二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

君に叱られた

INDEX|27ページ/32ページ|

次のページ前のページ
 

 モンスターの退治を志(こころざ)す冒険者達は、誰もが武具を装備している。その国に入国するからには、誰もが同じく武具を装備する必要がある。
 狂ったウサギと、出逢ってはいけない。

       17

 生暖かい風を、汗をかいた首筋に涼しく感じながら、科学部の存在感が強いランキング上位ランク者の四名は、学校の校門前でその脚を止めていた。
 遠くのグラウンドで、野球部の活発な声が飛んでいる。水泳部であろうか、校舎の正面側にある体育館へと延びる渡り廊下を跨(また)ぎながら、だらけた脚取りでこちら側へと向かってくる集団がいる。
 部長は、校舎の一階にある昇降口を眺めたままでいる。村瀬とフトルは、騒ぎ立てる事もなく、そのしかめた顔を、校門にしがみついているメガキンに向けていた。
「土壇場(どたんば)でなんだよ、だらしねえ」
 村瀬は、メガキンを睨みながら、その場にしゃがみ込んだ。
「行かないなら死んだ方がマシなんじゃないのかよ…。おい、メガキン」
 中途半端に、半分程閉められた正門。メガキンはその柵を左手でしっかりと握っている。
 会話が満足に進まないうちに、水泳部専用の着替え袋を肩に背負った男子生徒達が、四人のたむろする校門を外へと通り抜けていった。
 科学部の四人が学校制服を着込んでいた為か、四人が必要以上に視線を浴びる事は避けられた。
「ほうら、また部活の奴ら来るだろぉ?」
 村瀬がしゃがみ込んだままでメガキンに言う。
「何してんのってきかれたら、なんて答えんだよぉ…。次は二年が来ちゃうぜぇ?」
「停学で終わらなかったら…、退学だよ」
メガキンが小さく言った。
「僕だって、今、僕だって本心は村瀬達と一緒だけど……。退学にでもなったら、親を泣かしちゃうよ…。停学だって……。殴られたっていいけど、それだけは、ちょっと…」
「退学になんてなんないよ」
 フトルが疲れた言い方をする。彼はベルトを忘れてきているので、ずっと右手が腰のズボンを掴んでいた。
「退学になるんなら、俺じゃない? 制服のうちポケットにチョコレート入ってるし」
「部長もなんか言ってやって下さいよぉ」
 村瀬が面倒臭そうに、その顔を部長へと持ち上げていた。
 メガキンは、自分に身体を向けた部長と眼を合わせる。意味もなく、メガネの奥で、細かくいっぱいに瞬きをした。
 部長は、心配そうにメガキンを見ていた。
「退学はないよ」
「保証もないですよ…」
 メガキンは素早く返答してから、もう一度声と顔を柔らかくしてから、部長に言う。
「本当の事言うと、僕はこのメンバーで集まりたかっただけなんです…」
 村瀬がちょうど立ち上がった時に、メガキンがそう言った。
「異世界は…、そりゃ、僕もやりたいですけど」
「理由次第でどうにでもなるんだよ」
 村瀬が、続けてメガキンに言う。
「見つからない忘れ物を探しにきて、科学室に思い当たったって言えばいいだろぉ? 見つかってから、先に許可取るのを忘れてましたってあやまれば、停学だって、ありえないって」
「そうだよ、停学になるんならチョコレートの俺だって」
「なんでチョコなんて持ってくんだよ、デブ」
「科学室で食べるため」
「メガキン…」
 部長が細い眼を笑わせて、考え耽(ふけ)っているメガキンに言った。
「一生の思い出になるか、ちょっとした後悔になるか…。俺達で、大博打(だいばくち)してみないか?」
 セミの声が、蒸し蒸しと暑さを運んでくる。校舎の窓はぴっしりと閉められ、がらんとした校内の風景が、まるで撮影用に組まれたレプリカの学校のように、四人に違和感を覚えさせる。
 メガキンは、力を抜くように、校門の柵を手放した。わざとらしく、メガネを触る。
 三人の顔に、同時に笑みがこぼれた。
「帰ります……」
「ははは、え、はあ?」
「えぇ?」
「何ぃ?」

 その後、すたすたと校外へと歩き出そうとしたメガキンに三人が同時に飛び掛かり、笑顔で『高校の資格が必要なんですよ~!』と騒ぐメガキンと肩を組みながら、四人は校舎へと向かって歩き始めた。
 昇降口で誰よりも早く上履きに履き替えたメガキンに笑いながら、四人はまっすぐに一階フロアの廊下を昇降口から左に曲がる。
 廊下の突き当りに、閑散と構えた科学室のドアを懐かしく見つめてから、緩んだ顔の四人は、すぐに後ろ廊下を確認した。その廊下はまっすぐに延びており、昇降口と職員室にも直接繋がっている。
「鍵がかかってる」
 用意していたかのように、部長がそう言った。三人の顔を見る。
「作戦Bだな。職員室」
「誰が行くんすか?」
村瀬が言った。
「俺は太ってるから、職員室のドアは通れない」
 フトルはそう言って、村瀬に腹を叩かれる。
「なんにしても、ちょっとここから移動しません?」
 メガキンが職員室を見つめたままで慎重にそう言った。
 部長が短く返事をし、四人は速(すみ)やかに階段へと移動を開始する。
 階段へと移動したところで、四人は雑談をやめて相談しながら歩く。階段の高い吹き抜け空間には、小声でも会話の声が反響していた。
「いいか、見つかったら、家の鍵を探しにきましたって言うんだぞ」
 部長が小さく呟く。
「僕の家の鍵を、お前達も一緒になって探してくれてる。いいか?」
 三人は真剣に返事を返す。すぐに村瀬が言った。
「作戦Bは誰が実行すんすか?」
「僕は受験生」
「俺はドアに腹がひっかかる。チョコレート持ってるし」
「僕は眼が悪いから…、鍵が見えない」
 階段を下りたところで、村瀬は顔をしかめて、階段に座った。
「しらけて鍵を取ってくるだけだぜ?」
 村瀬はしかめた顔で頭を掻く。
「きかれたら、探し物って言うだけだよ…。た~よりねぇ」
「じゃあ村瀬行けよ」
メガキンが言った。
「尾尻がいたら話しかけられるって」
 フトルの『ああ~』の後、三人はほぼ同時に部長の顔を見た。
 部長は深刻な顔のままで、三人に細かく頷いてみせている。
「頼みますわ、部長」
「やっぱり頼りになる、さすが部長」
「成功したらぁ、チョコレート半分あげます」
 部長は深刻な顔のままで苦笑し、ゆっくりと、階段を上り始めた。
「異世界の一番手は、僕だからな……」

 ~部長の国~

 始まりの街から、はや十五分といったところで、すぐに始まりの街は見えなくなった。脚を踏み入れたそこは黒土の大地であり、三次元空間を麻痺させる漆黒の空気が取り巻いている。
 浮かび上がった景色はどれも建物であった。空はなく、大地だけが黒い土であると知覚する事が叶う。建物はどれも年季の入った城を小さく造り直したような物ばかりである。植物も風景もなく、黒い空間に、ただ黒い土があり、そこに小さな城のような建物が建っている。
 村人と思われる住人はいた。しかしそれは村人ではない。住人でもない。そこには集落(しゅうらく)がなかった。そこにいる全ての者は、己が武勇を信ずる兵(つわもの)どもである。
作品名:君に叱られた 作家名:タンポポ