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君に叱られた

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「不思議が好きというかね、僕らは『異世界』と呼んでるんだけど、部長が制作してるパソコン・ゲームの世界がちょうどそんな世界なんだ」
 メガキンの小さな顔もにやけている。
「普段はさ、僕達ってあまりマニアックな事を言えないじゃないですか、ゲームが好きとは言えても、ゲームの世界に行きたいとは、なかなか言えませんよ」
 フトルが話したそうに割り込んでくる。
「あはあ、この部活後の時間はねえ、そんな時間なんだあ」
 メガキンが続ける。
「ゲームの中に入ってしまう。入りたいと本音で語れる仲間が集まり合って、理想の世界に突入しようっていう、秘密の時間なんです」
 遥香はとりあえず、聞いていて半分だけ気持ちが良かった。嬉しそうに話す部員達が楽しそうだったのである。話している内容はよくはわからないが、なんだか楽しそうではあった。
 しかし、やはりあまり面識のない五人である事に変わりはない。それが遥香の表情を苦笑のままにさせていた。
 五人は変わらずに遥香の前に立っている。遥香はすでに椅子を反転させ、完全に眼の前の五人に顔を向けていた。
 冷房の音はサイレントだが、冷房はしっかりと機能しており、科学室は心地の良い温度に保たれている。パソコン画面からは、ジィー……という電子音がもれていた。
 遥香は、一瞬の沈黙を自分から打ち破る決意を固めた。
「あのぅ……」
 遥香は、表情をリセットして、部長の顔を見上げた。
「何をする時間なんですか?」
 そうなのである。遥香は具体的なそれをまだ聞いていないのであった。
 サリは機嫌良さそうに向こうへと歩いていく。一人だけその場から離れ、彼女は黙ったままで科学室のドアの方へと向かっていった。遥香はそれを不思議そうに見つめたが、そこに残っている四人は一瞬だけサリを一瞥しただけであった。
「嘉喜、不思議な世界に行きたいと思った事って、あるかな?」
 部長は優しい笑みを浮かべて遥香に言った。微笑んでいる為、よく見つめないとその糸のような眼はまつ毛に埋まって見えない。
「ありぃ、ます……」
遥香は、正直に答えた。
「あの……、小さい頃に」
「うん。僕はこのゲームの中にさ、そんな世界をつくってみたんだよ」
 部長がそう言って指差したのは、遥香の座るデスクで起動しているパソコン画面であった。
 遥香をそれを見つめる……。
 そこには遥香の制作した、あの『異世界』に似たような、可愛らしいキャラクター達が歩き回っている、可愛らしいカラフルな街の映像があった。
「それはサリの理想の世界」
 部長が言った。もうその顔は微笑んでいない。実に誠実な、いつもの部長の顔に戻っていた。
「そうやって、僕はここにいる四人にそれぞれの理想の世界、つまり、行ってみたい世界というのを聞いて、それをこのゲームの中に、できるだけ再現できるようにつくってみたんだ」
 フトルが『ねね』と、しゃべりたがる。
「俺のさあ、理想の世界もさあ、そのゲームの中にあるんだよう」
 フトルがそう言ったところで、先程、ドアの方へと歩いていったサリが戻ってきた。彼女は先程と同様に、遥香の近くまで戻ってくると、『鍵を閉めてきました』と、短く部長に告げた。
「うん。ありがとう。――嘉喜、このゲームには僕も含めた五人の理想の世界がプログラムされてるんだ。僕はこのゲームで遊ぶとき、なんて…いうんだろうね」
 部長は、先程からずっと表情を忘れたままの遥香に、照れ笑いを浮かべて説明する。
「このゲーム世界の中に、入ったつもりになって…、遊ぶんだよ」
 遥香は、そこで『えー……』と、簡単にリアクションしてみた。すると、今度はフトルが何処かに歩いていった。
 メガキンが『まあまあ』と、説明をを継ぐ。
「本当に入るわけじゃないんだけど、今フトルが持ってくると思うけどさ、ヘルメットとね、ジョイスティック、という、パソコン・ゲームで使うコントローラーなんかを使って、リアルに、その世界に入ったつもりになって遊ぶんだよ。パソコンにコードを繋げたゲーム専用のヘルメットをかぶるとね? ヘルメットの中にも、これとおんなじ画面が出るんだ。つまり、よけいな景色が一切入ってこないでしょ? だから、よりいっそうゲームの世界だけに集中できるんです。つまりねえ、ゲームの世界を、本当に歩いているように感じる事ができる。――言ってる事は、わかる?」
 遥香は『あはい…、わかりぃ、ます』と答えた。遥香は僅かに笑みを浮かべたまま、パソコン画面を見たり、しゃべり手の顔を見たりと、きょろきょろと忙しい。
 部長が楽な表情で言う。
「ゲームに入るっていうか、ようはさ、無理やり入った気になるんだよ。こんな簡単なプログラム映像のゲームだけどさ、一応、理想の街、理想の世界、現実離れした設定になってんだ。ほら、僕らが設定した世界で、自分のキャラクターを動かせる、っていうのが面白いだろ? だからさ、面白いついでに、どうせ好き者同士なんだからさ、マニアックに、ゲームの世界に行ったつもりで、リアルにこの世界を楽しもうって、そうやって僕らはこの時間を楽しんでるんだ」
「でゅふ。したらこのゲーム故障しててさあ、俺達、本当に」
 フトルがそう言いかけたところで、部長が素早く、『まだ早いよ』と阻止した。
 フトルは『まだかあ』とにこやかに笑いながら、胸に抱えた二つのヘルメットと、自動車のギアのような形をした、棒が付いたコントローラーを二個程、丁寧にデスクに置いた。
「このゲームね…、鳥肌がたつぐらいに面白いの」
 サリが笑顔で遥香に言った。
 遥香は『えーマジですか、マジに? えーマジそうなんだぁー』とは言わないものの、素直な驚きの表情とそんな仕草でゲーム画面を見ていた。
 ゲーム画面には『街』のような映像が映し出されている。住宅街なのか、商店街なのか、それは素人が作った単純なゲーム画面である為にわかりずらいが、その街の中にある『お菓子の家』だけは遥香にもわかった。
 そして、その街の中心には、ピコピコと脚踏みをしたままその場に止まっている、三頭身のぐらいの女の子が二人いた。
 遥香の顔の横に、すっと腕が伸びてきたので、遥香は驚いて瞬間的に後ろを振り返る。それは部長の腕であった。
「ここに、二人のキャラクターがいるでしょ?」
 部長はゲーム画面を指差して、淡々とした説明を始めた。
「こっちの……、頭の上に『SA』って文字が浮かんでるのが、サリのキャラクター。つまり、この世界を歩く、サリの分身な。それで、こっちの頭、ほら……、赤いリボンの上に『HA』って浮かんでるのが、嘉喜のキャラクター」
 ゲーム画面でピコピコと可愛らしい脚踏みをみせている三頭身の二人は、それぞれの頭の上に、『HA』と『SA』というマークが浮かんでいた。大きなリボンを見につけている方が、どうやら『嘉喜遥香』のキャラクターらしい。
 遥香はいつそんなキャラクターを作っていたのかと、そっちの方に驚いていた。
「キャラクターの頭にはさ、『HA』って……。ほら、こんなに小さくて、顔も服もさ、よくわからないキャラ達だろう? だから、キャラの頭の上に『名前』をつけてるんだよ」
 驚いたまま口を半開きにしている遥香をそのままに、部長は言葉を続ける。
作品名:君に叱られた 作家名:タンポポ