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ジャンピングジョーカーフラッシュ

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 ベルフェゴールは便器に座ったままで、頬杖を付いたまま、じっと彼女達の事を睨んでいる……。
「引力(いんりょく)‼」
 賀喜遥香は【重力の支配者】の能力を発動させた――。神の大いなる意思にそうされるかのように、興奮状態の闘牛と錯乱した驢馬(ろば)と便器に座っていたベルフェゴールは、次の瞬間、物凄いスピードで賀喜遥香の開き伸ばされた右手に引き付けられる――。
 筒井あやめは、パタン――。と、〈紫色の背表紙をした本〉を右手の手の平の上から消し去った。
「スケベ親父ぃぃうおおりゃああああーーっ!!」
「ロバいくわうちっ、おおおおおーーっ!!」
「牛を斬りますっ!!」
 賀喜遥香と林瑠奈はめいっぱいに拳を振りかぶり、黒見明香は大きく上段の構えで長剣をかかげた……。
 三体の化け物と三人のヒーローの渾身の一撃との衝突で、土煙と血飛沫と断末魔が空高くまで響き渡っていた……。

 遠藤さくらはまだ、その悍(おぞ)ましいアスモデウスの姿容に恐怖を覚え、うまく戦闘に意識を集中できていなかった。
 清宮レイは遠藤さくらに言う。
「ねえ君、大丈夫ぅ? 私が絶対にあいつには触れさせないから、召喚に集中しないと。あの人達、死んじゃうよ?」
 ビンは【氷結する表情】を発動させ、アスモデウスに冷凍魔法を放つ。
「超冷凍細胞壊死光線(君と僕は会わない方がよかったのかな)――!」
 白い蒸気を上げる個体のような白き光線は、てろてろと宙を延び、高笑いを上げているアスモデウスの右脚のつま先をピシリ――と凍り付けただけであった。
 アスモデウスの槍が伸縮し、瞬時にビンの左腕を貫(つらぬ)いた。
「おい大丈夫かっ!」
 ナミヘイは後ろを振り返ってビンに叫んだ。ビンは呻き声を上げている。
 ユウは遠藤さくらと清宮レイ、そしてアスモデウスの中央にて、膝を突いている。右手が夥(おびただ)しく流血していた。
 コノハは瓦礫(がれき)の下敷きになり、倒れたままである。
「ビン君、ユウ君、コノハちゃん……みんな」
「さがって、今行っちゃダメ……。アスモデウスがこっちを見てる……」
 遠藤さくらは、清宮レイに片手で制止され、その弱々しい顔を、強く凛々(りり)しい表情に変えて、遠くのアスモデウスを睨みつけた。
 アスモデウスの異形を、遠藤さくらと清宮レイは強く睨みつける……。
 牛・人・羊の顔面と、鵞鳥(がちょう)の脚(あし)。毒蛇の尻尾(しっぽ)を持ち、手には軍旗と槍を持って、地獄の蜥蜴(とかげ)に跨(またが)り、口元からは火を噴いている。
 顔面が血まみれのアタルは、激しく息を切らせながら、【愛しき呼称】の能力を発動させる。
「次のナミヘイ殿の特攻で、ナミヘイ殿はノーダメージ! アスモなんとかは大ダメージを食らうでござる! 今でござるナミヘイ殿っ!」
 アタルの【愛しき呼称】の能力で、指定した事象、現象が、なんとなくそれっぽくなる。
 ナミヘイは常時発動している【剛力裸(ゴリラ)】の能力で、ぶん回した右腕を、跳び上がってから、豪快に巨大な蜥蜴(とかげ)へと振り下ろした。
 蜥蜴(とかげ)の頭が逆の方向へと勢いよく吹っ飛んだのだが――。なぜか、アスモデウスの真ん中の人の顔からも、鮮血が走っていた……。
「せ、成功でござる……」
「嘘つけぇてめえ偶然だろうがっ! 俺が何攻撃すんのかまで予想しとけっ!」
 ナミヘイは後方へと跳び移りながら叫んだ。
「でも、ナミヘイ殿、これで能力が最大限に使える事が、今わかったでござるよ!」
 アタルは笑顔で後方を振り返る――。そこには、怒り心頭しながら立ち尽くす、遠藤さくらの勇敢な姿があった。
「でもなぁ、俺ぁ今ので打ち止めだ………」
 ナミヘイは、アタルの横で、音を立てて地面に倒れ込んだ。
「ナミヘイ君っ!」
 遠藤さくらは、思わず走り出した……。
「ちっ……」
 舌打ちをきっかけに、発声を始めた清宮レイの身体が眩しく光り始める……。彼女はパワー系最高位・超絶身体能力【夕焼け】の能力を発動させた。
「笑顔の太陽が落ちる時、そこにお前は立っていられない……」
 清宮レイの身体の発光が夕焼けのような輝きに変わる――。次の瞬間、清宮レイはアスファルトを蹴りぬいて、一瞬で遠藤さくらを追い越して、アスモデウスの眼前まで跳躍していた。
「私達を弄(もてあそ)んだのはその槍かあっ!」
 清宮レイは、まだ身動きを取らないアスモデウスの掴む槍を超握力で握りしめ、粉々に粉砕する。
 蜥蜴(とかげ)の頭部に降り立ち、清宮レイは続いて、超速度の拳を何重にも、三面の顔を持つアスモデウスに叩き込んでいく……。
 ユウは【空間転移】の能力で、遠藤さくらの前に瞬間移動し、躓(つまづ)いた反動で前かがみに倒れ込もうとする彼女を、パサリ、と腕で優しく受け止めた。
「さあ……。レイちゃんのあのチート能力も、無制限じゃあないだろうし……。どうやって奴を仕留めるか、だね、さくちゃん……」
 ユウは前方の戦闘を見つめたままで、遠藤さくらに囁いた。
 遠藤さくらはユウを短く見上げてから、また強い意識で、前方の激しい戦闘を見つめる。
「この通り、俺達が傷を負うと、さくちゃんの精神力にも、ダメージがいくみたいだ。これ以上、ちまちました攻撃でさくちゃんの精神力を削(けず)ったり、攻撃を食らってさくちゃんの体力を削(そ)ぐのは最善策じゃあないな」
 身体をひきずるようにして、ビンが腕を抱えながら近づいてくる。
「じゃあ……、どうする。さくちゃんの体力も、もう限界に近いよ。俺達も、もう……」
 遠藤さくらは、瓦礫の下敷きになっている、コノハに振り返った。
「ユウ君、力を使って、コノハちゃんをあそこから出してあげて……」
「でも」
「お願い」
 ユウは表情を変え、片手をふわり、と小さく上げて、コノハの身体を遠藤さくらの後ろ側へと〈空間転移〉させた。
「コノハちゃん! コノハちゃんごめんなさい!」
 清宮レイは全身全霊の格闘で、アスモデウスを圧倒している。しかし、少なからずアスモデウスの強力な攻撃を受けており、無我夢中の無呼吸運動の中、一時的な持続体力に限界をきたしていた。
 激しい呼吸を再開させながら、清宮レイはアスモデウスの軍旗のひと振りを蹴り飛ばし、身体を宙にて何回転もさせながら、遠心力の備わった右足を強烈にアスモデウスの人の顔の脳髄(のうずい)へと突き落とした。
 アスモデウスは悲鳴を上げる……。
 清宮レイの放つ夕焼けのような眩しい発光が、徐々に薄暗く、色を落としてきていた……。
「さくちゃんの体力を極力削(けず)らずに、少量の精神力で実現可能かもしれないとどめが、あるにはある……。ただ……」
 ユウは、下唇を噛んで、顔をしかめる。
「ユウ君、やろう!」
「やるしかない、ユウ」
「わかってる……。ただ、運任せにやれるほど、簡単な事じゃないんだ……。危険なんだよ、俺達も……」
「それは、例えば、どういう危険?」
 ビンは痛みに耐えながら、地に膝を突きながら、夕に言った。
 遠藤さくらが、ビンに肩を貸す。
「普通にやったら、相手もろとも、全員巻き込まれる、だろうな……。やっぱり……」
「自爆、という事か……」
 ビンは厳しい表情で呟いた。