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ジャンピングジョーカーフラッシュ

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 三半規管(さんはんきかん)が機能不良と化して、ヒーロー達は大地に脚を張らすのも儘(まま)ならない――。
 混沌(カオス)と化した脳内の意識は程無(ほとな)く消え失せ……、空気さえも焼き尽くす溶岩の下敷(したじ)きになる者……、身体を凍結させる極寒の吹雪に膝(ひざ)を崩(くず)して震(ふる)える者……、揺れ崩れる大地の裂け目に落ちる者……、煮(に)え滾(たぎ)るマグマの海に焼かれ溺(おぼ)れる者……、天変地異(てんぺんちい)を象徴(しょうちょう)とするかの如(ごと)き怒(いか)りに満ち溢れた雷(いかずち)に打たれる者……――。
 災害こそ悪魔の所業――。業と共に滅すべきもの。

今こそこの世の悪魔は追い出されるであろう。
~ヨハネの福音書~

 至極(しごく)の至福(しふく)に満ち足(た)る勝者の笑みを浮かべたまま、巨大な黒き髑髏(どくろ)の顔が浮かぶ蠅(はえ)の羽を生やした雄牛(おうし)の悪魔は――、灰塵(かいじん)と化し、天へと遡上(そじょう)するかのように激しく怒(いき)り立つ竜巻に呑み込まれながら、その容(かたち)は散(ち)り散りに――、粉々に――、微塵(みじん)に――、灰となり――、消滅され――、跡形(あとかた)も無く消えていった……――。

 ぼろぼろの顔を苦笑させて、賀喜遥香は富士山頂からの、彩(いろ)を取り戻した世界の景色を眺める――。
「ハァ……、疲れた……。おらん人おるいかぁ?」
 柴田柚菜は傷だらけの腕を庇(かば)いながら、賀喜遥香の隣に立った。
「怖かったねぇ……。負けるかと、一瞬、思ったよ柚菜……」
 岩に腰かけている田村真佑は、泥だらけの頬(ほお)を腕でぐいっとぬぐう。
「こんなに難しいものなんだね、夢って………」
 掛橋沙耶香は砂利(じゃり)の大地に体育座りをしたままで、遠い眼で誰にでもなく囁(ささや)く。
「誰かの力に、なれてるんだよね……。だったら…、私らが戦う意味って、あるのかもね……」
 筒井あやめは、泣き止まない清宮レイの頭を、優しく撫でた……。
 林瑠奈は遠くの街並みを眺めながら、眩しそうに眼を細めて呟(つぶや)く。
「もっと強く……。誰かを、守れるように………」
 矢久保美緒は傷ついた脚を引きずりながら、林瑠奈の元へと歩きながら微笑む。
「みんな~、充分つえーよ~……。もう、泣いちゃおっかなー……んふ」
 矢久保美緒の微笑んだ瞳に、大粒の涙が浮かんで、落ちていった。
 林瑠奈は、矢久保美緒の頭を抱きしめる。
「よくがんばった………」
 佐藤璃果は、金川紗耶の腕を肩に回しながら、傷ついた金川紗耶を支えるように歩き、岸壁の手前で立ち止まった。
 景色を見つめる――。
「やんちゃん……。やんちゃんが守った景色だよ」
 金川紗耶は微笑む。
「璃果ちゃんが守った景色でしょ……、あいたた」
 黒見明香は砂利の岩肌にあぐらをかきながら、笑う。
「弓木さんの力、チートすぎますよ……。へへ、愛剣にまた会えて良かった……。愛馬まで、出してもらっちゃって……」
 弓木奈於は真っ黒な顔をへへっと笑わせた。
「奇跡の力、発揮してやったぜ。でもマジでもう奈於ダメ、力使い果たした……」
 松尾美佑は疲れ切った頬を笑わせる。
「もうあんな凄いのは現れないでしょう……。ヒーローって、何の為に傷ついてまで、戦うんだろうね」
 弓木奈於は、小首を傾げる。
「夢…のため?」
 澄んだ空気しか見えないその光景に――ガラ、という、瓦礫(がれき)に砂利(じゃり)が伝える音が一斉(いっせい)にヒーロー達の鼓膜(こまく)に鳴った……。
 全員は咄嗟(とっさ)な判断で、一斉にそちらの方向を振り返っていた……。
 そこには――、傷つきつつも、全身の着衣がずたぼろのまま、大岩に身を寄せて佇(たたず)んでいる、笑顔の遠藤さくらの姿があった――。
「さくちゃん‼」
「遠藤さん‼」
「さくちゃんっ‼」
 皆は、今にも力尽きそうな、頼りない笑顔を絶(た)やさない遠藤さくらを包み込むように、集まり抱きしめた――。
「会えた~」
 早川聖来は遠藤さくらを見つめて、泣きながら抱きしめにいく。
「うん……。会えたぁ」
 筒井あやめも、遠藤さくらの登場に笑顔を取り戻した清宮レイの頭を撫でながら、ほっと笑顔と涙を浮かべる……。
 林瑠奈は強い笑みを浮かべて言う。
「ぼろぼろだね、お互いに……」
 北川悠理は遠藤さくらの肩を抱いた。
「生きててくれて、ありがとう、さくちゃん……」
 賀喜遥香は誇らしく、微笑んだ。
「よう追いついてくれたなぁ、待っとったで……、さくちゃん!」
 遠藤さくらは、笑顔で、ゆっくりと頷(うなず)いた。
 金川紗耶は泣きべそを浮かべながら、同じく険しい表情で泣きながら笑みを浮かべる遠藤さくらに抱きついた。
 柴田柚菜は、笑顔を浮かべて、遠藤さくらの頭を撫でる。
「がんばったねぇ~……」
 田村真佑は微笑んで言う。
「あんた凄いよ……。あんな化け物、召喚の五人とさくちゃんだけで倒しちゃうなんて」
 早川聖来は、か細い声で、遠藤さくらに囁(ささや)く……。
「他のみんなはぁ……?」
 筒井あやめは、周囲に召喚獣の五人の姿が無い事を、瞬時にして激しい違和感として覚えた。
 遠藤さくらは、華奢(きゃしゃ)な険しい笑みと、か細い声で答える。
「ここにいるぅ~……」
 遠藤さくらが大事そうに開いた、その左手の小指には――細い五本の、赤い糸が巻き付けられているのだった。
「ここにいる………」
 優しい笑みを浮かべている遠藤さくらのほっぺたに、涙が落ちていった……。
 早川聖来は、その表情を険しくさせる。
「ウソ………」
 賀喜遥香も、険しい表情で視線を下ろした。
「そっか……」
 遠藤さくらは、涙をこぼして、微笑んだままで言う。
「みんなぁ……、強かったんだよぉ……、みんなぁ、すごかったんだぁ……」
 静まり返る沈黙の中に、遠藤さくらの、荒い息遣いだけが響く……。
「最後まで、戦っえ、っくれたん、だぁっ………。私、も…、ハァ~。守りたかったなぁぁ………」
 賀喜遥香は、遠藤さくらを見据えて強く言う。
「さくちゃん、さくちゃんはあいつらの心を、守ったんやで。最後まで守り抜いたんや……。さくちゃん、帰ってきてくれて、ありがとぉ……」
 弓木奈於は〈言霊〉の能力を行使して叫ぶ――。
「さくちゃんが召喚した五人の戦士達は蘇(よみがえ)るっ! 今ここで生き返るっ!」

――〇△□召喚されてから死んだモノは、この「ザ・ワールド・ザット・リフレクス・ザ・フューチャー」の世界では二度と生き返らない。肝(きも)に銘(めい)じておいてね□△〇――

 大声をすすり上げて泣く遠藤さくらを、早川聖来は、強く力いっぱいに抱きしめた。
 晴天の空は蒼く晴れ渡り、遠くの方までその透き通るような蒼さを広げている。その空の彩(いろ)に悲しみを流すようにして、一陣の強い風が吹き抜けていった。
 この蒼い空をまた、強く見上げられるようにと、筒井あやめは唇(くちびる)を強く噛(か)んで、遠くの入道雲を見つめていた。

       14

 筒井あやめは、パジャマ姿でベッドにあぐらをかきながら、クッションを抱いて天井の方を軽く見上げた。