二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ポケットにしまう有限の涙と無限の栄光。

INDEX|3ページ/26ページ|

次のページ前のページ
 

畏まりました――と、電脳執事のイーサンのしゃがれた老人の声が応答した。イーサンとは、この巨大地下建造物を統一管理しているスーパー・コンピューターの総称で、現代科学の力で人格をも持つ有能な電脳執事の事でもある。
注文されたメニューは、一般家庭に見立てた地上の近隣住宅数軒(リリィ・アース専用調理場)に駐在したシェフ達が、二十四時間リクエストに応え、出来立てのものを、地上のシェフ達の調理場と繋がった無数の運送用専用エレベーター〈レストラン・エレベーター〉により、〈リリィ・アース〉地下二階から、最深部の地下二十二階までの至る場所に運んでくれる。
 磯野波平はビールを喉の奥に呷ってから、ふうと大きな息をついた。
「れなちは今日は来ねえーんだな。この時間、いるときゃもういるもんな……。何だよ、みんな、しけたつらしてよ。こんな日なんだ、酒でも吞もうぜ~」
「呑んでるけどね」秋元真夏は笑顔で言った。
「いただいてま~す」新内眞衣も笑みを浮かべて両手で丁寧にビール・グラスを持ち上げて言った。「二杯目で~す」
「二杯目で顔赤いの?」和田まあやは笑った。
「そう、顔に出るの」新内眞衣は和田まあやを一瞥して、口元を細める。「まだ酔ってはないんだけどね」
「ひなのラーメン早く来ないかな~」樋口日奈は呟いた。ビールを呑む。
「おいおい、元気ないな、うちのメンバーは」風秋夕は苦笑して鼻を鳴らした。「れなちが消えて無くなるわけじゃないんだってば。本人に会ってからそういう顔しろよ。今はおめでとうと、お疲れ様の乾杯だぞ。しょげててもどうしようもないだろう」
「まあね。その通りだ」稲見瓶は、無表情でそう呟き、メニュー表を開いた。「暗くなるくらいなら、れなちの思い出話の一つでもしよう」
「でもさ、ほんとに絢音ちゃん一人になっちゃうね」新内眞衣は言った。「二期生」
「一期ももう四人しかいないし」秋元真夏は新内眞衣を一瞥した。
「でもさ~あ、安心できる後輩だよね」樋口日奈は笑みを浮かべた。「安心して、乃木坂を任せられる」
「そうだねー」和田まあやは頷いた。
「真夏がしっかりしてないから、後輩が逆にしっかりしちゃったんでしょ?」新内眞衣は面白がって言った。
「ちが~うもーん、何それ……」秋元真夏は眼を細めて新内眞衣を睨んだ。「どういう事?」
「だってキャプテンじゃん」新内眞衣は表情豊かに言う。「そうでしょう?」
「やあってるも~ん」秋元真夏は微妙に微笑む。「ちょっとそれって酷くない? どういうふうに私の事見てんの?」
「うっそ」新内眞衣はにやけた。「頑張ってるよね」
「頑張ってますよ……」
「おいおい、みんなもメシ頼んどけよ。腹減ってんだろうに」風秋夕はファン同盟の皆に言った。「イーサン、レタスチャーハン、ひとっつね。生駒ちゃんに教えてもらったんだよ、ここのレタスチャーハン美味いって」
「カレー焼きそば、一つな、イーサン」磯野波平は宙に言った。
「何それ……」風秋夕は嫌そうな顔をする。
「知らねえのお前!」磯野波平は驚いた。「庶民なめんなよ」
「ざるそば」稲見瓶はメニュー表を閉じた。「イーサン、ざるそばを一枚、お願いします」
「他の人は、いいの? 頼んじゃいなよー」新内眞衣はファン同盟のメンバー達を気遣って言った。「食べながらさ、落ち込んだらいいじゃん」
「それ助言になってないから」秋元真夏は笑った。
「イーサン、たこ焼き……、お願いします」比鐘蒼空は呟いた。
イーサンが反応している。
「そうですわね、お腹、空いたわ……」御輿咲希はメニュー表を開いた。
 御輿咲希の隣に座っている宮間兎亜も、そのメニュー表を覗き込んだ。
「いっちょ、食うか」天野川雅樂は宙を見上げる。「イーサン……、赤身ステーキの六百グラム、ライス付きで」
「じゃあ僕も……」来栖栗鼠は薄い笑みを浮かべて、虚空を見上げる。「冷やしたぬき、下さい」
「私は、空心菜の炒め物を下さい、イーサン」駅前木葉は上品に囁いた。
「小生は……、そうでござるな。イーサン、野菜炒めと、冷ややっこ、それに、わかめの味噌汁をご飯付きで下され」
「イーサン?」宮間兎亜はメニュー表を見つめながら言う。「お好み焼きの~、ネギ焼き? 一つね~」
「イーサン、わたくしは、お好み焼きの、豚玉を一つ、食べてみたいわ。お願いします」
 御輿咲希はメニュー表を閉じて、テーブルのメニュー立てに戻した。
「音楽でもかけようか」風秋夕は提案して、軽く空中を見上げる。「イーサン。乃木坂の、錆びたコンパス、かけてくれ」
「あ、いいね」新内眞衣が言った。
「名曲名曲」和田まあやも続いた。
 間もなくして、地下二階のエントランス・フロア全域に、乃木坂46の『錆びたコンパス』が流れ始めた。
「でもさー、去年ぐらいから考えてたみたいよ?」和田まあやは皆を一瞥しながら言った。
「何がよ?」磯野波平は和田まあやを見る。
「だから、ざきさん」和田まあやは言った。
「私全っ然気が付かなかった」秋元真夏は眼を見開いて言う。「その気配すらわかんなかったもん」
「話は聞いてたけどねー」新内眞衣は視線を下げて呟いた。「あれ、去年の暮辺りからさ」
「タイミングって、何なんすかね……」天野川雅樂は、乃木坂46の女子達を見た。
「んー……、何だろ?」秋元真夏は考える。
「何だろうねー……。あでも、考え始めてから、スタッフさん達とかにも相談し始めて、それが話し合いで具体化してきて、……ようやく決心がついた、て瞬間なんだと思う」
 新内眞衣は、天野川雅樂の顔を見つめて言った。天野川雅樂は、眉間に皺を寄せながら、真剣に聞いていた。
「まなったん」風秋夕は呼んだ。
「ん?」秋元真夏は振り返る。
「超可愛い」風秋夕はにっこりと微笑んだ。
「きゅ~うに?」秋元真夏はにこりと笑う。「でも、ありがと」
「あーてめっ!」磯野波平は澄ましている風秋夕を指差した。「そーゆーの無しだっつってんだろうがあ! アホなんかてめえはー!」
「え。可愛いって言っちゃいけないの?」来栖栗鼠は不思議そうに磯野波平と風秋夕を交互に見つめた。「そんなの無理だよ~……。それが掟なら、外そうよそんなの~、可愛いって言いたいよ僕~」
「まあな。実際、可愛いからなぁ」天野川雅樂は納得した。
「私には可愛いって言っていいんだよ」秋元真夏は微笑んだ。
「まなったん! 俺の嫁だろう!」磯野波平は顔をしかめて叫ぶ。「浮気すんのかよ!」
「国民の嫁だから、私は」秋元真夏は立ち上がった磯野波平を見上げる。「なに、ちょと座って……」
「まなったんに何するつもりだコラ、磯野ぉ」天野川雅樂も立ち上がった。
「ちょっとちょっと」秋元真夏は困って苦笑する。「なにい? 二人ともす~わって。ここで暴れないでよ? ちょっとぉ」
 風秋夕と稲見瓶達は、別の会話に花を咲かせていた。
「れなちのオフは、一番近い日だと、確か十七日だ」風秋夕は言った。「今日が十三日だから」
「四日後だね」稲見瓶は言う。「その日に集まれれば、幸いだ。れなちがご飯を食べに来てくれる可能性も高い」
「金曜日ですわね」御輿咲希は考える。「仕事で、どう転んでも、七時にはなってしまいますわ」