび)な飛鳥ちゃんの心だよ」

       10

 川﨑桜はイチゴ味のかき氷を両手で胸の前に持ったまま、凍り付いてしまったかのように、その場から一歩も動けずにいた。
 川﨑桜のその視線の先には、磯野波平がいる――。二人は無論、今夜が初対面であった。
「さくたん……」
「……はい」
 川﨑桜は、なんとか振り絞った勇気で声を返した。ただただ、突然に眼の前に現れた男の存在感に野生の勘のようなもので危機を覚え、脚が動かなくなってしまったのである。今はただただ、磯野波平を凝視している。
「さくたん初めましてオラ悟空だ……」
「……」
 川﨑桜は表情を変えない。少しだけ怯えた、無表情である。
「さくたん……、ものほんはテレビより可愛いって、マジなんだな……、結婚してくれ」
「……」
 川﨑桜は、一歩だけ、ゆっくりと後退した。
「さくたんよぉ……、ハンサムだろうが、俺はぁ……」
 磯野波平はそう言って川﨑桜に歩み寄る。
 川﨑桜は恐怖のあまり、身動きが取れなかった。
「どうしたの?」
 冨里奈央がその場を通りかかり、不思議そうに小首を傾げて二人の様子を窺っていた。
「何してるの? 知ってる人?」
 冨里奈央は川﨑桜にきいた。
 川﨑桜は首を横に振る。その顔は今にも泣き出しそうであった。
「知らない人?」
「知らなぁい……」
「奈央ちゃん初めましてオラ悟空!」
「わあ!」
 磯野波平のけたたましい発声に、冨里奈央は驚いてかき氷を床に落とした。
「あー、落ちちゃ……た、いや、あのっっ」