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君に叱られた

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「嘉喜は、はるか、だから、『HARUKA』のHとAを取って、『HA』。村瀬だったら、『MURASE』で、『MU』って、キャラの頭に浮かんでるんだ。本当はそうやって見分けてたんだけどさ、わかりにくかったら、サリとのキャラの違いは、この赤いリボンで見分けてくれ。まあ、動かしてる方が自分のキャラだからさ、違いは分かると思うんだけど」
 遥香は、部長の顔を見上げた。部長は笑顔で『ね?』と言った。遥香は『はい』と頷いた。
 遥香は、実はまだよくわかっていない。つまり、『ゲームをしようよ』と、そう言われているのだ。とだけ、頭では理解出来ていた。もっと言うと、すでに頭の大半は冷房に対して『寒い』と文句を言っている。
「まあな、簡単に言っちゃえば、てか俺に言わしてみれば、旧ドラクエの、もっと愛のある世界版、って感じか?」
 村瀬はそう言って笑っている。
 メガキンも笑いながら楽しそうに言う。
「それをリアルに体験する、まあ、そんな感じだよ。家にあるゲームをただリアルに体感するのと、まあ、あまり変わらないけどね。ヘルメットがある分、リアルにはなると思うよ。かぶれば画面しか見えないから、この世界を歩いてるんだぁ、という気分には浸りやすいから」
「でもねえ、それだけじゃないんだよう」
 フトルが、いつの間にか手に持っていたポテトチップスを食べながら言った。
「まあ、俺は凄い、としか、今は言えない。言うと怒られるから。あは、あはは」

       5

「はいほら、どうぞ……」
 サリが、遥香の隣の椅子に着席しながら、遥香にヘルメットを渡した。
「え?」
 遥香はそれを受け取って、焦(あせ)って困る。とりあえず部長を見た。
「あのう~、これ、かぶればぁ、いいんですか?」
 サリはすでにヘルメットをかぶっている。口元だけ見えていて、『行くわよ~ん』とにやけていた。
 遥香はそれを横目で一瞥してしまい、怯える。
「まあね、うん。本当はゲームをする前に、幾つかの約束があるんだけど、うん。嘉喜はまだよくわからないだろうから、そのまま、まずはゲームをやってみるといいよ」
 そう言った部長は微笑んでいた。
「どう、え? これ、どうするん、だろうあの、これ、はぁ……、かぶらないと、ダメ、なんですか?」
 遥香はおどけながらも、人柄通りの真剣な表情できいた。
「初めからかぶってやった方がいいな。髪型も崩れないから、ふふん、大丈夫」
 部長は軽く笑って言った。
「その『ジョイスティック』はむかし普通に販売していたやつだから、って言っても……。そっか。あのね、握って、前に倒すと、前進。後ろに倒すと、後進。右も左も同じね、倒せば動く。歩く為にあるコントローラーだから」
 遥香は、『え、あはい』と納得しながら、コントローラーを動かしてみた。確かに、前へ動かした瞬間に、ゲーム画面のキャラクターが少しだけ動いた。――しかし、動いたのは赤いリボンをつけていない方のキャラクターである。つまりは『サリ』だと説明された方のキャラクターであった。
「え……、あれ?」
 遥香が困ると同時に、メガキンの声が聞こえた。遥香はすでにヘルメットをかぶっている。がっちりと鼻の頭までガードされた暗闇の世界には、眼を瞑りたくなってしまう程に、眩しいゲーム画面しか見えない。
「あのぅ~ね、これだけ。――嘉喜さんが動かすキャラクターは、サリのキャラだから」
「え?」
 遥香はヘルメットをかぶったままで、見えないメガキンを振り返る。
「私が嘉喜さんになって、あなたが私になるのよ」
「えぇ?」
 今度は見えないサリを探す。
「え? 私が、汐崎さんになる? んですか?」
「ゲーム世界をそのまま体験しても、まさか、本当にそこを歩いている、なんて到底思えないだろう?」
 部長の声だった。――遥香はもう顔を動かす事をやめた。そのまま、顔の向きをゲーム画面に留めたままで声に答える事にする。
「さっき言いかけた『約束』の一つで、まあ『掟(おきて)』って言ってるんだけど。――身体をね、向こうの世界では、交換する決まりになってるんだ」

 からだをこうかん?

「俺に言わせるとさあ…、価値観とかさ、考え方とか、そのまま自分の物を持っていって、『私は今ゲームの世界を歩いている』なんて、絶対無理だろ?」
 村瀬の声が言っている。
「だからさ、ここでは『パートナー』っていう奴を作って…、つまり、今なら嘉喜とサリな? ――パートナーを作って、身体とか、魂とか、つまりは考える事から、言葉遣いとかさ、そんなのを全部とっかえる事になってんだよ。嘉喜はサリになって、サリは賀喜になって、『その世界を歩いている』って思い込むんだ。自分自身でやるよりさ、嘘みたいに効き目があるんだよな? 俺だったらパートナーがデブなんだけど、『こういう時、フトルならどうやってこの街を歩くかな?』とかさ、『フトルならどうやってこの街に来れた事を感動するかな?』とかさ、そうやって相手になったつもりで『ゲームの中に来たんだ‼』って思った方が、自分のままで思い込むより、なんかリアルに受け入れやすくなるんだよ」

 リアル?

 今度は部長の声がしゃべり始める。
「心理的にね、リアルにその世界にワープできる方法というか、そんなつもりで僕が決めたんだけど、わからないだろうから……。うん。嘉喜はまず、自分のままでやってみるといいよ。動かすのはサリの分身、って事になるけど、なんせ、僕らはマニアックに慣れすぎてるからさ。いきなり僕らに合わせるのは難しいと思う」

 私は…、え? この、汐崎さんのキャラクターを動かせばいいの?

「私は、え、こっちの子を、動かしてればいいんですか?」
「うん。そうだね、うん。まあ、行っといで」

 遥香は椅子をまっすぐに調整した。視界にはゲーム画面しかないが、おそらく、実際にはパソコン画面に向いたのであろう。
 そして、見える景色だけに意識を集中する……。少しだけコントローラーを動かしてみると、ピコピコ、とキャラクターが前に動いた。
 隣からは『ふふふん』という、サリの満足そうな鼻笑いが聞こえてくる。
 ゲーム画面をよく見てみると、サリの操作している赤いリボンのキャラクターが忙(せわ)しなく街の中を歩き回っていた。隣から聞こえてくるサリの鼻笑いを合わせてそれを見ると、まるで、赤いリボンの女の子がスキップを楽しんでいるようにも見える。
「あ、嘉喜、」
「部長、話しかけちゃダメですよ」
「いや、いいんだ。――あのさ、街のキャラクター達の話を聞きたかったら、自分のキャラクターを、話したい街のキャラにぶつけてくれ。そうすると会話が始まる」
「あ、はい……」
「まあ、こっちはしゃべれねえから、一方的に聞いて、独り言を言うだけなんだけどな」
「相手によっては、ぶつかっちゃうだけだけど」

 独り言? ――遥香はゲーム画面の中で『SA』と浮かぶ女の子を動かす。すぐ近くにいた大きな人間に話しかけたかったので、その大きな人間に女の子をぶつけようと操作した。

 ドボ~ン♪ ――という異質な音が、ヘルメットの中に鳴り響いた。

「あ……」
作品名:君に叱られた 作家名:タンポポ