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僕はきっと、この日を忘れない。

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「んん……。ドラマで言えば、美月殿の『じゃない方の彼女』が好きでござるなぁ~。そういう事で言えば、美月殿でござろうか?」
「ふ~ん。乃木坂の歌では? 何が好きなの?」
「そうでござるな~、ああ~多いでござるな~これは……。しかし、『僕は僕を好きになる』は、少し特別な曲でござるな……」
「それ、美月ちゃんのセンター曲じゃない!」
「ああ、そうでござるな。うむ、最高の曲でござるよ!」
「あんた美月ちゃん神推しなんじゃないの?」
「神推しでござる」
「へ?」
「小生は乃木坂、全員を神推しでござる!」
「あ、そ……」

       5

 比鐘蒼空(ひがねそら)は東京都港区のとある書店に勤めていた。比鐘蒼空は今年の六月六日に二十一歳を迎えるフリーターである。
 この日もバイト先である書店に七時間勤務し、その後は電車に乗った。夜を迎えたとふわふわと妄想しながら、タクシーを拾い、行先の住所を運転手に告げる。
 両耳のワイヤレスイヤホンからは乃木坂46の音楽が流れている。音量は非常に小さく絞られていた。
 タクシーに乗車してから、ものの十五分で目的地の高級住宅街まで辿り着いた。料金を支払い、軽く頭を下げて、タクシーを見送った。
 太陽の隠れた夜の空に、その二階建ての建造物を見上げてみると、打ちっぱなしコンクリートのオシャレな感じの二階建てであった。
 門をくぐり、短い小径を歩きながら、庭に一本だけ植えられたモミの樹を一瞥した。
 虹彩認識システムという、眼を近づけるセンサーをクリアした後は、ドアを開き、玄関のないエレベーターがあるだけの空間に立った。
 地上二階から、地下二十二階まで表記されている。比鐘蒼空は、エレベーターに乗り込むと、地下二階を押した。
 エレベーターの外が一瞬の暗闇に包まれると、次の瞬間、ティラノサウルス達が群れで行動できそうな広大な空間が顔を出した。エレベーターの強化プラスチック製の大型窓からそれがまるごと窺えるのである。
 地下二階に到着すると、正面に〈応接室〉とプレートされた部屋があったが、そこには入らずに、エレベーターをぐるりと半円回るようにして、巨大に広がるエントランスフロアの方へと歩いた。
 空間の中央に、星形に五台並んだエレベーターが在る。そこに到達すると、よく皆が集まっている〈いつもの場所〉と総称されている東側のラウンジがもう見えた。
 今宵も、そこに何人かの乃木坂46ファン同盟が集まっていた。比鐘蒼空もそうであるが、掟があり、ここで着用を許された洋服は、はるやまのスーツのみとなっていた。硬い掟ではないが、とりあえずは、守っておく事にする。
「おう。蒼空」
風秋夕はソファを立ち上がり、比鐘蒼空を手招いて出迎えた。
「こん、ばんは……」比鐘蒼空は、よそよそしくきょろきょろとする。
「あんた、まーだ慣れてなかったの?」宮間兎亜は呆れた眼で比鐘蒼空に言った。
「比鐘殿は、小生と、仲良くなる、手前でござるよ。なあ比鐘殿!」
 姫野あたるは片手を上げて、ソファをぽふぽふと叩いた。
「ここに座るといいでござるよ!」
 風秋夕はぽん、と笑顔を浮かべながら比鐘蒼空の背中を叩いた。
「乃木坂の前では、人見知りするな。できるな?」
「は、はい……」
 それを、間近で齋藤飛鳥は上目遣いで見つめていた。
 そう、ここには高確率で乃木坂46がいるのである。乃木坂46やそのOGが、仕事終わりやオフの日に訪れる憩いの場所、それがこの秘密裏の存在する巨大地下建造物〈リリィ・アース〉なのであった。
 その〈リリィ・アース〉への出入りを許された十名の一般人こそ、乃木坂46ファン同盟の風秋夕、稲見瓶、磯野波平、姫野あたる、駅前木葉、天野川雅樂、来栖栗鼠、御輿咲希、宮間兎亜、比鐘蒼空なのである。尚、〈リリィ・アース〉のスタッフ陣は別である。
「あ、飛鳥ちゃん……。や、やあ」
「ぷ。……ああ、はい。やあ」
 齋藤飛鳥は笑みを堪えながら、比鐘蒼空に返した。
「お前よぉ、座る前にその耳のイヤホン外せよな~」磯野波平はソファにふんぞり返りながら比鐘蒼空にそう言ってから、隣の樋口日奈に微笑む。「なあひなっちま~。しっつれいだよな~?」
「ふふん。でも取った方がいいんじゃない?」樋口日奈は潤った瞳で比鐘蒼空を見上げた。
 比鐘蒼空は両耳のイヤホンを外して、姫野あたるの座るソファに着席した。
 風秋夕も元の席に着席した。
「蒼空、なんでも頼めよな、仕事終わりなんだろ?」
「あー、はい……」
「乃木坂より頼め。これが今夜の宿題だ」
「えー、あはい。わかりました……。あのぅ、……イー、サン? いますか?」
 しゃがれた老人の声で応答したのは、電脳執事のイーサンであった。イーサンはこの〈リリィ・アース〉を統括管理するスーパー・コンピューターで、人工知能により人格をも持つ立派なここの執事であった。
「真夏ちゃん……、何か、頼みますか?」比鐘蒼空は秋元真夏を見つめて言った。
「ううん、あ……じゃあ、何か、甘いもの」秋元真夏は子供の様に微笑んだ。
「まあやちゃんは、何か?」比鐘蒼空は和田まあやにきく。
「いいぞ」風秋夕はにやけて頷いた。「ジェントルだ、蒼空」
「えまあや~、あじゃあ、お抹茶のお菓子、食べたいかも……」和田まあやは比鐘蒼空を見つめてそう言ってから、宙を見上げる。「え自分で言った方がいい? かな」
「イーサン、今までの注文、聞いててくれましたか?」比鐘蒼空は続ける。イーサンは『はい』と答えていた。「ひなちまちゃん……、何か、あるかな?」
「焼酎呑みたいかも」樋口日奈は小首を傾げて言った。「あの、吞みやすい芋とかで。あ焼き芋焼酎がいいや、あの日村さん達が言ってたやつ。あるかなあ?」
「イーサンそれと、」比鐘蒼空は、齋藤飛鳥を見つめた。「飛鳥ちゃん、何か…ありますか? 頼むもの?」
「ああー……」齋藤飛鳥は、テーブル上を見つめて、そのまま呟く。「ビールで」
「イーサン、ビールを二つ、ジョッキでお願いします」比鐘蒼空はイーサンから返答を貰うと、ほっとしてソファに腰掛け直した。
「俺らのは頼まねえってのが、夕の教えっぽい~よな」磯野波平はふてくされて、声を上げる。「イーサンよぉ、カクテルのアスカくれや」
「俺はね、イーサン」稲見瓶が無表情で言う。「ユウキを貰おう。与田ちゃんの快気祈願に」
「イーサン殿、小生はナナセを。ちと酔いたい気分でござる」
 姫野あたるはそう言って、宮間兎亜を見つめた。
 宮間兎亜は見計らっていた順番がきたと、発言する。
「イーサン、あたいにもビールの大ジョッキと、あと写真集の潮騒もちょうだい、て言ったらどうなるの?」
 畏まりました――というイーサンの応答と、「やめなさい、いいからそういうの」という齋藤飛鳥の声がかぶった。
「持ってくるよ」風秋夕は無邪気な表情で言った。「執事だもん。そりゃ探してくるよ。何処にあるのかもわかってるだろうし」
「いやほんといいから、ちょとイーサン?」齋藤飛鳥は取り乱れて苛ついて言う。「写真集は無し! わかった?」
 イーサンが応答した。
「ダメなのう、飛鳥ちゃ~ん」宮間兎亜はにんまりと微笑んで言った。「残念だわ~ん」
「ダメですよダメに決まってんでしょ……馬鹿かっ」