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ジャンピングジョーカーフラッシュ

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「うん……」

――●▲■……。そうしてアホの助は旅立つ前に寝坊して起こしてくんなかったお母さんに八つ当たりをして返り討(う)ちにあったとさ■▲●――

 あやめは、くす、と笑って、天井を見上げる。
「お母さん、強すぎじゃない?」

――●▲■やっと聞いたね。……夢の実現と交換条件とはいえ、痛みは現実の十分の一はしっかりとあるし、君らにとっての仮想現実とはいえ、死と隣り合わせの危険な職務だ。ヒーローになって、後悔(こうかい)、してるかい?■▲●――

 あやめはくすくすと笑った。
「後悔なんてして当たり前、そんなもんでしょう? だからって、途中で投げ出したりしなぁいよ。だって、私ヒーローだもん……」

――●▲■ふふん。それでこそ僕の選んだヒーローだ。いい、いくよ? 八岐大蛇(やまたのおろち)、第三の仮説■▲●――

 あやめはベッドに寝転がったまま、クッションを強く抱きしめる。
 その眼は天井を眺めていた。
「神でも疫病でも災害でも、倒せば、私の現実の世界の未来から、そういうのが減っていくんでしょう?」

――●▲■その通りだとも■▲●――

 あやめは微笑んだ。
「やりますよ~………。私の未来でもあるんだし。それにぃ、ヒーローって一度やってみたかったんだよね……。楽じゃない事だけが、よ~っく、わかったけど」

――●▲■ここでね、実は残された第三の仮説が最も有力になってくるんだけど……。近代唱(きんだいとな)えられているそれは、八岐大蛇の正体が、古代出雲(こだいいずも)の『たたら製鉄』だとする説なんだ■▲●――

 あやめは天井に顔をしかめる。
「たたらせいてつ? て何……。それって生き物じゃなくない?」

――●▲■たたら製鉄とは、古くから伝わる日本の製鉄技術で、木炭を原料として鉄を精製する方法なんだけどね、日本に鉄が伝来したのは、紀元前の、弥生時代前期頃(やよいじだいぜんきごろ)とされてる。当時の日本には鉄を加工する技術があるのみで、鉄自体は大陸から輸入してたんだよ。
その後、5、6世紀の古墳時代(こふんじだい)になり、初めて、日本独自の製鉄方法『たたら製鉄』が確立し、地域産業は発展の一途(いっと)を辿(たど)った。
さて、そんな伝統技術たたら製鉄が、なぜ、八岐大蛇(やまたのおろち)の大蛇伝説として語り継がれたのか。その背景には一体何があったのか――。さっきも説明したけどね、こういった古くから伝わる神話や伝説、伝承なんかは、ある視点から見た、実際に起きた出来事がベースになってたりするんだ。
例えば、日本書紀なんかは、大和王権が各地を征服した記録が残っているし、中央集権に反発した勢力は、恐ろしい容姿をした怪物として描かれてる。両面宿儺(りょうめんすくな)なんかがそうだね。
しかし、これをおいては語れない事なんだが、今君らが戦ってる悪、つまるところの、未来の世界において起こる確率が高い人間の脅威は、この世界で人々の恐れの姿かたちを借りて生きてるよね。両面宿儺(りょうめんすくな)なんかも、そう古書に描かれる事で、すでに両面宿儺としての魂を宿してる。人々が信じ、恐れたからだね。各地に残される両面宿儺や八岐大蛇なんかの伝承とは、つまりこの世に存在する恐れや信仰の形そのものなんだよ■▲●――

 あやめは顔をぎゅ、としかめる。
「どゆ事? いるの? いないの?」

――●▲■強大な力、それは呪いともいえる存在で、この世界には多く存在する確かな理(ことわり)だ。恐れとは、愛とは、信仰や情報とは、そういうモノだよ■▲●――

 あやめはむくりとベッドから起き上がって、冷蔵庫のあるキッチンへと歩き始める。
「もっと簡単に言えないの? いるよ、とかいたよ、とか、いないよ、とか。カヌレ食べよ~っと……」

――●▲■この「ザ・ワールド・ザット・リフレクス・ザ・フューチャー」にも存在するし、君の住んでる本当の世界でも存在するよ。信じる事と、信じない事で、大きく見て受け取れる世界は異なるけどね。宇宙人やお化けは、存在するしない以前にもう怖いだろう? それを存在すると定義する人もいるし、しない人もいる。でも、恐れる事は皆が感じ思う事だ。楽しむ事も同義だ。存在の有無以前に、その情報はもう命を宿している。あやめ君、君の住むこの世は、情報と愛で創られているんだよ。この「ザ・ワールド・ザット・リフレクス・ザ・フューチャー」も同じくそうだ■▲●――

 あやめは齧(かじ)ったカヌレを口の中で溶かしながら、良く噛(か)んで食べる。その眼だけが、先の天井の方を上目遣いで見上げていた。
「んでぇ……。八岐大蛇(やまたのおろち)が、たたら製鉄で、何だって?」

――●▲■そうだね、じゃあ今言った事を踏まえて、八岐大蛇伝説を紐解(ひもと)いていこうか。――まずは、伝承に描かれた八つの大蛇の姿だ。その眼は、ホウズキのように真っ赤で、その腹は、いつも血で爛(ただ)れている。この真っ赤な眼とは、たたら製鉄に関わる人が、炎を見つめた時の眼の事を。
そして、血で爛れた身体とは、高熱で溶けて流れ出す鉄の様子を表していると言われてるんだ。
出雲地方(いずもちほう)でのたたら製鉄は、八岐大蛇伝説と一致する。『古事記』や『日本書紀』とほぼ同じ時代に書かれた『出雲の国風土記』には、出雲の国で生産される鉄が非常に質が高いという記録が残されてる。また、斐伊川周辺(ひいかわしゅうへん)の遺跡からは、砂鉄を利用した製鉄が行われていた形跡が数多く発見されている。
古くは弥生時代(やよいじだい)から、出雲(いずも)の地域は鉄の産業が栄えていた。このようにね、たたら製鉄は、容姿、時代背景、そして地理的に、八岐大蛇伝説と関連性が窺(うかが)える。怪物、八岐大蛇に例えられた、たたら製鉄。以上の事から伝説を読み解くと、こういう解釈に辿り着くんだ……。
八岐大蛇(やまたのおろち)とは、つまり、斐伊川(ひいかわ)や出雲(いずも)の河川(かせん)で砂鉄を取り、伝統的なたたら製鉄を行っていた部族の人々の事で――。須佐之男命(スサノオノミコト)とは即(すなわ)ち、中央集権をすすめる大和王権。勢力拡大の為、出雲の国に赴(おもむ)いた大和王権は、部族との戦いの末、勝利を収めた……。
須佐之男命(スサノオノミコト)が天照大神(アマテラスオオミカミ)に草薙剣を献上したという描写(びょうしゃ)は、出雲の国の勢力が大和王権に屈服(くっぷく)し服従(ふくじゅう)した事を表すのだろうとされてる。
伝説の舞台となった斐伊川周辺(ひいかわしゅうへん)では、その後、更に製鉄産業が栄えていく。良質な砂鉄が取れるこの地域では、山を切り崩し、土砂を川に流す事で、砂鉄と土砂を分離する鉄穴流(かんななが)しが盛んに行われ、人々の自然との関わり方も変化していった。
この地に伝わるかぐらは、怪物、八岐大蛇(やまたのおろち)を、砂鉄採取の影響で氾濫(はんらん)する斐伊川(ひいかわ)に。草薙剣を、製鉄の象徴に。そして、クシナダ姫を、砂鉄採取ののちに開かれた稲田になぞられて。現代まで毎継がれている。