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新しい世界

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二人が初めて出逢ったのは高校の入学式、喧嘩自慢の堀が校内に乱入してきた酔っ払いを、体育館で羽交(はが)い絞めにした事が切っ掛けであった。正義感の新内がやり過ぎだとその場に駆け付け、二人してその酔っ払いを抑えつけたのである。世間的には取り上げられなかったが、この二人がそれ以来深い仲になった正義感という事は学校中の不良も一目置くほどに有名な話であった。その後、高校卒業を機に新内は東京の大学に進学する為に地元神奈川を出た。堀は地元大学に進学したのであった。
二人が再会を果たしたのはその四年後、夢に向かって一歩前進した後であった。
「大体、今のガキにゃあ道徳ってもんがないんだよ、すると、いや誰が悪い、やれ世間が悪い…、責任転換が始まる」
 堀は真っ赤な顔でグラスを傾ける。もうすでにグラスはカラであったが、本人はその一滴を吞んだ時点で言葉を再開させた。
「何にもわかっちゃない、野郎共はそれほどおどおどはしちゃいないんだよ、自分が何をしたのかもちゃんとわかってる。そんな奴らにどうして責任を回避してやれるよ? ざぁけんじゃねぇ!」
 カウンターの奥から他の常連の会話を見守っていた大将が、新内に対して――しんさんも大変だねえ――と言った。
「週末の暇は取っておけと、こうだもん。私はいつでも空き家ですぅ」
 堀は笑って言った。
「新内眞衣……、名前はあれ、なんつった、あれ、乃木坂か。乃木坂なのにねぇ?」
 堀はぼそりとそう呟いた後で豪快に笑った。
「私は堀で、名前は未央奈、乃木坂にいたよね昔? おんなじ名前のべっぴんさんが! こうりゃいいや!」
 カウンター奥の大将は仕方無いとばかりにそれに微笑み、新内はぽりぽりと頭を掻いた。
「そういえば未央奈、今回の事件はどうなのよ? 本題はそっちなんでしょう?」
 新内がそう言うと、堀は急に不快そうな笑みを浮かべた。
「事件なんてたいそうなもんじゃーないんだ、あれはただの殺しだよ」
「たいそうな事件じゃないか」
 新内は堀の肩にばさりと腕を置いた。
「話しなよ、その為に東京まで来たんでしょう?」
「うぬぼれなさんな」
「なに、違うの?」
 堀は眉根を引き寄せ、鼻を持ち上げる。
「あんたにただ話すんなら、今の時代ケータイっちゅう便利なもんがありやがるでしょうが」
「なら、本当にただの愚痴目的? …なら私は本当にただの空き家じゃないよ」
「ばぁか野郎、何が悲しくてあんたに会いにくんだりまで来るいい女がいるのよ、ねえ、大将」
 堀は赤ら顔をでれえと女将に向けて伸ばした。
「あたしは来週も来ますよ、来る、必ず来る!」
 大将は快(こころよ)く――約束ですよ、ほっさん――と愛想づいた。新内は溜息である。
「ああ、そそ、少年犯罪と言えば、またお嬢(じょう)が絡んでるんだよねえ?」
 新内は堀のグラスに日本酒を注ぐ。
「しっかし、不思議な因果関係とはこの事ね?」
「なぁにが因果関係だばぁろう」
 堀はすでに酔っぱらっている。はけ口はどんな切っ掛けでも構わないらしい。
「あの女は詭弁(きべん)しか口にしないじゃんか」
「立派な詭弁だ、この前もネットを覗いてみたのね」
 新内がそう言うと、堀が――ネット?――というような顔をした。
「ほら、お嬢が普段、何だかの団体さん達と少年犯罪について話し合っているっていう、あれ。インターネットの」
 堀が軽く――ああ、――というような顔をした。
「立派な意見だったなあ、あれで私達より五つ下なんでしょう? いやあ、立派じゃない」
「立派なもんかってーの、二十歳そこそこのガキに何が解るってんだょ…ったく」
 堀は顔を背ける。
 いつの間にか煙草を吸い始めていた大将が――その子はまだ二十歳なの?――と尋ねた。
「いやいや、もう確か三十手前の立派な大人だよ。この子にかかると何でも適当な四捨五入になっちゃうんだから」
 新内は苦笑した。
 ――それは誰なんだい? 警察の人? ――大将がそうきいた。
「鈴木(すずき)絢音(あやね)、少年犯罪の殺人課にこの人在りと言われた、心理ケアマネージャーよ」
新内はなぜか自慢げに説明した。
「犯罪を犯した子供達の、心のケアを目的とした職務についてる子なの」
「乃木坂サーティーンじゃあるまいし、鈴木絢音も確かいるのよ、乃木坂に。漢字が違うだけで、私らそろって乃木坂サーティンです、ってか? そんな最もな説明はいらないーんだよ」
 堀は意味不明な言葉を吐く。やはりグラスは握られたままであった。
「いやあ、あっしがしんさんにきいたんですよ?」
 大将はそう言って、新内に頷いた。
「有能な人なんだねえ?」
「有能だなー、あの子は。――それに、のぎなんとかは知らないけど、それどうせサーティーンじゃないでしょ。ゴルゴでしょそれって。まいっか。あの子は、有能よー」
 新内は満面の笑みでうんうんと頷いた。
「私が未央奈に紹介したんですよ。彼女とはネット仲間でねえ、もうかれこれ五年来の付き合いになるのかなあ?」
 ――そおんなに? ――と大将は煙草をふかした。
「意見に筋が通ってるというかぁ、彼女の言葉には心があるのよ。世間に流されて一般的に少年犯罪を見つめていないというか……」
 ――当たり前だろ――堀が言った。
「奴はその専門なんだから、一般的な事をぽんすかもらされちゃあたまったもんじゃないわよ」
「いやいや、そういう事じゃない。――私は、彼女の発する言葉の中に、何か深い、うん、何かを感じるのよ」
 新内はそう言って、グラスをぐいと傾けた。
「そういえば、この前そのネットでも、何か彼女の過去にあったような…、そんな事をもらしていたな」
 堀はぴくりと耳を反応させる。完全な赤ら顔に似合わず、これは職業病であった。尚、大将はすでに他の客を相手に煙草をふかしている。
「過去に何かあった? ――それどういう意味よ?」
 堀は久しぶりに新内と向き合った。
「いや、直接私がチャットしてたわけじゃないから、そこは何ともなんだけど、うん。よくはわかんないけど、確かそんなくだりがあったような気がしたよ」
 そう言って、新内はすぐににんまりと堀を見て微笑んだ。
「なになにい? そんなに気になる事を私は言いましたかあ?」
 ――ふん――と鼻を鳴らす堀。大将が戻ってきた。
「なによなによ、何を盛り上がってるんだい?」
「いやねえ、この子がそのお嬢の事を本当は気に入ってるそうなんですよ」
「ばぁかな事を」
 堀は軽く指先であしらった。
「署内で唯一少年犯罪に時間を掛けたがる、二人のうち一人だもんねえ?」
 大将は――ふうん――と涼しい顔。
「絢音は署の人間じゃあないよ、あいつはちとでしゃばり過ぎだ」
 堀は中途半端に新内を見て言う。
「心理カウンセラーだかケアマネージャーだか知んないけどね、ガキのやった犯罪は大人の責任なんだ、言葉を返せば、それは大人がガキに諭(さと)す事なのよ」
「お嬢は立派な大人じゃないの、」
「べらぼうな事をいうもんじゃないよあんた」
 堀は眉間に力を込めて抑揚深く言った。
「二十歳を超えて八年そこそこの生卵じゃないの、カツンと叩いたら割れちゃうようなもんに、そんな大事な事がわかるわけがない」
作品名:新しい世界 作家名:タンポポ