二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

君に叱られた

INDEX|17ページ/32ページ|

次のページ前のページ
 

「遥香ちゃんは、全部の国を知ってるって……。知ってるって言ったもん……、知ってるのに…」
「あ~んなゲームよ?」
 遥香は、眉間を限界にまで顰めてサリを睨んだ。
「あんなゲーム画面で肌色の人を見たって、全然エッチだなんて気づけないわよ!」
「ここにいなくちゃダメなの?」
 サリは弱気な表情で、外の景色を見てみる。洞窟の外にはもう夜が訪れていた。
「夜になっちゃったけど……。ご飯は? だって街の人達が持ってるんでしょ?」
「そうよ」
遥香は息を落ち着ける。
「もらうでしょう?」
「そうね…」
「はだかの男の人もいるんでしょう?」
 サリはまた不安な顔をする。
「そんな人達から、ご飯を分けてもらうんでしょう?」
「…ちょ…、ちょっと」
 遥香は、心外そうな顔でサリに怒りづらを叩きつけた。せっかくの賀喜遥香の可愛い顔が神経痛のようにぴくぴくしている。
「私は違う国を部長につくってもらったのよ? ここは…、村瀬の国よ? 勘違い…ちょ、しないでくれるぅ? 私だって恥ずかしくて空腹を我慢してるのよ? 私だけに問題を押しつけないでっ、私だってこんな原始時代みたいな国にいたくないわよっ、でもここでワープが起こるかもしれないじゃないっ、なんなのよあんた泣くわよっ!」
 遥香は感情を吐露した後で、涙眼でサリの顔を睨んだ。

 村瀬の国。――人間が生活する街。巨大な森林に覆われた原始時代。人々は洞窟や藁(わら)の家で生活をしている。
 そこで生活している人間は全て、裸での生活を営(いとな)んでいる。特殊設定として、この国でも食事を入手する事は可能だが、それはある設定をクリアしない事には手に入らない。
 睡眠をとる、という特殊設定も、この国には存在している。しかし、それも同じようにある設定をクリアしない事には、この国でただ寝る事は不可能である。

「なんでさぁー……」
サリは困った顔で、ぼそりと言う。
「おっぱいをもむの?」
「村瀬に言ってちょうだい!」
遥香はサリを睨みつける。
「おっぱいをもまないと…、その、絶対に食べ物もらえないの?」
「そうよ!」
「おっぱいをもまないと、寝れないの?」
「だからそうよ!」
「しかも、……おっぱいとしか、その…、ここのこと、声に出せないんだけど……」
 サリは胸に手を当てて、泣きそうな顔をした。
「だからそうだって言ってんでしょあんた私を泣かせたいのっ!」

 村瀬の国。――この国では、胸部の事を声に出して発言する際、『おっぱい』としか例えらえない。

 サリは口元を尖(とが)らせて外を見つめる。ぼんやりと、遠くの空に月が昇っていた。
 耳が痛い程に、静寂な洞窟の時間が二人を包み込んでいる。洞窟内には、二人の会話だけが反響していた。
 サリの腹が鳴った……。
「ねー…、この身体が、お腹すいたって…」
 サリは力なく、遥香を見つめた。
「そんな時だけ私のせいなの?」
 遥香は激しく興奮する。
「どういう子なのよあんたっ、私だってっ…、賀喜さんのお腹だってぺっこぺっこぺっこぺっこぺっこ~んって言ってるわよぅ!」
 遥香は身体をサリに向けて興奮している。
 サリはそれがうるさかったので、無視した。
「せめて、寝たいな……」
「もませないわよあんた!」
 遥香は赤面して豪快に立ち上がった。
「冗談じゃないわ絶対嫌よっ! クリスチャンをなめないでっふけつ!」
「おっぱい触るなんて…、言ってませんから……」
 サリはつまらない顔をする。膝を抱えて、小さく溜息を吐いた。
「それに、そっちは私の身体だし……。そんなに照れなくてもいいと思うけど」
「今は私の身体よっ!」
 遥香は大きな瞳を怒らせて、必死に胸元を隠した。美形に整えられた大きな瞳が、強烈にサリを睨んでいる。
「誰にもさわらせないわっ! ご飯なんていらないっ!」
 サリは、ふらりと立ち上がった……。
 顔の表情から一切の感情を消し去り、無言で尻をぱんぱんと払う。
「だから……、何よ…」
 遥香は怯える。瞬間的に顔が泣きべそをかきそうになった。
「な、なあに? ちょっとほんとに……」
 サリはそのまま、遥香に何も言わずに、ピコピコと可愛い脚音を立てながら真っ暗な森林へと駆け出していった。
「なによ…どこ行くのよ……、こらちょっとぉ!」
 遥香は焦って、走り出したサリの後ろ姿に声を投げる。
「ちょっとサリ~~っ、どこに行くのよ~~っ!」
 暗闇が深いものであった為、そこにはピコピコという脚音しか響いていない。サリからの返事も返ってこなかった。
 遥香は急な不安に襲われる。きょとん、という表情に恐怖を上塗りしたように、遥香は大きな赤いリボンには似合わない不安を、外の景色にぶつけていた。
 遠くの方で、あの音がした……。――身体と身体がぶつかった時に生じるあの可笑しな音であった。
「サリぃぃ~~~~!」
 返答は返ってこない……。
「どうして……、あんな子がパートナーなのよ……」
 遥香は、悔し顔に涙を浮かべながら、震えるその脚を、洞窟の外へと向かわせた。

       12

 漆黒の森には、人間以外の生物は存在していなかった。風に揺れる精密に造られた人工的チックな枝葉にも、やはり昆虫といった類は姿を見せていない。そこには肌を露出させた人間の姿と、大自然しか存在していない。
 サリと遥香は、そんな森林で、ぱくぱくと入手したおにぎりを食べていた。
「美味しいわ…。少し、不思議な味だけど」
 遥香は、感情を消した顔で、ぱくぱくと食事しながらサリの顔を一瞥する。
「意外とど根性女なのね、あなたって……。尊敬するわ」
「あの子が転んでたから、土を払ってあげただけー」
 サリはそう言って近くを指差した。そこにはサリと遥香におにぎりを用意してくれた同年代ぐらいの少女の姿があった。彼女の家は大木の太枝に設置されている小屋がそうであるらしい。彼女は散歩の途中との事であった。
 少女は大木の周りを二周してから、また少し離れた洞窟の前まで散歩を再開しようとしている。
「この国では人とぶつかるとゴボーンっていう、あの音が鳴るのね。きっと食事をもらえるイベントの発生を知らせる為よ」
「あ、女の子が行っちゃう。ありがとね~~!」
「聞こえないわよ、触れないと会話できないんだから」
 おにぎりを食べ終えると、サリと遥香はまた寒いという事で、元の洞窟に戻っていった。
 しかし、そこで少し困った事が起きた。戻った途端に、裸の男がいたのである。その容姿から、それが老人である事がわかる。
 二人はそれを遠目に立ち尽くしていた。老人は洞窟で自分の胸をもんでから眠りに入った様子であった。
「恐ろしい光景だったわね……、今の…」
「自分のでもいいんだね、変なの」
 サリは真剣なキツネ眼で辺りを見回す。
「どう、します? あそこは人の家みたいだよ」
「ここもそろそろ……、そうね」
 遥香は、洞窟に溜息を吐くように、大きく肩を上下させた。
「とうとう帰りのワープが来なかった……」
「別の国に行く?」
「そうね…、うん。原始時代には、もう、いたくないわ」
 遥香はそう言ってから、薄く微笑むように隣のサリを振り返った。身体には触れないように、お互い気を配っている。
作品名:君に叱られた 作家名:タンポポ