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未来卵

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 もがけばもがくほどに食い込み、痛みという苦痛よりも厳しく、孤独な世界に、気がつくと僕は佇(たたず)んでいた。
いつからか、僕はそれを受け入れようとしながら、流されるままに、その路を歩いていた……。

雨がどんなに降ったって、もしそれが運命なら、ずぶ濡れのまま歩いてやる。

そう思い続けるしか選択肢の見えなかった僕に、とある奇跡が起きた。
半分大人になった頃に、その形のない声は僕に手を差し出したんだ……。

君は、君は、いつの間にやら、大人になっちゃいないかい。
埃(ほこり)をかぶったボロ着の右ポッケに置いてきた、片手に収まる冒険、僕らの全てだった、あの頃の思い出が、君を探しているよ……。

 オモチャのヒーローはもう無いけれど、僕の第二の冒険が始まった……。
 それが、僕と乃木坂46との、最初の出逢いだった。

「11年間の大冒険記……。小生、しかと受け止めた! 楽しかったぁぁ……、幸せでござったぁぁ……。手に汗握って興奮したでござる……。永久(とわ)の、恋を、したでござる……」
 夏男は、愛を込めて泣いているその男を見つめて、どうしようもなく、微笑んだ。
「知らぬ間に、信じられぬほど知らぬ間に……。ずいぶんと、大人になっていたのでござるなぁ……。ひなちま殿、まあやちゃん殿、世界で一番かっこ悪い、どうしようもないファンでござったけれど。ありがとう――。そして、初めまして……。今日からまた、君達に恋します……」

       7

 地下六階の〈無人・レストラン〉一号店にて、この日、和田まあやと樋口日奈は夕食を取りに訪れていた。二千二十二年九月某日である――。姫野あたるが卒業に対し恒例となっている秋田県への旅行を決行してから、すでに二日目となっていた。彼が帰ってくる様子はまだない。
 そんな事を話題にしながら、和田まあやと樋口日奈はメニュー表をメニュー立てに立て直して、電脳執事のイーサンに清涼寿司・秀(しゅう)と、冷やし中華・麗(れい)を注文した。
 店内にはイヴの『ギャングスタ・ラヴィン』FEAT.アリシア・キーズが流れている。
「ダーリンな~んで秋田行くんだろうね。秋田出身なのかな?」
 和田まあやは鞄の中を漁(あさ)って飲料水を探しながら呟(つぶや)いた。
「あれじゃない? なんか、なつお、さん? て人がいるからだって聞いたよ。ダーリンの心の師匠だって」
「えー、そうなんだ」
「うん」
 樋口日奈はなんとなく、店内を見渡しながら頷いた。
「えーなんか夕君、いじめられたらしいよ、うちらと出逢うまで」
 和田まあやはそう言って持参している飲料水を飲んだ。
「え。うちらと出逢うまで? て事は、四年前ぐらいまで?」
「違う」
「えー?」
 和田まあやは微笑みながらも、真剣に話す。
「うちらがデビューした時まで、って事……。なんか、そうらしいよ? 貧乏(びんぼう)だったんだって、うちが。なんかその時、母子家庭で、無理して塾とか習い事とか行かせてもらえてて、その、学校じゃないところで、いじめが始まったって……。自分達上流家庭の来る塾に、相応(ふさわ)しくない奴がいる、て」
「いじめって……、無視されたり?」
 樋口日奈は表情を少しだけ険しくさせた。
「ううん、もっと……。壮絶(そうぜつ)ないじめでえ……、もう一人一緒にいじめられてた親友がいて、そっちの子は自殺しちゃったんだって。夕君に、ごめんね、て、手紙残して……」
 樋口日奈は首を引いて、改めて表情を険しくさせた。
 和田まあやはまた飲料水をちょこちょこ飲みながら、会話を続ける。
「え知らない? イナッチもなんだよ? イナッチもいじめ受けてたんだってよ」
「イナッチも?」
「イナッチは頭がよくて、女子にはモテてたらしいんだけど、それがたぶん原因? かなんかで、学校の男子ほぼ全員がいる場で、不良達にぼっこぼこに一度されてるらしい……。みんなが見てる前で、だよ? ねえひどくない? 事件だよね?」
 樋口日奈は怪訝(けげん)そうに言う。
「え、だって、小学六年生、ぐらいでしょうだって………、うちらがデビューしたのって、イナッチ達が」
「たぶんそんぐらいじゃあん?」
 和田まあやはそう言うと、真顔で手を上げて、店内の奥の方を見つめた。
 樋口日奈はふいに吹き出す。
「んふ。いないから、まあや」
「あそ、あそっか……。間違えた、イーサン」
 しばらくして、テーブルに付随している〈レストラン・エレベーター〉に冷やし中華・麗と清涼寿司・秀が届いた。
 店内に、リル・フリップの『サンシャイン』が流れる。
 和田まあやは食事を開始させながら、話題を復活させる。
「イナッチはね、その時まだ夕君達と知り合ってなかったんだけど、夕君と波平君は生まれた時から親同士が仲良くて、なんか、友達なのかな? なんか知り合いだったんだって。でえ、夕君はいじめの事を学校の誰にも言わないし、親にも言わないし、波平君にも言わなかったんだって。その後、親友が自殺しちゃった事で、事実が明らかになって……。怒ったのは波平君だったらしくて、なんで言わねえんだ、そんなん俺が殺してやったのによお、みたいな?」
 樋口日奈は冷やし中華・麗を大口で堪能しながら、真剣な眼差しで、頷きを返しながら聞き入る。
 和田まあやは清涼寿司・秀を食べながら続ける。
「夕君は、親友の子がね? たった一人の母親を悩ませたくない、てね、ノイローゼ気味のお母さんだったらしいんだけど、そのお母さんを余計に悩ませたくないから、夕君にも、絶対に誰にも言わないでくれって、誓ってくれって、約束してきたんだって……。二人でいじめを切り抜けよう、って……。だから夕君、最後まで誰にも言わずに、いてえ。波平君と、その時に仲違(なかたが)いしたみたいなんだけど……。中学に上がってからは、波平君も夕君も、学校も違うままだし、互いにケンカ? タイマン? はったりするぐらい友達じゃなかったって、言ってた」
 樋口日奈は笑った。
「誰が言ってたの?」
「ダーリン」
 樋口日奈は、閃(ひらめ)いたように微笑む。
「あそっか、わかった。わかったよう……。乃木坂が、また二人を繋いだんだ?」
 和田まあやも笑った。
「そおう! そうみたい……。イナッチともそのぐらいに、高1? とかの時に出逢ったって……。ダーリンも駅前さんも、みんな同時に知り合ったみたいだよ、乃木坂きっかけで」
 樋口日奈は視線を逸らして、感慨深く呟く。
「なぁ~んか……。あるんだねえ~~、そういう、ストーリーみたいなのがぁ~~」
 和田まあやは「う~んあるねえ~」と寿司を食らう。
 店内のBGMのボリュームがしぼられ、電脳執事のイーサンのしゃがれた老人男性の声が店内の二人を呼んだ。
 電脳執事のイーサンの呼びかけによると、どうやら、風秋夕と磯野波平が、そちらに合流してもいいか? という内容であるらしい。
 店内の二人は気さくにOKと答えた。
 数分後、風秋夕と磯野波平は、ビーチボールを片手に、水着姿で地下六階の〈無人・レストラン〉一号店に現れた。

       7・5
作品名:未来卵 作家名:タンポポ