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未来卵

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「素敵な比喩(ひゆ)ですね。歌詞にしても素敵です。未来卵には、絶対に未来がつきものですから」
 磯野波平は腕組みをして、脚も組み、ソファにふんぞり返った。
「まあやちゃんが、乃木坂、卒業ってよぉ……。ちと、大事件なんじゃねえの? ひょっとして……」
 姫野あたるは顔面を険しくさせて激しく立ち上がった。
「だからぁ、大事件なんでござるよぉぉっ‼」
「わかってるから。とりあえず座れ……」
 風秋夕が嫌そうな顔で言った。姫野あたるは、しぶしぶと着席する。
 〈レストラン・エレベーター〉に届いたカボチャのかき氷を、稲見瓶が秋元真夏の元へと丁寧に運んだ。
 広大なフロアに、ルトリシア・マクニールの『エイント・ザット・ジャスト・ザ・ウェイ』が流れている。
 秋元真夏は笑顔で言う。
「ありがと。そ、私と飛鳥、二人になっちゃうねって。いっつも言ってる」
「いっつもは言ってないでしょ」
齋藤飛鳥はすぐさま訂正した。キャビアとイクラを載せたサワークリーム・クッキーを食べながら呟く。
「発表だって最近なんだから」
 和田まあやは舌を出して、それを片手で扇(あお)ぎながら言う。
「つぉつぎょうってねえ、なーんとなく、時期とか考えてたんょ……。でも、手づかみがあったから、卒業するとかでもなくぅ、……んーなーんてんだろ、手づかみとかじゃなくう、もういいかな、て感じに近いのかもね」
「11年とか、決意には関係あるのかな」
 稲見瓶が、感慨深そうに呟(つぶや)いた。
「通常の業務でも、安易な心構えでは11年は続かない……。卒業をいつ意識し始めたのかとかは聞いた事ないけど、11年、まあやちゃんは乃木坂である人生を継続させたんだ。それは絶対に、簡単な事じゃない」
 齋藤飛鳥はぽりぽりと食事を続けながら、きょとんとした真顔で和田まあやを見つめている。
秋元真夏は耐えられずに、疑問形の表情で和田まあやにきく。
「まあや。ねえ手づかみ、て何?」
「え?」
 和田まあやは、右手をわしゃ、とさせて、すっとんきょうに答える。
「手づかみ、でしょう?」
 風秋夕は〈レストラン・エレベーター〉から、彼女達の新たなドリンクをトレーに載せて戻ってきた。フロアにはライオネル・リッチーの『アイ・コール・イット・ラブ』が流れていた。
 風秋夕は笑いながら言う。
「手づかみ、じゃなくて、手応え、じゃなくて?」
「あ手応え? あそう、それそれ」
 和田まあやは苦笑した。秋元真夏は鼻筋に皺を走らせて爽やかに笑い、齋藤飛鳥もくすり、と苦笑していた。
「11年は伊達(だて)じゃない、だっけか?」
 風秋夕はソファに腰を下ろして、眼を優しげに笑わせた。皆が彼を見る。
「継続は力なり。重要なのは、結果じゃなく、その過程(かてい)にある、て訴(うった)える人も少なくない。逆に言えば、過程を経(へ)ずして結果は無い。結果出さなきゃ意味ない、てドゥ・マイ・ベストの歌詞にもある。どの方向から指(さ)し示(しめ)しても、乃木坂っていう無敵の夢想の中で費(つい)やした11年は、最強の証だよ」
 磯野波平は、下唇を噛んで、静かに和田まあやを見つめる。
 駅前木葉は、金色(こんじき)に輝くターメリック・ラテ(ゴールデン・ミルク)を手に取り、それを両の手の平で胸元に抱えて、聖母のような表情で囁く。
「まあやちゃんは、気高(けだか)いわ。誰よりも、乃木坂の、そしてファン達の、微笑みを生んだ人ですから……。不思議とまあやちゃんには、下品なジョークなんか、皆さん言えないでしょう? それも不思議な感覚だと思いませんか? 笑いの神のようなお人が、下品なジョークを好まない、というのが」
「下品ってのはこいつの事?」
 風秋夕は、磯野波平をあごでさして言った。磯野波平は、和田まあやを見つめたままである。
「性的なジョーク、などの類(たぐい)ですね。この場合は。軽いノリが通じるまあやちゃんですが、なぜか、まあやちゃんには、なんか、なんとなく、そういったものは口に出しにくいですよね? わかりますか?」
 駅前木葉は皆の顔を見回す……。
「あのね、」
 稲見瓶は小さく手を挙げて、駅前木葉に笑みを浮かべて囁く。
「まあやちゃんは、何かの番組の配信中にね、次回の配信メンバーを紹介する時に、風変わりな紹介の仕方をしようとして、次回のメンバーの名前を逆から読んで紹介したんだ。でね、寺田蘭世ちゃんの事を紹介しようとして、ぜんら、と口走って、爆笑した実績がある」
 和田まあやは「違う、違うの」と大笑いする。秋元真夏と齋藤飛鳥も笑っていた。
 姫野あたるは、尊そうに眼を細めて言う。
「まあやちゃん殿は、生放送中のお題で、猿を描く、というお題に対して、金玉のある猿を描いたでござる……。みな、他のメンバーはドン引きでござったなぁ……」
 秋元真夏は「ちょとまあや?」と驚いている。齋藤飛鳥は苦笑し、和田まあやは「ちぃがぁう、それも違う!」と笑っていた。
 風秋夕は、懐かしそうに囁く。
「フルーツポンチを、逆さまにすると? ていう問題の時にも、まあやちゃんは何やらを頭の中で思い浮かべて、爆笑してから、これって大丈夫な問題? て笑ってた……」
 駅前木葉は、深く納得を漏らす。
「確かに……。というと、まあやちゃんには、下品なジョークは通用するという事ですね?」
 稲見瓶と風秋夕は頷(うなず)いた。和田まあやはにやつきながら「いや、そんな事はない」と小刻みに手を横に振っていた。
 秋元真夏は興味深そうに言う。
「え、フルーツポンチの正解って何?」
 風秋夕が答える。
「たぶん、こぼれる、だろうな。フルーツポンチを逆さまにすると、こぼれちゃうでしょう? 下に落ちる、とも言うけど」
 姫野あたるは、豪快にクリアアサヒを呑みん込んだ後で、呟く。
「小生はフルーツポンチでござる! 逆さまにすると、涙がこぼれるでござるよ! まあ、ある意味ではここにいる全員がフルーツポンチでござるけど」
「それすっごいやだ」
 風秋夕は表情を険しくさせた。
「女子は勘弁して……。頼むから。いらないそれ」
「何の事でござる? なぞなぞでござるか?」
「まあやちゃんよぉ……」
 磯野波平の小さな声に、和田まあやは気がついた。「ん?」と、和田まあやは磯野波平を見つめ返した。
 周囲は賑やかに騒いでいる。
「シュガー君、元気にしてっか、まあやちゃん……」
 和田まあやは微笑んだ。
「うん。元気ぃ~」
「俺は、まあやちゃんの、愛犬になったって、いいんだぜ?」
「え?」
 和田まあやは、きょとん、とする。
 磯野波平は、笑みを浮かべそうな、真剣な眼差しであった。
「愛犬にしちまうか? 俺の事……。俺は、まあやちゃんなら、いいぜ……」
 風秋夕は、小さく溜息をついて、和田まあやに聞き取れるようにしゃべり始める。周囲は別の話題で賑やかだった。
「愛情表現へたくそかよ………。軽く変態だぞ、その言い方じゃあ……」
「て~めえは人の気持ちを!」
「要はさ、まあやちゃんが望むんなら、まあやちゃん一人のファンになったって、悔いはないんだぜ、て言ったのよ、こいつは……。卒業するの、寂しがってないか? ってさ……。それも、簡単には、言ってないのかな」
作品名:未来卵 作家名:タンポポ