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ジャンピングジョーカーフラッシュ

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――●▲■遥香君、お疲れ様。いやいや、あやめ君にも色々説明済みだよ。ただこの世界に召喚されて三日経つ君と、数時間前に召喚されたばかりのあやめ君とでは、多少、経験のずれがあるだけさ。三日分先輩として、彼女にも色々教えてあげてくれたまえ。後、今夜はまだ眠れそうにないから、覚悟しておいて■▲●――

「あんた、名前は?」
「筒井あやめ。賀喜さんの能力ってなんですか?」
「うち? ん~~、まだな、目覚めてへんらしくってなぁ……。とりあえず今使えるのは、超身体能力、てやつや」
「ちょうしんたいのうりょく?」
「そ。普通にヒーローしとるだけで、体力とか、運動神経とかは上がんのやけどな、そのレベルでバケモンと一戦やんのは無理やでぇ。死ぬ。だから、その身体能力を、極限まで引き出した能力が、超身体能力や!」
「ふ~ん……。あ凄かったもんね、パンチ……」
「あんたの能力は?」
「んーー……。なんっか、なんでしたっけ? マスター?」

――●▲■うん。今は僕もまだここにいたけどね、僕も忙しい身だから、いつも常に君達の呼ぶ声に答える、ってわけにもいかないからね? ――あやめ君の能力は、まず架空の本を出現させて、それを開く事から始まる■▲●――

「本を開く……」
「うんわ、めんっどくさっそ……。うちは無理やわ」

――●▲■本を開いたら、相手の能力を吸収して、本に写し取る。写し取った能力は、その後、自由自在にあやめ君の能力として使えるようになる。と、そういう能力になってるよ■▲●――

「ハンターハンターやん。てうちもデクのワン・フォー・オールとかぶっとるけどな」
「どうやって写し取るの?」

――●▲■何か、きっかけとなる言葉を発声して、本を出現させる。何かきっかけとなる言葉を発声して、悪の能力を封じ、吸収する。本に記された能力名を読み、能力名を精確に発声すると、能力の使用が可能だ■▲●――

「は~い……」
 あやめは虚空から視線を下ろして、賀喜遥香を見つめた。
 賀喜遥香は、黒いTシャツに黒のスキニージーンズに、白いスニーカー姿であった。黒く艶のある頭髪は胸まである。
 あやめはまじまじと観察する……。
「賀喜、さん?」
「はい?」
「変身解くと、どんな格好になるんですか?」
「あー、そのまんま。うちユニフォームとか考えるの苦手やから。あやめちゃんも、制服やんね? それって。学校帰り?」
「バイト中でした」
 あやめは賀喜遥香に歩み寄って、笑顔で手を差し出した。
 賀喜遥香も、笑みを浮かべて握手に応じる。
「うちもバイト中やったから、変身解くんは、自分の持ち場に帰ってからの方がええよ。止まってた時間、動き出すから」
「じゃあ、賀喜さんとは、これからヒーロー仲間ですね。よろしくお願いします」
「実はもう一人、もうおるんよ。女の子が一人おんねん。今日は、何や知らんけど、来うへんかったなぁ……。遠藤さくらちゃん、ちゅう子がおんねん。なんや、さくちゃんも能力があやふやなんよな~これがまた……」
「遠藤、さくらちゃん……」
「次の現場で会えんで、たぶん」
「あのう……」
 あやめは、真剣な表情で、賀喜遥香を見つめた。
「ちょっとお時間いいですか? この世界の事とか、ヒーロー? の事とか、怪獣の事とか、知ってる事は全部聞いておきたいんです……」
「ほな、お茶でもしましょか?」

       3

 真夏の真昼間、その真っ赤な世界は死闘を繰り広げている――。
 殺風景な駐車場に、夏の日照りが厳しく注がれる。
 筒井あやめは、昨夜晩くまで考え抜いてきた通り、声に出して言う。
「いでよ」
 筒井あやめの開かれた右手の手の平に、――ボウン――、と紫色の本が煙と共に出現した。筒井あやめは、前方を冷静に睨みつける。
 賀喜遥香は走る速度を徐々に、そして急激に、極限にまで上げる。
「ふっ飛べぇあああーーっ!!」
 しかしその超速度と化した右の拳は、巨大な蜘蛛(くも)の姿を擦り抜けた――。賀喜遥香はそのまま、己の一撃の勢いのまま、駐車場の奥まで身体を吹き飛ばされる。
 遠藤さくらは、おろおろと口の前で両手をそわそわさせながら、巨大な蜘蛛の恐ろしい容姿に眼を釘付けていた。
 巨大な蜘蛛は恐れおののいている遠藤さくらに、細やかな動きをみせる六本の脚でがしゃがしゃと近づいていく。
 歪(いびつ)な口から酸(さん)のような唾液(だえき)が吐き出される。
 遠藤さくらは強く眼を瞑(つぶ)った。
「もらう」
 筒井あやめの右手の上に浮かぶ紫色の本がばらばらばらと、音を立てて開かれ、光り輝く――。〈紫色の背表紙をした本〉の白い頁(ぺーじ)に、――『溶解液(ようかいえき)』――と記された。
 空中に放られた巨大な蜘蛛の唾液は、音も無くその瞬間に消え去っていた。
「今度は避けんなやぁああーーーっ‼」
 賀喜遥香の渾身の拳の一撃が、巨大な蜘蛛の脚を二本貫通するように捥(も)ぎ砕いた。
 土煙を上げながら急ブレーキする賀喜遥香は、振り向いて遠藤さくらに叫ぶ。
「さくちゃん能力は! どないしたんまだあやふやなんかっ!」
 遠藤さくらは泣きそうになりながら、賀喜遥香に振り返る。
 筒井あやめは、眼を瞑(つぶ)って、〈紫色の背表紙をした本〉を開いている逆の手の、左手で、巨大な蜘蛛の姿を指差した。
「溶解液!」
 ジュワアアア――と、巨大な蜘蛛は突如として溶けた己の身体を苦痛に悶(もだ)えさせる。
「今やさくちゃん!」
「えぇ?」
 遠藤さくらは、震える声で恐る恐る囁く。
「く、くも、消えろぉ……」
 巨大な蜘蛛は、残った脚をわしゃわしゃと動かしながら、近場の遠藤さくらへと突入してきた。
 遠藤さくらは悲鳴を上げる。
「くっそ間に合うかっ!」
 賀喜遥香は強く地面を踏みつけて、巨大な蜘蛛へと跳躍した。
 筒井あやめは叫ぶ。
「もらう!」
 巨大な蜘蛛は、ピタリ――と、突進をやめた。筒井あやめの出現させている不思議な本に、――『突進』――、と文字が刻まれた。
「ふ~き~飛~べやああ~~っ!!」
「突進!」

 変身状態のままで、三人は静止したセブンイレブンの店内の床に座り込んで、報酬でもある食べ放題、飲み放題の時間を堪能していた。――変身を解いた時、壊された街並みが元通りに復元するように、消費した食料品なども復元されるとの事であった。
「く、くも消えろて、何あれ?」
 賀喜遥香は可笑しそうに笑って、遠藤さくらに言った。遠藤さくらはカウンターに置かれていたみたらし団子を、頬にいっぱいに詰め膨らませながら、しゅんとした顔をしていた。
「そんなん能力であったらチートすぎやろ。笑ったわ~~」
「笑ってなかったじゃん。もはや、笑ってよ……」
 筒井あやめは、冷やされた焼き芋アイスを食べながら言う。
「ねえマスター……。聞いてる? さくちゃんの能力って、そっちでわかんないの?」
 賀喜遥香と遠藤さくらも、自然と斜め上方を見上げた。
 脳内にて声が返ってくる。

――●▲■あのねえ、僕もいつもいつも君達の話を把握(はあく)してるわけじゃないんだよ、わかってるかい? 確かに君達は僕の配下だけどね、僕のヒーロー達は五万といる■▲●――