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ジャンピングジョーカーフラッシュ

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――●▲■確かにね、そういう子もいるよ、過去には。でもね、ヒーローを引き受ける、という事は、結果次第では、将来の夢を叶える、という運命を約束されるという事だ。将来の夢において、運命の役割は規格外に大きい。夢を見るんなら、ヒーローはやるべきだよ。それとも、道徳的にこの任務の重要さを説(と)こうか?■▲●――

「いいよ、やるよ。じゃあ……。ちょっと、もう出たいから、後で部屋に来てくれる?」
 あやめはゆっくりと湯から脚を出し、湯船から出ようとする。

――●▲■そんな時間はない。君は今からこの世界と『ザ・ワールド・ザット・リフレクス・ザ・フューチャー』との狭間(はざま)の世界、中間世界に召喚(しょうかん)される■▲●――

「だってはだか、ですよ?」

――●▲■召喚するのは生命体、すなわち魂(たましい)だ。魂はみいんなはだかだよ■▲●――

「あ……、ちょっと!」
 眼の前が一瞬で暗闇に染まり果てた――。体験した事のない無重力を感じるように、あやめは妙な浮遊感を覚えながら、一瞬のフラッシュバックを感じていた。

 それは夏のメロディだった。
 一週間もすれば、死んでしまうのに。
 蝉(せみ)は、誰に歌っているのだろう。
 なぜ、歌を選んだのだろう――と。

       2

――●▲■目覚めよ、筒井あやめ!■▲●――

「どこ、ここ………。んん~~? 私が、見えない……。私の身体は?」

――●▲■本当に冷静だよね、君って。君は今、意識だけの存在だ。身体は君が欲する必要がある。何歳の君の姿になりたい?■▲●――

「え~~………。高校生、ぐらいぃ? かなぁ?」

――●▲■15、16、17、18。何歳でヒーローする?■▲●――

「じゃあ~……、18で」

――●▲■眼を開けてよく見てごらん。眼の前に鏡があるだろう?■▲●――

「あっ!」
 筒井あやめは、眼の前の、大きな鏡の中に映り込んだ美少女に驚愕(きょうがく)する……。
 姿こそ18歳であるが、確かにその整った童顔は、筒井あやめのものだった。
 身体もちゃんとある。何処かの学生服を着ていた。妙な事に、あやめはそれがどの高校の物であるかも、そこに己が通っているという事もなぜだか知っていた。

――●▲■記憶を送ったから、もう全部わかるね? ようはこの世界で、少しの間、君は一般人のふりをした正義のヒーローとして、悪を退治する生活を送る事になる■▲●――

「ふうん………。なんか、安心した。綺麗になるんだ……」

――●▲■君の能力が未登録だね。どんな力で悪を退(しりぞ)きたいんだい?■▲●――

「んーー……、能力、て言ってもなぁ~……。なんか、思う事が、できたりぃ……」

――●▲■具体的じゃないと、具体的じゃない能力になるよ?■▲●――

 あやめは鏡の中の己を見つめたままで、顔をしかめた。
 腕を組んで、考え始める……。
「ん~~? 本が好きだからぁ~……、本が出てきてぇ……。ん、違う。本にぃ、なんか書けてえ、それが私の能力になる、とか……。んー、未定で」

――●▲■いいよ。じゃあ次に、仲間は何人必要かな?■▲●――

 あやめは、鏡の中の自分を見つめながら、また顔の表情を険しくさせた。
「なか、ま?」

――●▲■悪と対峙(たいじ)する時に、仲間がいないと一人きりだよ? 悪は人の恐れる容姿をしているよ。一人で大丈夫? 逃げない? もちろん、他のヒーロー達と現場が重なる場合はあるけどね■▲●――

「仲間って、自分で人数を決めるものじゃなくない?」

――●▲■ふむ。いいよ、わかった。こちらで君の運命と合致させよう。じゃあ次に、さっき君に送った君の記憶設定に登録されていない、簡単な理(ことわり)を教えるね■▲●――

「コトワリ? あ、法則とかって事?」
 あやめは周囲を見渡しながら、虚空(こくう)に囁(ささや)いた。周囲の景色には、何処までも高く高く続く紅いカーテンが、通路の両脇に果てしなく延びて一本道を創り上げている。

――●▲■まあ、この世界での、約束だね。それはね、悪との戦い方だ。この世界では、ヒーローの能力は自由に使える。けれど、悪の出現した異次元に入るには、変身する事が必ずの約束になる。変身すると、異次元と化した悪の出現ポイントに入る事が可能になる。変身以外には、悪に近づく手段は一切存在しないんだ■▲●――

「だっさ……。何、変身って……。あぁ…、マジか………」
 あやめは少しだけ表情を引きつらせながら、何処までも延びる紅いカーテンを眼で追っていく……。視力が100・0になったみたいに、普通あり得ない遠方まで詳細に景色が眼に見えた。これがヒーローの能力の一つなのだろうか。しかし、紅いカーテンの一本道は何処までも果てしなく続いている模様であった。

――●▲■変身っていうのはね?■▲●――

「いいよ、知ってるから変身ぐらい。変身するきっかけとか、ポーズとか、合言葉だけ教えてよ……」

――●▲■変身は変身する! という意思で、何か決め言葉を発声すればいい。つまり、ただの「変身!」でも、変身できるよ■▲●――

「えと……。変身しないとぉ、え……えと、悪の蔓延(はびこ)る場所へは行けなくてぇ?」

――●▲■変身を解除しないと、元の仮想世界『ザ・ワールド・ザット・リフレクス・ザ・フューチャー』の世界には戻れない。景色なんかはそのままでも、時間は静止したままだし、次の任務にも進めない。悪の消滅した、もしくは悪の存在する異次元に閉じ込められたままだ。変身して、悪を消滅させたならば、変身を解くのも約束になる。変身と変身の解除。覚えた?■▲●――

「うん……。てかさ、今高校の下校中だったよねえ? 私……。あれ? お風呂、入ってたん、だっけえ?」
 あやめはあごに指をやって、訝(いぶか)しげに首を傾げた。

――●▲■うんうん。「ザ・ワールド・ザット・リフレクス・ザ・フューチャー」での記憶設定と、君の住んでいた現実世界との混線葛藤(こんせんかっとう)が発生しているんだよね。でも、なんとなくわかるだろう? 今の君は高校の下校時間で、夏休みを明日に控えた終業式の終わった女子高生だ。今、僕も視覚情報をオンにしたから、君が見えている。タイプだ■▲●――

「はい?」
 あやめは片眼をしかめて虚空に言った。
「どうでもいいけど、この後、バイトなんですけど……」

――●▲■いいぞいいぞ。その意気だ。ばっちりこっちでの生活設定が染みついてきたみたいだね■▲●――

「まあね。受験勉強の課題までびっしり思い出したところですよ……。ていうか、彼氏もいないのか~……。何よ、この貧相な設定。てか現実だよ、私にとっては……」

――●▲■筒井あやめ。君は今から僕の配下のヒーローだ。この世界で生活を営(いとな)みながら、悪の蔓延(はびこ)る未来を砕きたまえ。行け、正義のヒーロー筒井あやめ!■▲●――

「そういうの、いいから………。ん……」
 筒井あやめは靴の裏を器用に見てみた。ガムがついている……。
「最悪ぅ……」
 靴底をアスファルトに引きずってみたが、ガムは靴底から一向に取れようとしなかった。
「あ、ヤバ」