ジャンピングジョーカーフラッシュ
弓木奈於は【言霊士】の能力を行使して〈言霊〉を発生させる。
「やんちゃんの髪の毛はでええっっかい、それはもう巨大な起爆する刃(やいば)だっ‼‼」
金川紗耶は「そゆ事?」とにやけて【髪士】の能力を発動させる――。無限に伸縮する頭髪を地面に突き刺し――、八岐大蛇の首のある地面の下まで掘削(くっさく)していき、次の瞬間――。
金川紗耶は眼を閉じ、髪の毛先に移した視覚情報を脳裏に見つめて叫ぶ――。
「行っくずぅおぉぉ髪様奥義っ! 針千本・起爆の舞い(はりせんぼん・さくらふぶき)‼‼」
――●▲■あやめ君行ける?■▲●――
「ハァ、はい行けます!」
筒井あやめは左手の上に開いた〈紫色の背表紙をした本〉を意志の力で発光させる――。
「光の火(ルークス・フロガ)っっ‼‼」
続けざまに白い頁(ぺーじ)がバラバラバラと筒井あやめの意志の力で開かれる――。
「天上の光(ファクス・カエレスティス)っっ‼‼」
八岐大蛇の巨大な腹部の前に光り輝く大爆発が起こり――。見上げれば、大宇宙から飛来する巨大な流星群が光のような炎を燃やして巨大な蛇へと幾重にも衝撃波を重ねながら衝突していた――。
――●▲■で、かっきーとさくちゃんはいつまでそれやってるの? 何でそんな格好してぐるぐる回ってんの?■▲●――
賀喜遥香は苛(いら)つきながら叫ぶ。
「腰が上がらんねんっっうちの引力でっ!! うちが引力(いんりょく)と斥力(せきりょく)ちょっとずつ交互(こうご)に出してんねんたぶんっ! あ私の意思とちゃうからな、あの蛇やねんたぶんっ‼‼」
遠藤さくらは小声で叫ぶ。
「手も固(かた)まったままです、マスター、これどうにか…っ、けっこう、つらいっ」
――●▲■おお璃果君と瑠奈君いいね!!■▲●――
佐藤璃果は【可愛いの支配者】の能力を最大限に駆使して、叫ぶ――。
「受けたダメージはそのままもっといて! 回復するんなら、大っっっ嫌い‼‼」
佐藤璃果に嫌われる事を恐れた不思議な精霊達の計らいで、その条件は満たされた――。瞬間的に、佐藤璃果の気力と体力は限界近くまで削(そ)ぎ落された。
佐藤璃果は、その場に崩れ落ちる。
林瑠奈は【叫び】の能力を行使する――。
「ヒーローとしての戦い、千秋楽(せんしゅうらく)、ベストを尽(つ)くすだけじゃない、私達は、ヒーロー達はっ、もっともっと強いんです! 今日ここを、世界で一番熱い場所にしますっ、届けぇぇぇーーーーーっっっ‼‼‼」
五本のみとなった八岐大蛇(やまたのおろち)の長く巨大な蛇(へび)の頭共(かしらども)が、林瑠奈の雄叫(おたけ)びに恐れ戦(おのの)き、食細胞の一種である樹状細胞を微塵に破壊した――。ゆえに獲得免疫系の始動を完全に止め、八岐大蛇に多大なる精神的ダメージを負わすと共に、魔法攻撃やウィルス攻撃に対する抵抗力を零(ぜろ)に等しい位(くらい)までに落とさせた――。
林瑠奈は、ふらつきながら、囁(ささや)く……。
「美緒ちゃん……――」
――●▲■美緒君、明香君、今だ!! 君達の強さを刻み込め!!■▲●――
黒見明香は透明の愛馬、赤兎馬(せきとば)を走らせて、聖剣エクスカリバーを上段に構え、神経を集中させる――。
矢久保美緒は呟(つぶや)く……。
「ウィルス・ミス………」
矢久保美緒は【薬剤師】の能力を行使して、何もない眼の前の空間に平手打ちを十回繰り返した。その手には、十回分の物理的な感触があった――。
「時に愛は人を狂わせる……――」
矢久保美緒は気を失い、その場に倒れ込んだ――。
凶暴無比な病原菌が、免疫(めんえき)を無くした八岐大蛇の身体中に走り廻(めぐ)り巡回(じゅんかい)する――。その血液は焼け、細胞は灰化していく――。
黒見明香は構えた上段の聖剣エクスカリバーで、崩れているビルごと斜めに一刀両断する――。
「死期(しき)っっ‼‼」
赤兎馬(せきとば)が雄叫(おたけ)びを上げた……。聖剣エクスカリバーは真っ二つに割れた――。
――●▲■奈於君、右のカフェを曲がったところに美佑君がいるよ■▲●――
弓木奈於はカフェを右に曲がり、急いで松尾美佑の元へと走る。松尾美佑は力を使い果たして一時的に行動不能に陥(おちい)っている田村真佑を介抱(かいほう)していた。
「まゆたんっ!!」
「大丈夫、気ぃ失ってるだけ……。それより、もう四十分近く戦ってるよ……。もうすぐベルゼブブの時と同じように、みんな動けなくなる……」
「それは、神の予言?」
「ううん。私の、予感……」
弓木奈於は〈言霊〉の力を行使する。
「美佑ちゃんの予言は巫女(みこ)の予言、この戦いの結末をも見えてしまう‼」
「わかった……。神はサイコロをふらない――」
松尾美佑は【予言者】の能力を発動する。弓木奈於の〈言霊〉により一時的に生じた万能な力で、彼女はこの戦いの終末という一つの未来を見つめた――。
「えっ……、これって?」
「どうしたの美佑ちゃん、何が見えた!!」
「えっ?」
――●▲■悠理君! 限界を超えてる! 君のその力は神の理(ことわり)であって! 無理をしすぎれば自分の何かを奪い取られかねないっ!!■▲●――
北川悠理は口元の血を手首でぬぐい、先ほど己を弾き飛ばした一本の蛇の頭を見つめながら、トランス状態で【絵空事】の能力を叫ぶ――。
「なんで生きてるの………。私達の攻撃で死なないなんてそんなの嘘! 絶対嘘!! 認めない‼ 私達はっ、拒絶(きょぜつ)するっっ‼‼」
パシシシシン――と条件が満たされた事を空気を走る不思議な感触が知らせた。
八岐大蛇の残った巨大な五本の首のうち、一本が激しく血飛沫を上げながら吹き飛んだ――。
北川悠理は、その場に膝(ひざ)から崩れ落ちた……。
――●▲■誰か! 動ける人は今すぐに、悠理君と、柚菜君と、美緒君と、瑠奈君と、璃果君の事を守ってくれ!■▲●――
遠藤さくらは「あそっか」と囁(ささや)いて、ぴょんぴょこ飛び跳ねながら〈空間転移〉で北川悠理の居る場所まで一気に瞬間移動した――。
賀喜遥香は強い視線でその戦いを見つめている。清宮レイと掛橋沙耶香が、巨躯の中央に生えた巨大な蛇の首と、ビルの谷間で【夕焼け】の超絶身体能力を行使して凄まじい空中戦を繰り広げているのだった。
賀喜遥香はその戦いを見つめる。ぴょんぴょこ飛び跳ねながら……。
清宮レイはビルの屋上から跳ね上がって、大きく弧を描くような手刀で中央の八岐大蛇の首を半分ほど切り裂いた……。そのまま力尽きたように、清宮レイは深い溜息をつきながら地上へと落下していき、アクロバティックに綺麗に着地した。
「さぁちゃんハァ、半分切って! そしたらハァ、かっきーが動けるっ‼」
「ハァ、了解っ‼ ハァ」
掛橋沙耶香は【暗記】の能力で清宮レイの超絶身体能力を完全にコピーして、ビルの屋上から跳び上がって、弧を描くような手刀を繰り出した。
ズバン――と、中央に太々(ふてぶて)しく生えていた巨大な大蛇(おろち)の首が跳ね落ちた……。
「そうその首が邪魔だったのよっ‼」
作品名:ジャンピングジョーカーフラッシュ 作家名:タンポポ