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君に叱られた

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 始まりの街とも違い、そこは地面に生えた植物が点々と見つけられた。
 遥香は自分が激しい感情を宿していた事を忘れていた。すでにその脚は、お菓子の家の前に生えている地面の植物へと向かっている。この国の住人は全てが動物らしい。それらは周囲の景色と違和感なくとけ込んでみせている。
 遥香は脚を止め、恐る恐る、その植物に触れてみる。青色の太い茎(くき)に、何本か、うちわのように立派な緑色の葉が生えている。茎は親指程度の大きさ。葉は手の平を合わせたぐらいの大きさであった。
 震える指先が緑の葉を掴んでみると、そこからパラパラと緑色の粉が落ちた。遥香は指先に付着した粉を確認してみる。
 それは甘い匂いのする粉であった。そして遥香は思い出す。緑色の葉は、確かクッキーで出来ているのだ。
 今度は青い茎の部分を強く摘(つ)まんでみる。触った感触と見た目で、すぐにそれがフェットチーネグミである事がわかる。それも、自分が部長に詳しく説明してつくってもらったのであった。
 熱い衝撃が、遥香の中に湧き上がっていた。
 辺りを見渡せば、そこは全てが自分にとっての夢の国である。街の中を当たり前のように歩き回っている動物達は、この植物がお菓子である事を知っているのであろうか。
 遥香の美しい顔には、顕在的である笑みが浮かんでいる。気がつくと、赤いふんわりとした、あまり形を崩さないドレスを可愛らしく揺らしながら、赤いリボンをつけた長く綺麗な髪の毛が大きく揺れていた。
 大きな藁(わら)をかぶったような、ふさふさとした後ろ姿の住人に手を伸ばした。
「ねえ、あの葉っぱは、食べられるの?」
 遥香は笑顔のままできいた。伸ばされた指先は、先程の奇妙な色の植物を指している。
「食べた事ある?」
「食べた事はないけど、食べれない事はないよ。見れば一目瞭然じゃないか」
 可愛らしいライオンはそう言い、大きな牙をむき出して太い鼻に縦皺(たてじわ)を走らせると、大袈裟に遥香の顔を見て言う。
「一口でも二口でも三口でも美味しいよぉ。考えればわかるだろぉ? 材料は誰だってわかるんだ、見事なまでに美味しいよぉ。でもさでもさ、ここにはもっとも~っと美味しい物がいっぱいさ。考えなくたってわかる。ここは遠い国からの旅人だって必ず立ち寄っていく、サリの国なんだから」
 遥香は眼を見開いたまま、ぬいぐるみのライオンを見つめたままで硬直している。
 ライオンは言う事を言ってすっきりとしたのか、もう遥香に背中を見せて歩き始めていた。
 遥香は瞬間的に全身を駆け巡る熱い血液を感じる……――。ライオンのぬいぐるみが口にした言葉……。たった今自分に囁かれたその言葉は、自分が喜ぶ為に生まれた言葉だ。
 自分はそこに立っている。
 誰が決めたわけでもない、ぬいぐるみが二本足で立ち、自由に生活する街。
 それは外(ほか)でもない、汐崎佐里が愛する世界なのである。

 サリの国。――ぬいぐるみの動物達が生活する街。生息する植物や建物は全て可愛らしい物で造られている。
 助け合いながら日々の生活を営(いとな)んでいる住人達は、誰もが独特の世界観を持っている。
 隠し設定やイベントの発生などは一切存在しない。世界観を楽しむ為の観賞用の街。そこに存在しているぬいぐるみの動物達とは、接触する事で世間話を楽しむ事ができる。

 遥香は眉毛をつり上げたまま、何かに驚きを表現しているような顔で、忙しく砂糖の砂を蹴った。
 何を迷う事なく、もう遥香の華奢(きゃしゃ)な手先はホワイト・チョコのドアを豪快に開いていた。
「サリちゃんごめんっ、私が間違ってたのっ、一週間ぐらい滞在してても………」
 遥香は呆然と停止しようとする表情に、素早く強烈な鞭(むち)を入れた。
「あああ~~っ!」
 悲鳴を上げた遥香の眼の前では、チョコレートの床に正座しながら、一所懸命にマシュマロのクッションを食べている、サリの姿があった。

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「そう、名前もあるんだ…。それはまだ誰も言ってなかったわ、あほんとぉ~…。じゃあ、本当に全員ここで生きてるのねぇ」
 遥香は腕組みをして淡々と言う。
「あなたの名前もあるんでしょ? あなたの名前は?」
 ワニのぬいぐるみは、遥香はと同じような高飛車な仕草で『ワニよ』と答えた。ワニはシンデレラのような豪勢な純白のドレスを着ている。声はとても綺麗な小声であった。
 道端(みちばた)で帰る為の聞き込みを開始してから、もう随分と時間が経っていた。腕時計も存在しない街の中では、精確な時間経過は確認出来ないが、サリはもう弱音を吐きそうになっている。
 しかし、遥香の方は、ぬいぐるみ達との代わり代わりの会話を活き活きと楽しんでいた。遥香はやけにぬいぐるみ達と意気投合している。
「私は賀喜遥香。本当は汐崎佐里って名前なんだけど、こっちでは遥香じゃないと、たぶん帰れないのよ。意味は、わかる?」
 遥香は腕組みのままに、すっと眉毛だけを持ち上げた。
 ワニは素早い頷きを返す。しかし、その仕草はどこか上品であった。
「わかる…。だってさっきそれを掟(おきて)だって説明くれたでしょ?」
 ワニは淑(しと)やかに大きな口元だけで微笑んだ。
「大変ねえ、あら…。じゃ、そちらの方がパートナーなのかしら? あなた名前は?」
 サリはぴくん、と構える――。遥香の方を一瞥してみたが、遥香はサリを振り返ろうとしていなかった。
「サリ、です……」
「まあ可愛らしい名前ですこと」
「この子が私になってるのね。まあ私もこの子もなりきれてないけど、帰れないようだったら、いずれなりきってみせるわ」
 遥香は顔に似合わぬ淡々とした口調で言う。腕組みが解かれて、両腕がウサイン・ボルトの決めポーズのように、弓矢を引いたようなポーズになる。
「かっきーーーん! ……ごめんなさいね突然。でも、まあ、こんな事も必要になるのよ」
「かっきーん? まあ、それってこの先の柿好きのお猿さんに見せておあげなさいよ、驚いて嬉しがって、きっとたあいへんよ? 柿くれるわよ」
 ワニは裂けた口を上品に保つ。
「あなた綺麗なお顔してるから、そういうの似合うわね。かっきーんでしたっけ? ちょっと…、どうやってやるのかしら、教えてくれるぅ?」
 サリは溜息を吐きながら二人のそばを離れる。――遥香は先程から、そうして自由な会話を楽しんでいるのであった。あくまでもこの時間は、帰る為のヒントを掴む為の物。サリは、遥香からそう説明されている。ならば互いに別れ、それぞれが別々に情報を集める方が効率的であろう。しかし、サリは十分も経たぬうちに、遥香のそばに戻ってきてしまっていたのであった。遥香も遥香で会話を楽しんでいる始末である。
 しかし、今また、こうしてサリは遥香から離れ、正面から歩いてくるリスのようなぬいぐるみに話しかける。
 気は進まないが、黙って遥香のそばに立っているだけでは、遥香に怒られてしまう。
 サリは決心するかのように、そのリスのようなぬいぐるみの肩に手を掛けた。
 すぐに、ぬいぐるみは笑顔も作り、一秒間の間隔もなく口を開く。
「どうもう、ご機嫌いかがお過ごし?」
 サリは焦って言葉を用意する。
作品名:君に叱られた 作家名:タンポポ