ジャンピングジョーカーフラッシュ
驚愕(きょうがく)して動きを止める金川紗耶。息切れをする弓木奈於。ベルゼブブの動きをじっと監視する松尾美佑。脚を止め、ベルゼブブを振り返りながら強烈に睨みつける黒見明香。
『お前等、強いじゃないか……。人間で云うところの、幼児ぐらいには力が有る。しかし蛙(かえる)は握り潰せても、悪魔が相手では愚(おろ)かな抵抗だろう』
「言うほど強くはないって事? うちらがあんたなんかに負けると思ってんですか?」
金川紗耶はそう言った後で、あっかんべーをした。
「お前なんかっ、今に、倒してやるっ、ハァ!」
弓木奈於は、激しく切れる呼吸の回復に努める。黒見明香は「白くお染まりなさい」と発声し【白の魔導士】の能力を発動して、白装束(しろしょうぞく)を纏(まと)った癒(いや)しの魔導士に変身した。
「やった事ないけど。イメージでやってみるね……。休日(ヒール)」
弓木奈於の息切れが止まった。
「すっごい黒見さん……、ありがと! 元気出た!」
終始、冷静にベルゼブブを監視しながら【予言者】の能力を駆使していた松尾美佑は三人にだけ聞こえる声で囁く……。
「今、100の未来を予知してみた。効く攻撃あったよ。聖水を作って、投げて当てて、それは当たる、し効くはず」
「おっけ~わ~かった……。聖水出て来い。あと私の腕力は怪獣のパワー……」
弓木奈於は〈言霊〉の能力を行使して、物凄い怪力で聖水の入った小瓶を、土埃の上がるベルゼブブの姿へと投げつけた。
それは笑い声を上げていたベルゼブブに命中し――、ベルゼブブは苦痛の顔に表情を歪めて、呻(うめ)き声を漏らしながらもがき苦しみ始めたのだった。
喜び飛び上がっていた四人に向け、虎視眈々(こしたんたん)と怒り心頭したベルゼブブは、地面の無数の岩石や瓦礫(がれき)を膨大なる魔力で浮遊させ、剛速で四人のヒーロー達へと吹き飛ばした――。
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「斥力(せきりょく)!!」
万有引力を無効化して発生した斥力は、岩石流の石礫(いしつぶて)をベルゼブブへと全て弾き返した。ベルゼブブは瓦礫の下敷きになる。
賀喜遥香は少しだけ傾斜した高所からベルゼブブを見下ろして言う。
「間に合ったか……。おい牛野郎、うちの仲間に何してくれてんねん!」
「落雷三連撃(ムルトゥス・トニトルス)っ‼‼」
早川聖来の【雷撃の支配者】の能力発動で、天空からガガガァァン――と、三連続で驚異的に大きな雷がベルゼブブに落雷した。
「感電しろや、悪魔」
「インスパイア!」
柴田柚菜は【鼓舞する者】の能力を発動させ、皆に力が注がれる。天から差し込む光により、その場の仲間全員に、能力向上効果が付与された。
「私のチアガールの力は底無し、能力はアップし続ける……。少し休まなきゃだけどね。でもどうせ長期戦でしょ、じゃもう柚菜達の勝ちだよ」
田村真佑は金川紗耶と弓木奈於と松尾美佑と黒見明香のそばまで寄って、心配そうに言う。
「大丈夫だった? まだ……、傷は、無いみたいだけど……」
弓木奈於は笑顔で親指を立てて答える。
「タイミングばっちり! 今ちょうど一撃だけ入れたとこ」
「そっか」
金川紗耶は表情を険しくさせて言う。
「普通の攻撃も、効いてるんだか効いてないんだか、わっかんなくて……」
岸壁にいた賀喜遥香と早川聖来と柴田柚菜は、田村真佑達のいる比較的、平坦な岩の地面へと跳び下りた。
改めて、土埃の舞うその中心に居るであろうベルゼブブを睨みつけるヒーロー達……。
松尾美佑は思い出していた……。
――〇△□殺傷だけに長けた能力だけが集まってもダメなんだ。脅威となる大敵と一戦やるには、夢に溢れた、個性的な能力が必要になるんだよ□△〇――
松尾美佑は閃(ひらめ)いたように、その場の全員に言う。
「個性的な能力、個性的な能力の中に、清らかな心を込めるの! 聖なる気持ちを込めて戦うの! 殺す、じゃなくて、悪に勝つ! って感じで!」
「斥力(せきりょく)っ!」
ベルゼブブの放った黒い衝撃波のようなものを、賀喜遥香が咄嗟で放った斥力の発する衝撃波が相殺(そうさい)した。
「今うちら会議中や! ちょっとぐらい待っとれんのかいアホンダラぁ!」
「ん、待てよ」
弓木奈於は表情を険しくして考え込む。
「今の相手の攻撃、初めての攻撃だったけど…なんで、かっきーさんは普通に触れたんだ? あいつの身体には触っても手応え無かったのに、技は普通に手応えあるって事か? ん?」
強く吹き込んだ一陣の風に髪を押さえながら、柴田柚菜は微笑む。
「それなら、今かっきーは、もう柚菜の祈りを受けてるから、聖なる存在だよ。チアガールは清らかな心で勝利を鼓舞する心のダンスなの」
田村真佑はベルゼブブの方を一瞥して睨みながら言う。
「そういう事か……。触れるんなら、勝てるよね……。綺麗な心で戦えばいいんでしょう、実際は私らまだお酒も呑めない年齢から来てるんだから、心は充分綺麗よ」
賀喜遥香が笑みを浮かべながら言う。
「まゆたんの能力は、全員が揃ってから、一発狙いで全員で一気に仕掛けた方がいいな。それまで我慢ね、まゆたん」
金川紗耶は畝って持ち上がる髪の毛をふわふわと浮遊させながら、その眼光をベルゼブブへと叩きつける。
「守るから……。まゆたんは、私の後ろにいて」
黒見明香は弱気で必死に言う。
「私剣が折られちゃって……」
金川紗耶は強気で言う。
「大丈夫、黒見さんも私が守る……。私の後ろにいて下さい」
「はい」
黒見明香に続いて、田村真佑も頷(うなず)いた。
「さあ、行こかっ‼‼」
賀喜遥香はその場を高く右の方へと跳び上がる。早川聖来は左の方へと駆け出していた。
弓木奈於は柴田柚菜と松尾美佑を背後にして、前に出ながら叫ぶ。
「柚菜ちゃんと美佑ちゃんは私の後ろに!」
『待て待て……、塵(ちり)に等しき未熟な聖者よ。お前等の力が集結するまでの短かき時、待とうじゃないか――。楽しき時は長い程愚かで奥ゆかしい、お前等人間の生きる様そのままだ……』
「全開・斥力(ぜんかい・せきりょく)っ‼‼」
ベルゼブブの真上の空中へと跳び移った賀喜遥香は、広げた両手を揃えて真下に超超超重力の塊である斥力のとてつもなく大きな衝撃波を繰り出した。
「必死に生きる人間をっ、馬鹿にすんなーーっ‼」
ベルゼブブの身体は上半身が粉々に弾け飛ぶ――。
早川聖来は上半身を失った砕けた台座に座ったままのベルゼブブの下半身に、その手の指先から垂直に延びる超高圧の電撃を繰り出す。
「高周波高電圧共振地獄(テスラコイル)――っ‼‼」
超高周波・超高圧の青い電撃の塊(かたまり)がベルゼブブの下半身を瞬時に焼き焦がした。
賀喜遥香は着地しながら、ベルゼブブを監視する。
「手応えはあった……、けど!」
早川聖来は後方に移動しながら、後ろのベルゼブブを確認する。
「簡単すぎるっ! こんなんやったら雑魚と変わらへんもんっ生きとるよっ‼」
『神託(悪魔のささやき)――』
「‼?」
「なっ‼?」
「え‼?」
その場にいたヒーロー全員の身動きが封じられた――。
作品名:ジャンピングジョーカーフラッシュ 作家名:タンポポ