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君に叱られた

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 自分が振り返り、こちらに気がついた。自分は驚いた顔のまま、口を半開きにして、こちらに歩いてくる。
 遥香はけらけらと笑いそうになる。自分も確かに最初は怖かった。すぐに帰りたくなってしまったのである。
「あっはは、ねえここってさ、汐崎さっ…………。え――」
 しゃべりたかったのだが、声はそこで消えてなくなった……。
 遥香の表情を何かが一瞬で奪い去った。
 そう、眼の前に、自分がいるのである……――。
 遥香は、その異常な光景に、ようやく気がつけた。
「あ、あな…あなた…あ…あな……」
 自分が、こっちを指差して興奮している。
 遥香は、固まった表情をそのままに、何とかで、出てくれそうな小さな声を振り絞る。
「え……、なんでっ……私ぃ? なんでぇ、私がいるの……?」
「あなたっ……あ、…あなたっ!」
「え……、私がいる………」
 こちらを指差して興奮している自分を尻目に、遥香は両手で己の顔を触ってみた。
 しかし、よくわからない。
 夢を見ているのか。――その時、一瞬の解決策が浮かぶ。
 遥香は、自分の顔をつねってみた。その時であった……。
 眼の前で興奮している自分が、手鏡を開いている。
 その手鏡をこちらに向けて、ピーチクパーチクと騒ぎ立てている。
「っ……っ………――」
 遥香は言葉を失った。
 完全に声を失ったまま、その手鏡の中に視線を釘付けにする。
 鏡の中を凝視する。
 しかし、その眼から恋のレーザー光線は出ていなかった。
 その手鏡の中で自分の頬をつねっていたのは、あの、キツネ顔の汐崎佐里なのだから。

       10

 サリは己の頬から手を放した。そのままぶらんと垂らすと、つねくった頬がひりひりと宙に浮いているように感じた。
「ちょっとあんた大変よう!」
 遥香が騒いでいる。
「ちょっと待って! ………わかったわ、いいでしょう、ちょっと…、落ち着きましょう…あ、どうしよう……いい、落ち着いて……そう、落ち着きましょ…」
 赤い大きなリボンが可愛かった。遥香の頭の上にぽこんと乗っている。どうやってリボンがついているのかが謎であるような飾り方であるが、確かに可愛い。
サリは言われたままに、すでに落ち着いていた。
 サリは、遥香の頭の上にある赤いリボンの、更にその上を見つめた。そこには『HA』というアルファベットが浮かんでいる。
 どうやって飾っているのだろう。サリはふと考えていた。
 それを眼の前の賀喜遥香が呼び覚ます。
「いいわ、ちょっと聞いて……」
 遥香は大きな瞳を、ぎんぎらと見開いて興奮していた。右手の手の平をめいっぱいに開いて、サリに向けている。
「あなた……、自分の名前を……あ、いい? 質問にだけ答えてちょうだい、いいわね?」
 サリは、こくんと頷いた。
「自分の名前を言ってみてちょうだい……」
 遥香はそう言うと、大袈裟に腕組みをして鼻の穴を開いた。
「汐崎、サリ」
 サリは、にこりと答えた。
「さり?」
 遥香は中途半端に腕組みを解いて、アホな顔をした。
 サリはくすっと笑った。
「え……ちょっと」
 遥香は慌てふためくように、おろおろと言う。
「嘘よ! あなたは賀喜さんでしょ?」
 サリはすぐに答える。
「落ち着いて、そうだよ……」
「え?」
 遥香が嬉しそうな顔をする。サリの肩を掴もうとしていた腕が、すっと下におりた。
 サリは頷いた。
「ここはー、ゲームの中ぁ、ですね。うふふ」
 サリは可愛らしく、微笑んで言う。キツネ眼がいっそう細くなった。
「なんか今日は長いですね。んふ、うふふ」
 遥香は、助かったとばかりに、その場へとへたり込んだ。サリもすっと脚の力を抜くようにその場にしゃがみ込んだ。しかし、落ちるようにしゃがみ込んでしまった為、サリは己の脚でバウンドして、頭から遥香の顔に突っ込んだ。

 ドボ~ン♪

「ほっが…ふがっ」
 遥香は顔面を押さえて高速で後ろに吹っ飛んだ。
「あ! ごめんなさいっ」
 サリは頭を押さえたまま、顔を歪めて遥香に焦る。
「わざとじゃないよ! 絶対わざとじゃないから!」
「ん……、んご……ごほっ……」
 遥香は涙を流しながら、むくり、と口元を押さえて起き上がった。その顔は必死にサリの事を見ている。
「ゴボンって…音がした……。ゲームなのね」
「ごめんね? ほんとに、だいじょぶ?」
 サリは心配そうに言った。遥香が頷いたので、もう一度『ごめんね』と小さく呟いた。
 遥香は痛そうに顔をしかめたまま、軽く片手で尻を払って、その場を立ち上がった。涙眼で辺りを見回してみる。
 サリも遥香に続くように立ち上がり、確認するように辺りを見回した。
 そこは、街の風景と呼ぶには、少し景観に違和感を潜(ひそ)めていた。キッズアニメに登場してくるような外観なのである。家々の外壁から顔を覗かせた植木は、なんだか造り物に見える。葉がてかてかと光沢をつくり、少し硬そうにも見えた。
「遥香ちゃん…」
「待って……」
 遥香は、片手で止めた。そして素早く顔をしかめる。
「私はサリよ、混乱するじゃない」
「え…、でも、ここでは」
「いいわ、でもちょっと黙ってて」
 遥香はそう言って、また街の風景に没頭した。
 煉瓦造りの街並み。住宅にも、最も煉瓦が多く用いられている。家には煙突が必需品らしい。煙も出ていないのに、それはほぼ必ずどの屋根にも存在している。
 路面には街灯がなかった。おそらく、ここには夜が訪れないのだろう。
 街中を、様々な動物達が行き交っている。
 それらは洋服を着こなし、二本足で生活している。その場で立ち止まったまま、ずっとしゃべり続けている動物達もいた。
 遥香は、大きな深呼吸を一回だけ消化すると、サリに振り返って、照れ臭そうに言う。
「あなた……、その身体を、大事にしてね……」
 遥香は視線を斜め下に逸らし、もじもじと呟くように、サリに言う。
「その洋服、とっても…、似合ってると思う」
 サリは己の服装を改めて見てみた。そういえば、まじまじと確認するのはこれが始めてである。
 サリは青い洋服を着ていた。半袖で、それはふわりと横に広がったスカートと繋がっている。スカートの中からは白いひらひらが顔を出していた。
 靴も青い光沢をつくっている。それはプラスティックのような物であった。しかし触ってみると、それは柔らかい。
「あは、あり、がと。んふふ」
 サリは小首を傾げて、恥ずかしそうに苦笑した。実に可愛らしいサリである。
「遥香ちゃんも、可愛いよ!」
「ありがと。うっふうふ」
 遥香も、嬉しそうに小首を傾げた。
 遥香はサリと全く同じ格好をしている。その色だけが、青から赤に変わっているだけであった。頭の上に浮いている遥香の『HA』のアルファベットも、サリの『SA』のアルファベットも、浮かび方は同じである。しかし、赤いリボンだけは、遥香の頭にしかなかった。
「ここは私達全員でつくった街よ」
 遥香はそう言いながら、突如、前に歩き始めた。焦ってサリはついていく。一歩を歩くごとに、ピコピコと可愛らしい脚音が鳴った。
「みんなの街なんだー」
 サリは嬉しそうに街を眺めた。
「可愛い~」
作品名:君に叱られた 作家名:タンポポ