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ポケットにしまう有限の涙と無限の栄光。

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「そうそう。でも今回のは、そう感じたというか、さすがにわかったよ。この前わからなかったって言ったのは、長く同じ活動の仲間やってきて、常にそういう眼では見てないから、やっぱりいざ迫ってくると、ていうか、いざ聞くと驚くよ、ていう意味で言ったの」
「キャプテンには話を通しておく必要があるのでござろうしな。まなったん殿も、衝撃が多い立場でござるな……」
「なんか、なんかね……、私的には」秋元真夏は、アイスティーで喉を潤してから、話し始めた。「卒業はやっぱり涙、とか悲しいって印象が強いんだけど、誰の卒業でも」
「わっかる」宮間兎亜は大きく頷いた。
「わかりすぎるでござる……」姫野あたるは深く眼を閉じて、頷いた。
「でも崎さん本人、かなり割と明るい感じで、この先にやりたい事とかも、色々なにしたいの? とか聞いたらかなり明確にやりたい事とか、そういうのがあって……」
「ありがとうございます」山崎怜奈は苦笑して会釈し、手首を振る。「いやいや……」
「将来の自分の姿っていうのが凄く見えてて、カッコイイなって言うふうに思っちゃって」秋元真夏は微笑む。「卒業してからもたぶん、自分の得意な分野で沢山輝ける人なんだろうな~って。不安とか全然なく思えた」
「いやもう、ありがとうございますキャプテン」山崎怜奈は照れ笑いを浮かべながら会釈した。「そんなお言葉を、頂けるなんて、光栄です」
 しばらくしてから、〈レストラン・エレベーター〉に山崎怜奈のリクエストしたフードとドリンクが届き、秋元真夏は次なる仕事現場へと向かって行った。
 入れ替わりに、乃木坂ファン同盟の風秋夕と稲見瓶、そして駅前木葉と御輿咲希が、仕事終わりのその脚で〈リリィ。アース〉の地下二階のエントランス・フロア、その東側のラウンジへと姿を現した。
 新しく談笑の輪に参加した四人は、電脳執事のイーサンへと、夕食のリクエストを早々に済ました。
「まなったん行っちゃったか~……、なんて慈悲のない誤差」風秋夕は煙草をポケットから抜き取ろうとして、禁煙を思い出してやめた。「会いたかったなー、まなったんに」
「れなちは、何を食したのですか?」駅前木葉は心地の良い笑みで山崎怜奈にきいた。
「野菜のからあげ。美味しいんですよ~、ここの秘蔵メニューで。クリスマスの時だけメニューに書いてあって、見つけてから結構頼んでる。もうメニューにはないの」
「健康的なものがれなちさんの好物と記憶していますから、れなちさんの食事のチョイスには興味があるんです」駅前木葉は微笑んだ。
「ふっつーだよ。いつも」山崎怜奈も笑う。
「れなちは、食事の話より、坂本龍馬の話になると長く語ってくれる」稲見瓶が無表情で、抑揚もなくぼそりと囁いた。表情もなく、声にめりはりもないが、これが稲見瓶の標準である。「れなちの江戸、幕末の話は面白いし」
「今日はしませんよ」山崎怜奈は苦笑した。
「れなち殿って、とにかくとんっでもないぐらいの知的な秀才で、しかも美しい……。なのにでござる、なのにでござるよ? こーんなにもフランクに接してくれるんでござる」
「あー、それはあるな」風秋夕は小さく笑った。「感じ良い人だよな、ほんと。性格良すぎ」
「そーんな事ないと思うけどねえ、普通ですよー」山崎怜奈はにっこりとする。
「神か女神の権化でござる!」姫野あたるは山崎怜奈を拝み始めた。
「やめてやめてっ、ふふふ」
「歴女である崎さんはもちろん知っていると存じますが、日本の歴史には、たびたび魔界的な化け物が登場してくるでしょう?」御輿咲希は、その表情を険しくさせる。「歴史に残るああいった伝承などは、何かの変わり果てた人間の話なのですか?」
「人間の……というか、人間の信じて、恐れて来た事、て言った方が近いかなぁ」山崎怜奈は小首を傾げる。「京都なんかは、陰陽五行説(いんようごぎょうせつ)でいう陰(いん)の艮(うしとら)の方角にある比叡山(ひえいざん)とかが魔界の入り口って言われてるんだけど…、陰陽五行説にも、ちゃんと陰に対抗する陽(よう)の存在があって、それが、猿とかなんだけど……」
「猿が?」姫野あたるは驚いた顔をする。「猿が魔界から人々を守るのでござるか?」
「噛みつくのかしら?」御輿咲希は呆然と言った。
「物理的に何かを守れる存在として猿を祀(まつ)るというよりは、マジック的な要素で、それこそ、陰には陽を、ていう考えで方で祀(まつ)られてるのが猿なんだけどね……。猿は見張り番で、鬼が現れた時には、猿の右手に持ってる神楽鈴(かぐらすず)をシャンシャンって鳴らして神を呼ぶの。それで、左手には護幣(ごへい)っていうのを持ってるんだけど、その護幣が神の依り代(よりしろ)になるのね。鬼を祓(はら)うのは神よ」山崎怜奈はにやりと美しく笑った。「猿はそんなに強くないから。見張り番なのね」
「でも、猿は艮(うしとら)の方角の真逆の方角に記された、縁起の良い対象ではあるんだね」稲見瓶は納得した様子であった。
「鬼はみんな、どんな姿を想像する?」山崎怜奈は明るい表情で問うた。「オーソドックスなイメージでいいんだけど……」
「角(つの)があって……」宮間兎亜が持ち前のハスキーな声で呟いた。
「金棒を持ってらっしゃるわね、確か」御輿咲希が言った。
「うる星やつらのラムちゃんも鬼だね」稲見瓶は言う。「角があって、パンツを穿いてる。虎のシマシマ模様の柄(がら)だ」
「艮(うしとら)……、そうか。鬼門の方角は、十二支(じゅうにし)の、牛と虎だ」風秋夕はそう呟いて、山崎怜奈を見つめた。
「そうなの。牛の角に、虎のシマシマの毛皮のパンツね。艮(うしとら)の方角、つまり鬼門の牛と虎のイメージから、鬼は創られたって言われてるの」山崎怜奈は微笑んだ。「ちなみに祀られてる猿は、神の猿って書いて、神猿(まさる)って呼ぶの」
「歴女もそこまでくると研究者だな」風秋夕は嬉しそうに笑った。
「歴史から少し道を外れても、けっこう面白いでしょう?」山崎怜奈は活き活きと言った。
「桃太郎にもそんな伝承が残されてるって知ってる?」風秋夕は微笑む。「桃太郎の話は、実は中国から伝来した話だって、説なんだけど」
「桃太郎は日本のおとぎ話であろう?」姫野あたるは疑問の顔をする。
「であろう? てどこの殿様だよ」風秋夕は苦笑した。
「じらすなよ」稲見瓶は言った。
「同じく、艮(うしとら)の方角に位置する、牛の角と、虎のシマシマの毛皮から、あの鬼のイメージが生まれ、その鬼という厄災に対抗する手段として、陰陽五行の鬼門、牛と虎と真逆の方角にいる陽の十二支が必要だと考えられた……。その方角から選ばれたのが、犬と、猿と、キジな。その縁起物を、更に縁起のいい人間を超える何者かに与え、鬼を退治してもらうというストーリーなんだが……。その人間を超える何者か、ていうのが、桃から生まれちゃう桃太郎なわけだ」
「桃太郎が、人間を越えている、の定義がわからない」稲見瓶は言った。