未来卵
「世界で一番、というフレーズがカッコイイし、楽曲もそのかっこよさに相応しいよね」稲見瓶は微笑んだ。
「世界で一番孤独なラバーっつうぐれえだから、つまりぃ……。まあやちゃん大好きだぞぉーーっ!!」磯野波平は叫んだ。
「おおおむっちゃくちゃ好きでござるうう~~っ!」姫野あたるは大興奮する。
「おおお、おいらも、好きだ~~っ……」比鐘蒼空は、姫野あたるの様子をちらちらと見ながら己も叫んでいた。
「まあやちゃーーーん!!」来栖栗鼠は高い声で叫び上げる。
「あーあーやーちゃーーーっん!!」天野川雅樂も大声で夢中で叫んだ。
「ああ、まあやちゃんが素敵すぎます!」駅前木葉は興奮して涙する。
「まあやちゃん……。まあやちゃーーん!」御輿咲希は涙ながらに叫んだ。
「時代を跨(また)いでなお、名曲よね~~」宮間兎亜はにんまりと嬉しそうに微笑んでいた。
和田まあやのセンターで『制服のマネキン』が始まる――。いつの間にか、メンバー達は紅のミニスカートの衣装に変身していた。
「生駒ちゃん、聴いてるか!」風秋夕は微笑んだ。
「制服のマネキンか、これはぐっとくるね……」稲見瓶は、必死に巨大スクリーンを見つめる。
「すげえよなー、制服のマネキン今聴いてもちゃんっといいもんな~!」磯野波平は興奮する。
「いやいや、カッコイイでござるよ~ぉぉ‼」姫野あたるは感動していた。
「これがアンダーの力……」駅前木葉は、それから言葉を失う。
「制服のマネキン……、おいら、好きだ……」比鐘蒼空は圧倒されていた。
「来栖、やべえなこの制服のマネキンっっ!」天野川雅樂は興奮して来栖栗鼠に言った。
「まあやちゃーーんっ!!」来栖栗鼠は無我夢中で叫んだ。
「ヤバいですわ、鳥肌が止まりませんですの!」御輿咲希は嬉しそうに笑う。
「鳥肌なんてあたいもうしょっぱなから出っ放しよう~」宮間兎亜は可笑しそうに笑った。
伊藤理々杏のセンターで『日常』が開始される――。青一色のステージとオーディエンスの青一色のサイリュウムのシンクロニシティ。
「よお、きいちゃんよぉ。聴いてっかあ!」磯野波平は豪快に笑った。
「ちゃんと受け継がれてるよ、きいちゃん」風秋夕は笑顔で囁(ささや)いた。
「凄い、迫力だ……」稲見瓶はしっかりと乃木坂46を見つめる。
「ちゃんと全員が見えるでござる! これもこのライブの良さ! あっぱれ! でござる!」姫野あたるは大興奮の渦に身を任せていた。
「きいちゃんさん、歌っていますよ、乃木坂は……」駅前木葉は、涙をこぼした。
「日常ヤベえし……、ぞっくぞくだな来栖?」天野川雅樂は来栖栗鼠に振り返って笑った。
「うん! 日常はやっぱこうでなくっちゃあね~!」来栖栗鼠は満面の笑みで笑った。
「迫力がありますのっこの曲には! 気持ちが入りますの、こっち側も!」御輿咲希は大興奮する。
「すっごいわね~、聴きたい曲全部やってくれんのね~、感謝感謝!」宮間兎亜は巨大スクリーンに眼を釘付けのままで、にんまりと笑った。
「すっげえ………」比鐘蒼空は陶酔(とうすい)していく……。
和田まあやの『ありがとうございます』で、次の楽曲が最後であると告げられた。
息を切らせる彼女は、『今を生きてるって凄い素晴らしい事だなと思っていて』と語りかけ、声を詰まらせながら『あまりみんなには話した事ないんですけども。私は生まれてすぐに大きな病気になりまして、もう病院の先生には助からないと言われていたんです』と告白。その辛さゆえに母親から『この病院のベランダから一緒に飛び降りようと思ったぐらい』と言われた事も打ち明け、『でもお母さんは強いですね。家族のサポートを受けながら、必死に私の病気と闘ってくれました……』と振り返った。
毎年、母親から『健康に生きてくれているだけで、凄く嬉しいよ』と言われると明かし、『20歳ぐらいまでは病院に通っていたんですけども『もう何も心配はない』と言われ、とても今、健康に生きているんですけども、明日が来るって当たり前じゃないなと……。私は誰よりも、たぶん強く心の中で思っていて。こうして、みんなと、出逢えて、良かったなと、卒業が近づく度に、凄く思います』と結んだ。
『私は、そうですね、保育士になりたくて、ダンス教室に通っていたんですけど、そこで夏の思い出にという事で、乃木坂46のオーディションを受けました。おばあちゃんからは、『東京に出すなんて』と、お母さんやお父さんは言われたと、思います。ですが、両親は、私達のわがままで、私が後悔している姿を見たくないと、東京に出してくれました。そのおかげで、私は乃木坂に入って、こんなにも、素敵な人達に出逢う事が出来ました』
『沢山、辛い事もありましたけど、振り返ってみたら、凄く素敵な、青春だったなと、13歳から24歳になって、この11年間、沢山乃木坂に捧げてきました。全然間違ってなかったし、みんなを信じて、自分を信じてやってきて良かったなと、こんな景色が、見れてる事に、自分でもびっくりです』
『そうですね、なんかみんなも、辛い事とか投げ出したい事あると思うんですけど、私は逃げ出さず頑張ってきて良かったなと思えるので、みんなもきっと『明日お仕事だな』とか、辛い事いっぱいあると思うんですけど、『今日楽しかったな』『うわぁ生きてる。幸せ~』って声に出して言ってみたら、きっとその日はいい日になると思うので、明日からみんなハッピーに、それぞれ歩んでくれているといいなと、思っています……』
『ここのMC全然考えてなくて、伝わったかどうか、凄く不安なんですけども……、みんながサイリュウムを黄色にしてくれてて、サイリュウムを、ありがとうございます』
オーディエンスの拍手が上がる……。
『なんかしゃべれてたかな? わからないんですけど。ファンの皆さんには、なんか私は、なかなか恩返しができなかったんですけれども、今、恩返しできてるんじゃないかと。最後まで、まさか私がセンターに立つと絶対に思っていなかったと思うし、私も思っていなかったので、最後こんなに素敵なステージを用意してもらって、集まってくれてとても感謝しています。ありがとうございます』
『最後、全力で、私達の気持ちを伝えたいと思います……。それでは聴いて下さい』
『アンダーズラブ』
『アンダーズラブ』が始まる――。センターは、和田まあやである――。
来栖栗鼠は炎に飛び込む蝶(ちょう)のように、まっすぐにステージを見つめる。
すっごいよ、まあやちゃあん。ずっとずっと見たかった、まあやちゃんのセンターだ。
未来ある乃木坂メンバー達を従えて、まあやちゃんが真ん中に立つこの楽曲が、僕は大好きだよ。
まあやちゃんは功労者だよね。このセンターというポジションを貰うの事が、どんなに苦労で、大変な事なのか、僕は知ってるつもり。
僕はね、明日死んでもいいつもりで、今日を生きてるんだ。だから、さっきまあやちゃんが言った生きてるだけで幸せだなって気持ち、いっぱいいっぱいわかるよ。
僕には妹がいる。お父さんがいる。だけど、お母さんがいない。お父さんは労働者で、朝が早く、夜寝るのが早いんだ。だから僕は妹との記憶しかほとんどない。