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ポケットにしまう有限の涙と無限の栄光。

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「あー、まあ、興味がないわけじゃないんだけどねー」山崎怜奈は微妙に笑みを浮かべて答えた。
「政治家になりそうな人なんだから、れなち、若いメンバーとは話し合わないだろうな」風秋夕は笑った。
「昔はメンバーの若い子達とは話噛み合ってなかったなー」山崎怜奈は遠い眼で囁いた。
「噛み合わせるつもりもないんでしょ?」風秋夕は面白がって言った。
「ないっ」山崎怜奈は笑う。
「噛み合わねえって、しゃべんの得意じゃねえかれなち」磯野波平は眉を顰めて、山崎怜奈の顔を見た。「それこそだって、ラジオとかコメンテーターとかやってんだからよ。プロじゃんかれなち」
「うーん……」山崎怜奈は、一瞬だけ小首を傾げて言う。「噛み合わないというか、みんなが知ってる流行とか、カルチャーに私が追い付いてない」
「ふーん」風秋夕は、口元をにやけさせる。「れなち、ガンダ、とかわかる?」
「何それ。ガンダ? ガンダム?」
「ガンダッシュ、ガンガンにダッシュする事」風秋夕はラム・コークのグラスを手に取りながら答えた。「流行にうとい、てのもまー、魅力っちゃあ魅力だけどね。個性なわけだから」
「あ、ねえねえ、レストラン・エレベーターに届いたわよ」
イーサンの知らせに気付いた宮間兎亜は、〈レストラン・エレベーター〉に到着した、山崎怜奈の注文したカクテルのレナを指差していた。
「あたいも頼もうかしら……。トアってカクテルはないの?」
「あるか、んなもん」磯野波平は吐いて捨てた。
「あんた、私にその気がないと知った途端に、手の平返して素っ気なくなったわね……」宮間兎亜は半眼を苦笑させながら言った。
 稲見瓶が、山崎怜奈の注文したカクテルのレナを、トレーに載せて山崎怜奈の座るテーブル・サイドに運んだ。
「ありがとう」
「噛み合わなくて、それで?」
風秋夕は、山崎怜奈の話題を元の会話のポジションに戻した。
「それで。当時、キュンがわからなくて、集合写真の時に、みんながキュンを作り始めたんだけど、私これしか知らなくて……」山崎怜奈は、胸の前で、両の手の平でハート型を作ってみせた。「みんな何ピーナッツすり潰してんのかなーって」
「ピーナッツっっ」磯野波平は上を向いて大笑いする。
「アーニャ、ピーナッツが好き……」宮間兎亜はハスキーな変声で言った。「ダ~メね、あたいの声じゃ」
「私がずれてる分には、そう、私が困るだけだからいいんだけど」山崎怜奈は言う。「たぶん後輩の子達も、私に何話しゃいいのかわからないから、気ぃ遣わせてるんだろうなっていう」
「え。れなちってそういう人?」風秋夕は驚いたように眉(まゆ)を上げて、山崎怜奈を見つめた。「常識人じゃないの?」
「常識……」山崎怜奈は言葉を止めて、考える。
「天然か?」磯野波平はまだ笑っている。
「お前が言うな頼むから」風秋夕は嫌そうに呟いた。
「空気読めないんで」山崎怜奈は、開き直ったようなすっきりとした顔で言う。「大体のカルチャーを、話合わせる為に、こう、うま~い事、表だけ、知っとく事もできるじゃない? 私それすらしないからぁ……。ほんとに、後輩困らせてた」
「そういうふうには見えないけどねー」来栖栗鼠は久しぶりに発言した。「ラジオのトークみたいに、会話も上手に見えてるけど~」
「一回、中村麗乃ちゃんにパフェに誘われて……」山崎怜奈は、自然と、ゆっくりと視線を皆へと順番に向けてしゃべっていく。「パフェに誘われた事が人生初だったから、行ったんだけど……。彼女達、凄い写真撮るのね、でも私写真撮る文化無いから、まずアプリ入れるところから始めてぇ……。もーその段階なのよ。中村麗乃ちゃんとも三歳ぐらいしか変わらないのに」
「今の……、新メンバーとは……、どうなん?」磯野波平は、ようやく笑いから解放されて深呼吸をしながら、山崎怜奈に言った。「だ……、五期だよな?」
「うん、今の五期ちゃんとは、さすがにそうまではないと思うけど……。話しかけて来てくれるし、嬉しいよねー、そういうのは」
「卒業が発表されてから、後輩メンバー達はみんな、それぞれの思う、それぞれが背中を追いかけたれなちを語ってくれてるよ」稲見瓶は冷静な眼差しで言ったが、彼は少しだけ気持ちが熱くなっていた。「そういうのは、燃えるね。かなり」
「何でよ、どこで語ってるって?」磯野波平は、顔をしかめて稲見瓶にきく。
「乃木メでござろう」姫野あたるが答えた。
「そうだね」稲見瓶は頷いた。
「乃木メね~……。お給料が出たら、すぐにでも全員分の乃木メを取るつもりですわ」御輿咲希は眼を輝かせた。
「乃木メってありがたいよな」風秋夕はにっこりと笑った。「御輿ちゃん、絶対取った方がいいよ」
「はい」御輿咲希は微笑んだ。
「卒業すっと、何か変わるんすか?」天野川雅樂は顕在的に鋭い眼差しで皆に言った。
「変わるさ」風秋夕は笑ったままで、頷いた。
「ばっか、ライブとかやんなくなんだから、変わりまくりじゃねえかアホかカス野郎……。犬の糞だな、ミジンコ以下の。俺のケツでも舐めてろ、ハスキー犬みてえなツラしやがって」磯野波平は吐いて捨てる。
「くっそ野郎てめえ、言い過ぎだ馬鹿野郎!」天野川雅樂は興奮する。
「はいやめろ、おしまい、な」
風秋夕は、咄嗟になだめるように、天野川雅樂に言った。磯野波平は、天野川雅樂の顔を見つめて、精神を逆なでするような笑みで笑っている。
「ご卒業した後の、なんとなくの、活動予定というか、方向性はラジオで拝聴しました」駅前木葉は、山崎怜奈に悲しそうな笑みを見せる。「お気持ちに変わりはないですか。ないと、嬉しいのですが……」
「うん、あのねぇ……、はい。変わり、ありません」山崎怜奈は、笑みを浮かべて頷いた。
稲見瓶は言う。「一年か、二年ぐらい前に、とある番組で、卒業した後は? 本当のところは何をしたいの? ときかれて、れなちは、少し考える素振りをみせてから、お芝居以外のお仕事はしたいですね、と語っていた。お芝居は得意じゃないとも語っていたね」
「その頃から、イメージは固まってたってわけか……」風秋夕は呟いた。
「へー。そうなんだ」山崎怜奈は感心する。
稲見瓶はさらに続ける。「ラジオが好きなので、極力顔の出ない、声だけのお仕事を徹底的にやっていきたい。とも語っていたよね」
「あー……」山崎怜奈はただただ感心する。「それってぇ、何の番組だろう?」
「何だったかな。レギュラーじゃない、ゲスト出演だったね、確か」稲見瓶は無表情で淡々と答えた。
「やりたい事、もう全っ部やればいいよ」風秋夕は言う。「才能豊かなんだし、秀でた能力というか、歴女っていう確固たる強みもあるんだから。知識をいかして、それこそ、小説とかさ。本は出してるけど、本って何冊出してもいいもんでしょ?」
「あー……。小説はぁ……実は、書きました」山崎怜奈は、笑みを浮かべた。「書いたのあります。歴史ものなんだけど、その、現代の、よく、若者が悩む、事をリンクさせて、書いた作品はある。怒りとか、自己肯定感とか、そういうところにテーマを置いて、それを歴史と絡めて」
「やったじゃん、やってるじゃん」風秋夕は立てた親指を見せた。
「読みたい」稲見瓶はぼそっと呟いた。