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ジャンピングジョーカーフラッシュ

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「コノハ、そう覚えて下さいね。さくちゃんさん、あなたの召喚に感謝します。これであなたに恩返しが出来る……」
「俺達はさくちゃんの召喚獣、て事で、よろしくね。みんな」
 ユウは呆気に取られている三人に、無邪気なウィンクをした。

――●▲■召喚されたモノが死ぬか、召喚者が変身を解けば、召喚されたモノは消える。また召喚すれば出現するよ。変身しなくても能力は使えるから、私生活で召喚の練習をしとくといいよ。だけど、ここからが大事な事だ。召喚されてから死んだモノは、この「ザ・ワールド・ザット・リフレクス・ザ・フューチャー」の世界では二度と生き返らない。肝(きも)に銘(めい)じておいてね■▲●――

       4

 大きく口を広げた小型の鰐人間が何体も飛び込んでくる。筒井あやめは己に近づいた小型の鰐人間をふいに素手で叩き落とした。
「……いや、よわ……」
 筒井あやめは、地面に伏している小型の鰐人間を凝視しながら、恐る恐る、人差し指を近づけてみる。
「あやめちゃんこいつら噛み付くでっ、きいつけえ!」
 賀喜遥香の叫び声が耳に響いてきた時にはすでに遅く、筒井あやめは指先を瀕死の小型の鰐人間にばくん、と噛まれた。
 筒井あやめは微妙な、そして絶妙な表情で、賀喜遥香の方をゆっくりと見つめる……。
「なんやねんあやめちゃんっ、それどんな顔っ!」
 賀喜遥香は小型の鰐人間を次々に拳で撃破しながら筒井あやめに叫んだ。
 筒井あやめは呟く。
「いや、歯が折れてるから、痛くなかった……、おっと!」
 咄嗟(とっさ)の広範囲の攻撃を後方に跳び移る事で回避しながら、筒井あやめは今夜、マスターが任務の開始と共に言っていた事を思い出していた。

――〇△□今夜、僕の配下である四人のヒーローと現場で落ち合ってもらいたい。すでに能力の使い方を熟知している四人だから、色々と勉強になると思う。そろそろ君達の任務の段階も順を追って厳しい条件になってきている。敵は手強いよ、今度の敵は殺意だ。人間の生み出す殺意が、人の恐れの姿を借りて具現化したモノだ。気を付けてね□△〇――

 あやめは高速道路の中央で暴れ回っている巨大な鰐人間(わににんげん)を警戒しながら、林瑠奈(はやしるな)と名乗った関西なまりの美少女と、佐藤璃果(さとうりか)と名乗った美少女を眼で追う。
 鰐人間の激しく危険な咆哮(ほうこう)が、鼓膜を一時的に支配する――。
 両手で耳を塞ぎながら、あやめは矢久保美緒(やくぼみお)と名乗った美少女と早川聖来(はやかわせいら)と名乗った関西弁の美少女を見つめた。
 矢久保美緒は耳を塞ぐ事をやめ、――「ウィルス・ミス」――と呟くと……。何もない眼の前の空間を、右手で平手打ちした……。
 バシ――。と、矢久保美緒のその手に、硬い感触だけが走った。
「よっしゃ、成立!」
 矢久保美緒は、林瑠奈を振り返って笑った。
 林瑠奈は大きな叫び声を上げる。
「びびってんじゃあ、ねぇえぞくぉらあああーーーっ‼‼」
 地響きを起こしたその叫び声は、巨大な鰐人間の身動きをぴたりと止め、同時に、食細胞の一種である樹状細胞の細胞を微塵に破壊し、獲得免疫系の始動を完全に止めてみせた。鰐人間は精神ダメージも負い、受ける魔法やウィルスのダメージの効果が絶大となる。
「美緒ちゃん!」
「あでも、ワニにウィルスって効くのかな……」
「いいから、早く!!」
 矢久保美緒は囁く。身体が一時的に発光した。――「時に、愛は人を狂わす」――。矢久保美緒の発光が終わると、鰐人間から悲痛な咆哮が放たれた……。
 賀喜遥香は棒付きの飴玉を口に咥(くわ)えたまま、かぶっているキャップをキュ、と深くかぶり直しながら、小さく笑みを浮かべた。
「ほ~お……、おぉーおぉー、今なんかやったなあ……。リザードマンが苦しんどるわ。やるやん、この人達」
 筒井あやめは、先ほどしまったばかりの能力である〈紫色の背表紙をした本〉をまた出現させるかどうかの判断に葛藤していた。長時間、〈紫色の背表紙をした本〉を出現させると、息切れがした為、先ほどは一度しまったのだが……。
 佐藤璃果は、身体を発光させながら、呟く。――「攻撃力のとぼしい手なんて、嫌い!」――。次の瞬間、佐藤璃果の両手が光を放った。
「璃果ちゃんの能力って何だろ?」
 ユウは凄まじい爆風から避けるように、瞬間的に遠藤さくらだけを、安全な距離まで〈空間転移〉させながら呟いた……。
 佐藤璃果の放ったワン・ツー・パンチがあまりにも破壊力があった為、壁を破壊しながら鰐人間が下の一般国道まで吹き飛んだのであった。
「何だろう……。力を、自分に付与したように見えたけど」
 ビンは煙幕の中、無表情で黒のスーツをぱっぱと手で掃いながら推測する。
 ユウはまた、片手をふわりと動かして、〈空間転移〉で遠藤さくらを己のそばへと瞬間転移させた。
 筒井あやめは、ぴょこん、と壁の上に立ち、下の地面へと落ちていった鰐人間を眼で探す……。
 林瑠奈は、その方向を強く見つめて叫ぶ。
「聖来ちゃん、出番やで!」
「よ~うけ待たせたな~~、一発で決めたるでえ~~!! いってまえワニ嫌いやねんっ! 高周波高電圧共振地獄(テスラコイル)――っ‼」
 下の国道の敷かれた地面へと落下しながら、早川聖来の右手の指先から放たれたのは、超高周波・超高圧の青い電撃の塊(かたまり)であった。
 筒井あやめの耳に、下の道路から、鰐人間の断末魔(だんまつま)が響いていた。
「聖来ちゃん殿は電撃系でござるな、ラムちゃんのようで素敵すぎるでござる!」
 アタルは、上半身が破れて肌のむき出しとなっている身体を、両腕で隠しながら、高らかに笑い声を上げた。
「さくちゃんさん、大丈夫でしたか?」
 コノハの言葉に、さくらははっとなって言葉を返す。
「あ、ああ、うん! コノハちゃん達、どうしてそんなに強いの?」
「これはさくちゃんさん、全てあなたの能力を私達が代弁(だいべん)しているだけなのですよ。あなたが強いんです。召喚者(サモナー)の、さくちゃんさん」
 ガララン、ガラガラ……――と裂けたコンクリートの割れ目から、巨大なコンクリートを片腕で持ち上げながら、埃塗(ほこりまみ)れであり、そして顔面が夥(おびただ)しく流血で染まっているナミヘイが姿を現した。
「んあ…? 終わったのかぁ?」
「ナミヘイ君っ、無事だった!?」
「おうよさくちゃん。こんなん、いっつもだから屁でもねえぜ、へっへ」
 ナミヘイは遠くへと巨大なコンクリートの塊を投げた。
「なぜ投げる……」
 ビンは振り返らずに呟いた。
 賀喜遥香は瞬発的に、飛んできた巨大なコンクリートの塊を跳び上がって回避した。すぐにそちら側をきつく睨みつける。
「あっぶねえなー、アホぉ! ぶつかったらどないすんねん貴重な戦力失うぞアホンダラァっ‼」
 ナミヘイは「わり」と苦笑した。
 筒井あやめは、遠藤さくらの隣で、その脚を止めた。
 その眼は、今夜この任務で合流したばかりの、新ヒーロー達四人を見つめている。
「強かったね、あの子達……」
「え、あうん……。すごく、強かった……」