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ポケットにしまう有限の涙と無限の栄光。

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 磯野波平は、冨里奈央に近づいて、彼女を赤ん坊を抱っこするような形で抱き上げ、そのまま、慌てふためく冨里奈央を肩に担いだ。
「おっれはー、ハンサム~、よっめはー、乃木坂~」
「……」
川﨑桜は恐怖で何も言えない。ただただ、磯野波平と連れ去られそうな冨里奈央を凝視している。
「わあ~……」冨里奈央は肩に担がれたまま、大人しく驚いていた。
「奈央たん」
「はい?」
「結婚しようなあ、があっはっは!」
「えぇぇ~?」
「待て、すぐに奈央ちゃんを下ろすように、波平」
 川﨑桜を伸ばした片手で守るようにして、稲見瓶がその場に通りかかった。
「あぁ?」磯野波平は振り返る。「けっ、な~んだ眼鏡野郎か、しかもヲタク野郎」
「お前もヲタだろう」稲見瓶は眼鏡の位置を直す。「いいか、夕が来る前に、奈央ちゃんを安全に床に下ろせ。さもないと」
「さもないと?」磯野波平は座視でにやける。
 冨里奈央は、担がれる事で少しだけ弱ってきていた。
 川﨑桜は稲見瓶と磯野波平を交互に凝視する。
「さもないと、五期生に嫌われるよ」
「なんで!」磯野波平は驚愕する。「好きだからやってんだよぉ! 大好きだから持って運ぶんだろうが! 宝だから!」
「波平、お前は病気だ」稲見瓶は無表情で溜息をついた。「普通じゃない、のは知ってるけどね、普通好きな子にはそうはしない。運んだりしないもんだよ」
「じゃあどうすんだよ!」
磯野波平は、そっと、ゆっくりとした動作で、冨里奈央を床に立たせた。
「大丈夫?」
 川﨑桜は冨里奈央に駆け寄った。
「はぁ~……。大丈夫ぅ……」
 冨里奈央は、疲れた表情で、頑張って微笑んだ。
「好きな子には、優しくするもんだよ」
稲見瓶は言った。そのまま移動して、川﨑桜と冨里奈央を背中側に隠した。
磯野波平は顔をしかめながら、少し考えて、奇妙な笑みを浮かべた。
「奈央ちゃんさくたん、俺ぁハンサム・ザ・波平・磯野ってんだ。好きになってくれよ、優しくすっからよう。なあ? 嫌じゃねえべ?」
 稲見瓶は短く眼を瞑って、小さく首を横に振った。それから二人の五期生を見つめる。
「桜ちゃん、奈央ちゃん、彼が唯一危険人物かもしれない。後は大丈夫だから。ちなみに俺は稲見です。イナッチと呼んで下さい。よろしく」
「あー、イナッチさん? あーはぁい、知ってます。先輩方から聞いてます」
 冨里奈央は驚いたように大きな瞳でそう言ってから、上目遣いで「よろしくお願いします。初めまして、冨里奈央です」と、とろけそうな笑顔を浮かべて自己紹介をした。
 磯野波平は、奇妙な笑顔のままで、動かない。時を止めている。稲見瓶は挨拶を返していた。
「あ、……川﨑、桜です。よろしくお願いします」
 川﨑桜も、整った顔をほぼ無表情にして、稲見瓶を上目遣いで見上げながら、自己紹介した。
「みんなは、他の五期生は何処にいるの?」稲見瓶はきいた。
「えっとぉ、たぶん、あっちの方に……」冨里奈央は先の方向を指差した。「さくたんと私は、かき氷を最後の方に頼んだから、みんなに遅れちゃって……」
 清掃スタッフらしい青年が、床に零れたかき氷を掃除しに来た。彼はお祭りの運営に雇われたファースト・コンタクト(株)の社員である。稲見瓶は軽くお礼を言った。
「そう、わかった。じゃあみんなのところまで一緒に行こう。波平はね、ああ、あの男は磯野波平という名前でね、暴れたら誰も手に負えないんだ。でも正論が通じないような相手ではないから、彼にからまれたら、力よりも頭を使うといいよ」
二人ともが「はい」と答えた。
稲見瓶は、磯野波平を一瞥する。
磯野波平は、奇妙な笑みをとき解き、羨ましそうに稲見瓶を威嚇して見つめていた。
「じゃあ、行こうか。さくたん、奈央ちゃん」
「はい」
「はぁい」
 磯野波平は、諦めたかのように見せておいて、ひっそりと三人の後を追う。少し離れた場所に、五期生の集団があった。
 稲見瓶は五期生の全員に自己紹介と挨拶をした。五期生達も稲見瓶に自己紹介を済ませた。
「イナッチさん、なんか、想像通りかも……」
 中西アルノは、微笑みそうな表情で呟いた。
「そう。どんな想像かは、想像を楽しむ事にするよ」
 稲見瓶は中西アルノに薄く微笑んだ。
「夕さんとどっちがモテますか?」
 一ノ瀬美空は陽気な笑みを浮かべて言った。
「こら、失礼でしょ」
 それを菅原咲月が阻止した。
「モテませんよ。体重は七十キロ以上あるからね」
「はあ……」
 稲見瓶はピリッとジョークをかましたつもりであったが、現実では一ノ瀬美空の顕在的な笑みを見事に奪ってしまっていた。一ノ瀬美空はぽかんとしている。
「おほん」
「背、高いですね……」
 五百城茉央が照れながら言った。
「何センチあるんですか?」
 井上和ははきはきと笑みを浮かべて稲見瓶に言った。
「百八十センチです。もう少し、伸びてるかもしれないけどね。測ったのは高校の時だから」
「イケメンですね」
 奥田いろはは満面の笑みで、稲見瓶をからかうように言った。
「イケメンが好きですか? ここには、イケメンな人ばかりいると思いますが、磯野波平という人物だけは、友達になるまで気を抜かないで下さい。そいつは想像以上に外見がイケメンだから、本当に気を付けて下さい」
 奥田いろはからも、稲見瓶は見事に笑みを奪ってみせた。
 稲見瓶は、このままではいけない、と心に強く思う――。
「アルミ缶の上にあるみかん……」
 稲見瓶は唐突なジョークをかました。
 五期生達は戸惑っている――。岡本姫奈だけは、くすっと微笑んでいた。
「あははは」
 岡本姫奈は声を出して笑った。
 稲見瓶は、内心ほっとする。だが外見は無表情のままであった。
「あの、何て言ったんですか?」
 そう呟いて、池田瑛紗は恐る恐るといった上目遣いで稲見瓶を見上げた。
「アルミ缶の、上に、ある、みかん」
 稲見瓶は無表情で説明した。
「あ~あ、…はっは、あはは」
 池田瑛紗は、理解して、少しだけ笑ったが、その眼は稲見瓶の表情から離れない。
「怖い人じゃないの。助けてくれたの、さっき……」
 冨里奈央は、笑顔で、五期生達に先程己と川﨑桜に降りかかった災難の事の詳細を説明した。
「俺がハンサム・ザ・波平・磯野だ! みんな愛してっぜーっ!」
「‼‼」
「‼?」
 五期生達の前に、突然に磯野波平が姿を現した。上着を全て何処かに脱ぎ捨ててきたらしく、必要以上に筋肉質な上半身があらわになっている。
 その場に悲鳴が上がった。
「それ以上近付くな波平!」
「どけオラ。ふーんっ!」
「あっ……ああぁ……っ」
 五期生達をかばって立ちふさがった稲見瓶であったが、磯野波平の無慈悲なボディブローで、彼は床に膝をついてうずくまってしまった。
「磯野さん落ち着いて下さいっ」
 中西アルノが率先して磯野波平の前に立ちはだかった。
「波平さん、何を、その、何をするつもりなんですか?」
 井上和が続いて磯野波平に言った。
 磯野波平は、大股を開き立ち、両腕を肩より高く広げて、鬼のようににやりと笑った。